高齢心不全患者におけるFrailty Indexの包括的フレイル指標としての有用性

― 心不全患者における至適フレイル評価指標の検討 ―

学校法人 順天堂

順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の藤本雄大 大学院生、末永祐哉 准教授、鍵山暢之 准教授、前田大智 非常勤助教、堂垂大志 非常勤助教、砂山勉 非常勤助教、南野徹 教授らの研究グループは、高齢心不全患者におけるFrailty Index(フレイル インデックス)(*1)の包括的なフレイル指標としての有用性を明らかにしました。心不全患者においては、身体的・社会的・認知的フレイルの有病率は高く、それらの合併が予後を悪化させることが知られていますが、その一方で心不全患者におけるフレイル(*2)の至適評価手法は世界的にも確立されておりません。本研究は、順天堂大学が主導したFRAGILE-HF試験(*3)の多施設レジストリデータ(*4)を用いて、欠損累積モデル(*5)に基づいた単一指標であるFrailty Indexが、高値であれば身体的・社会的・認知的フレイルそれぞれの合併と関連しており、また心不全患者における独立した予後予測因子であることを明らかにしました。本成果は、今後の包括的なフレイルの至適評価指標の確立に関連する重要な報告と考えられます。

■本研究成果のポイント

  • 高齢心不全患者においてFrailty Indexの値が高値であれば認知的・社会的・認知的フレイルのそれぞれを多く合併していた。

  • 高齢心不全患者においてFrailty Indexの値が高値であればあるほど、2年間での死亡率が有意に高かった。

  • Frailty Indexは心不全患者の全死亡予測既存モデルに対して付加的な予後予測能(*6)を有していた。

 

■背景

心不全の患者数は年々増加の一途を辿り、世界的にも重要視されています。その心不全患者総数の増加は、国内においては高齢心不全患者の増加に起因するといわれています。高齢心不全患者においては、併存疾患としてフレイルが注目を集めており、フレイルを合併した心不全患者は予後が悪いことが知られています。一般的に想起されやすい身体的フレイル(歩行機能の低下等)だけでなく、社会的・認知的なフレイル(独居や認知症等)を含めた包括的なフレイル評価が重要とされていますが、その包括的なフレイルを評価する最適な指標は確立されていないのが現状です。本研究は、高齢心不全患者において欠損累積モデルに基づくFrailty Indexにおける、包括的なフレイル指標としての有用性や予後予測能を検討することを目的として実施しました。

 

■内容

本研究では、2016年から2018年の間に、国内15施設において、急性非代償性心不全で入院となり独歩退院可能となった、65歳以上の心不全患者を前向きに登録し、そのデータを統計的に解析しました。

対象となった高齢心不全患者1027人の平均年齢は81歳、男性が58%、Frailty Indexの中央値は0.44でした。Frailty Indexが高値であった患者は、高齢で男性が多く、併存疾患の合併を多く認め、さらに身体的・社会的・認知的フレイルの合併をそれぞれ多く認めました。2年間の追跡の間に、死亡は205人に発生しました。単変量Coxモデル・多変量Coxモデルのいずれにおいても、Frailty Indexは有意に死亡と関連していました。また、心不全患者の死亡を予測する既存のリスクモデルにFrailty Indexを追加したところ、予後予測能の改善を認めました(図1)。このモデルは、表現型モデル(*7)で示されたフレイルの数を既存モデルに付加した場合と比較して、同等の予後予測能を有していました。

 

 

以上の結果より、Frailty Indexは単一指標でありながら、その値の高値が身体的・社会的・認知的フレイルの合併を反映しており、また既存のリスクモデルに対する付加的な予後予測能を有していたことが分かりました。

 

■今後の展開

今回の研究では、Frailty Indexが包括的にフレイルを評価する指標として適切である可能性が示唆されました。しかし、日常臨床においてすべての患者にFrailty Indexを用いた評価をすることは難しく、包括的なフレイルの評価指標のゴールデンスタンダードとなるためにはさらなる検討が必要だと考えられます。本研究の結果より、フレイル合併の高齢心不全患者の予後改善を目的とした研究が進むことが期待されます。

