調査データからみる 「子ども・若者の意識」―選挙・投票小学生~高校生の8割が「18歳になったら選挙の投票に行く」と回答
2017年10月22日、「第48回衆議院議員選挙」が実施されます。今回の選挙は、選挙権をもつ年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げる「改正公職選挙法」の可決・成立(2015年6月17日)から2度目の国政選挙です。最初の国政選挙であった「第24回参議院議員通常選挙」(2016年7月10日)の20歳未満の投票率は、18歳が51%、19歳が40%(総務省、全数調査)となり、全体平均の55%を下回る結果でした。かねてより若者の「選挙ばなれ」は指摘されていましたが、20歳代の若者の投票率は全体よりも低い傾向にあります。
一方で、株式会社ベネッセホールディングス(本社:岡山市)の社内シンクタンク、ベネッセ教育総合研究所の調査では、小学生から高校生の8割が「18歳になったら選挙の投票に行く」と回答するなど、実際の若者の投票率に比べて投票への意欲が高い傾向がうかがえます。子どもの投票への意欲は高いのに、18歳になっての投票率が低いのはなぜでしょうか。
調査データから読み取れる選挙・投票に関する「子ども・若者の意識」について、ベネッセ教育総合研究所・副所長の木村治生が解説します。
●小学生~高校生の8割は「18歳になったら選挙に行く」と回答
東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で行っている「子どもの生活と学びに関する親子調査2016」によると、小学生~高校生の約8割が「18歳になったら選挙の投票に行く」と回答しています(注目データ①)。実際の若者の投票率に比べ高い傾向にあり、選挙・投票への関心の高さがうかがえます。
●「政治は難しい」という意識が「選挙に行く」気持ちを抑制
それでは、何が子どもたちの選挙に対する思いを低下させるのでしょうか。その一つに、「政治は難しい」という思いや「自分には社会は変えられない」といった無力感がありそうです。
注目データ②を見ると、「政治のことは難しくてよくわからない」に「そう思う」(「とてもそう思う」+「まあそう思う」の合計)と回答したのは、小学生で81.7%、中学生で79.1%、高校生で76.4%と8割前後の高い比率でした。また、「自分ががんばっても、社会を変えることはできない」についても、小学生52.3%、中学生59.7%、高校生64.8%が「そう思う」と回答しました。
そこで、2つの質問について、肯定する群(「そう思う」)と否定する群(「そう思わない」)に分けて「18歳になったら選挙の投票に行く」かどうかの回答をみたところ、注目データ③のような結果が得られました。小学生、中学生、高校生ともに同様の結果なので、ここでは高校生のデータを示します。図からは、「政治のことは難しくてよくわからない」「自分ががんばっても社会を変えることはできない」と考えていると、選挙に行こうという意欲が低くなることがわかります。
さらに興味深いのは、保護者の影響です。この調査では、子どもの保護者にも選挙についての意識をたずねているのですが、保護者が「次の選挙の投票に行くと思うか」に対して「行く」つもりと考えていると、子どもも「18歳になったら選挙の投票に行く」と考える傾向があることが分かりました(注目データ④)。しかも、保護者が「行かない」と考えているケースよりも、31.9ポイントもその比率は高いのです。保護者が政治に関心を持っているかどうかが、子どもの選挙に対する意識に強く関連していることを示しています。
●大学生は自宅住まいかどうかで投票行動が異なる
ちなみに、大学生には、また違った課題があります。それは、住まいが自宅かそれ以外か、ということです。ベネッセ教育総合研究所が行った「第3回大学生の学習・生活実態調査」では、大学生の選挙に対する意識をたずねています。その結果からは、自宅から通学する大学生は、71.0%が投票に行ったことが「ある」と回答しているのに対して、自宅以外の大学生だと41.6%であることがわかります。自宅から離れて暮らしていると、なかなか選挙には行きにくい実態があるようです。
そのことを裏づけるように、投票に行ったことが「ない」大学生に、行かなかった理由をたずねたところ、「現在の居住地に住民票がなく、投票の場所が遠いため」という項目が42.9%でもっとも多い結果となりました(注目データ⑥)。「政治に対する関心が薄いため」「自分一人が投票しても何も変わらないと感じたため」といった無関心や無力感は、それほど高くありません。
いままで確認したように、保護者の政治的な関心は子どもに大きな影響を与えます。家庭の中でニュースを見ているときに、どのような異なる立場があり、それぞれの論拠はどのようなものか、政治家は対立をどう解決しようとしているのかを話してみてはどうでしょうか。そして、投票は自らの考えを実現する手段の一つであり、保護種自身が投票行動を通して社会に参加していることを、子どもに伝える必要があると考えます。
さらに、大学生が投票に行かなかった理由からは、遠隔地に住んでいても投票しやすい仕組みづくりが求められます。もちろん、現在でも「不在者投票」の仕組みはありますが、若者自身がそのことを知らなかったり、投票のための手続きが煩雑だったりします。不在者投票をしてまで投票しようとは、なかなか思えないのが現実です。海外では一部で取り入れられているインターネット投票など、若者にも投票しやすい環境にしていくことを検討していく必要がありそうです。
■調査データの出典
●東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2016」
●ベネッセ教育総合研究所「第3回大学生の学習・生活実態調査」2016年
■解説:木村治生(ベネッセ教育総合研究所・副所長)
初等・中等教育領域を中心に子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究、教育市場(産業)の調査などを担当。文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。東京大学客員准教授(2007年、2014~16年)、文部科学省「中高生を中心とした子供の生活習慣づくりに関する検討委員会」委員(2013年)、「中高生を中心とした生活習慣マネジメント・サポート事業」における選定委員会委員(2017年)、光り輝く「教育立県ちば」を実現する有識者会議委員(2014年)、富山県学力向上対策検討会議アドバイザー(2014年)、草加市子ども教育連携推進委員会専門部会委員(2014年~)など。専門は社会調査、教育社会学。
一方で、株式会社ベネッセホールディングス(本社:岡山市)の社内シンクタンク、ベネッセ教育総合研究所の調査では、小学生から高校生の8割が「18歳になったら選挙の投票に行く」と回答するなど、実際の若者の投票率に比べて投票への意欲が高い傾向がうかがえます。子どもの投票への意欲は高いのに、18歳になっての投票率が低いのはなぜでしょうか。
調査データから読み取れる選挙・投票に関する「子ども・若者の意識」について、ベネッセ教育総合研究所・副所長の木村治生が解説します。
●小学生~高校生の8割は「18歳になったら選挙に行く」と回答
東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で行っている「子どもの生活と学びに関する親子調査2016」によると、小学生~高校生の約8割が「18歳になったら選挙の投票に行く」と回答しています(注目データ①)。実際の若者の投票率に比べ高い傾向にあり、選挙・投票への関心の高さがうかがえます。
●「政治は難しい」という意識が「選挙に行く」気持ちを抑制
それでは、何が子どもたちの選挙に対する思いを低下させるのでしょうか。その一つに、「政治は難しい」という思いや「自分には社会は変えられない」といった無力感がありそうです。
注目データ②を見ると、「政治のことは難しくてよくわからない」に「そう思う」(「とてもそう思う」+「まあそう思う」の合計)と回答したのは、小学生で81.7%、中学生で79.1%、高校生で76.4%と8割前後の高い比率でした。また、「自分ががんばっても、社会を変えることはできない」についても、小学生52.3%、中学生59.7%、高校生64.8%が「そう思う」と回答しました。
そこで、2つの質問について、肯定する群(「そう思う」)と否定する群(「そう思わない」)に分けて「18歳になったら選挙の投票に行く」かどうかの回答をみたところ、注目データ③のような結果が得られました。小学生、中学生、高校生ともに同様の結果なので、ここでは高校生のデータを示します。図からは、「政治のことは難しくてよくわからない」「自分ががんばっても社会を変えることはできない」と考えていると、選挙に行こうという意欲が低くなることがわかります。
●保護者の投票行動が子どもに大きく影響
さらに興味深いのは、保護者の影響です。この調査では、子どもの保護者にも選挙についての意識をたずねているのですが、保護者が「次の選挙の投票に行くと思うか」に対して「行く」つもりと考えていると、子どもも「18歳になったら選挙の投票に行く」と考える傾向があることが分かりました(注目データ④)。しかも、保護者が「行かない」と考えているケースよりも、31.9ポイントもその比率は高いのです。保護者が政治に関心を持っているかどうかが、子どもの選挙に対する意識に強く関連していることを示しています。
●大学生は自宅住まいかどうかで投票行動が異なる
ちなみに、大学生には、また違った課題があります。それは、住まいが自宅かそれ以外か、ということです。ベネッセ教育総合研究所が行った「第3回大学生の学習・生活実態調査」では、大学生の選挙に対する意識をたずねています。その結果からは、自宅から通学する大学生は、71.0%が投票に行ったことが「ある」と回答しているのに対して、自宅以外の大学生だと41.6%であることがわかります。自宅から離れて暮らしていると、なかなか選挙には行きにくい実態があるようです。
そのことを裏づけるように、投票に行ったことが「ない」大学生に、行かなかった理由をたずねたところ、「現在の居住地に住民票がなく、投票の場所が遠いため」という項目が42.9%でもっとも多い結果となりました(注目データ⑥)。「政治に対する関心が薄いため」「自分一人が投票しても何も変わらないと感じたため」といった無関心や無力感は、それほど高くありません。
【考察・提案】政治に対する関心を高めるとともに、投票しやすい仕組みづくりを
いままで確認したように、保護者の政治的な関心は子どもに大きな影響を与えます。家庭の中でニュースを見ているときに、どのような異なる立場があり、それぞれの論拠はどのようなものか、政治家は対立をどう解決しようとしているのかを話してみてはどうでしょうか。そして、投票は自らの考えを実現する手段の一つであり、保護種自身が投票行動を通して社会に参加していることを、子どもに伝える必要があると考えます。
さらに、大学生が投票に行かなかった理由からは、遠隔地に住んでいても投票しやすい仕組みづくりが求められます。もちろん、現在でも「不在者投票」の仕組みはありますが、若者自身がそのことを知らなかったり、投票のための手続きが煩雑だったりします。不在者投票をしてまで投票しようとは、なかなか思えないのが現実です。海外では一部で取り入れられているインターネット投票など、若者にも投票しやすい環境にしていくことを検討していく必要がありそうです。
■調査データの出典
●東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2016」
●ベネッセ教育総合研究所「第3回大学生の学習・生活実態調査」2016年
■解説:木村治生(ベネッセ教育総合研究所・副所長)
初等・中等教育領域を中心に子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究、教育市場(産業)の調査などを担当。文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。東京大学客員准教授(2007年、2014~16年)、文部科学省「中高生を中心とした子供の生活習慣づくりに関する検討委員会」委員(2013年)、「中高生を中心とした生活習慣マネジメント・サポート事業」における選定委員会委員(2017年)、光り輝く「教育立県ちば」を実現する有識者会議委員(2014年)、富山県学力向上対策検討会議アドバイザー(2014年)、草加市子ども教育連携推進委員会専門部会委員(2014年~)など。専門は社会調査、教育社会学。
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