 

■用語解説

*1 Frailty Index(フレイル インデックス):能力障害、疾病、症候の数を単純に加算し、フレイルの有無(あるか無しかの二分割)ではなく、0-1の数字として連続的にフレイルを評価した指標のこと。

*2 フレイル:加齢とともに心身の活力が低下し、複数の併存疾患などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態。一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態のこと。

*3 FRAGILE-HF試験:高齢心不全患者における身体的・社会的フレイルに関する疫学・予後調査 ~多施設前向きコホート研究~

*4 多施設レジストリデータ:特定の疾患に関する様々なデータ(患者数、検査結果、予後など)を調査するため、複数の病院において、特定の疾患に罹患した患者を網羅的に登録したデータのこと。

*5 欠損累積モデル:複数のドメインからなる30以上の高齢者特有の症状、兆候、問題を検討し、0-1の実数に換算しフレイルを判定する方法。

*6 予後予測能:患者の医学・心理・社会的背景等から今後の経過の予測を可能とする性質。

*7 表現型モデル:身体的・認知的・社会的フレイルをある診断基準に基づいて、あるか無しかの2分割で判断するモデルのこと。


■研究者のコメント

これまで、心不全患者におけるフレイル指標間の比較をした論文は少なく、今回の研究により、包括的にフレイルを評価する至適手法が確立される一助になれば幸いです。今後も超高齢化社会の課題を一つ一つ乗り越えるための研究を継続したいと思います。

 

■原著論文

本研究はCanadian Journal of Cardiology誌のオンライン版に2023年11月23日付で公開されました。

タイトル: Association and prognostic value of multi-domain frailty defined by cumulative deficit and phenotype models in patients with heart failure

タイトル(日本語訳): 欠損累積モデルと表現型モデルによる多面的フレイルの関係性とその予後予測能について

著者: Yudai Fujimoto 1), Yuya Matsue 1), Daichi Maeda 1), Nobuyuki Kagiyama 1), Tsutomu Sunayama 1), Taishi Dotare 1), Kentaro Jujo 2), Kazuya Saito 3), Kentaro Kamiya 4), Hiroshi Saito 5), Yuki Ogasahara 6), Emi Maekawa 4), Masaaki Konishi 7), Takeshi Kitai 8), Kentaro Iwata 9), Hiroshi Wada 10), Masaru Hiki 1), Takatoshi Kasai 1), Hirofumi Nagamatsu 11), Tetsuya Ozawa 12), Katsuya Izawa 13), Shuhei Yamamoto 14), Naoki Aizawa 15), Kazuki Wakaume 16), Kazuhiro Oka 17), Shin-Ichi Momomura 17), Tohru Minamino 1)18)

著者(日本語表記): 藤本 雄大1)、末永 祐哉1)、前田 大智1)、鍵山 暢之1)、砂山 勉1)、堂垂 大志1)、重城健太郎2)、齋藤和也3)、神谷健太郎4)、斎藤洋5)、小笠原由紀6)、前川恵美4)、小西正紹7)、北井豪8)、岩田健太郎9)、和田浩10)、比企優1)、葛西隆敏1)、長松裕史11)、小澤哲也12)、井澤克也13)、山本周平14)、相澤直樹15)、若梅一樹16)、岡和博17)、百村伸一17)、南野 徹 1)18)

著者所属:1)順天堂大学、2)西新井ハートセンター病院、3)心臓病センター榊原病院、4)北里大学、5)亀田総合病院、6)国立病院機構呉医療センター中国がんセンター、7)横浜市立大学、8)国立循環器病研究センター、9)神戸市立医療センター中央市民病院、10)自治医科大学附属さいたま医療センター、11)東海大学、12)小田原市立病院、13)松井ハートクリニック、14)信州大学、15)琉球大学、16)北里大学メディカルセンター、17)さいたま市民医療センター、18)AMED-CREST

DOI: 10.1016/j.cjca.2023.11.020

 

FRAGILE-HF研究は2017年度ノバルティスファーマ研究助成、および第42回日本心臓財団研究奨励の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。

なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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