イエメン: 医療ニーズ急増にひっ迫する北西部のアブス病院

国境なき医師団

イエメン北西部ハッジャ県にあるアブス病院。地域約100万人にとって唯一の病院である同病院は、医療ニーズの急増と患者の多さにひっ迫している。国境なき医師団(MSF)は、この地域に常駐する唯一の国際援助団体として2015年から同病院を支援する活動を行っているが、対応は限界に達している。MSFは、病院の負荷軽減のためには、イエメンの保健当局、国際的な資金援助機関、医療援助団体などが、さまざまな緊急医療ニーズが存在する同地域の医療体制を緊急に強化し、支援する必要があると訴えている。

アブス病院の救急科=2022年8月撮影 © Mohammed Al-Shahethi/MSFアブス病院の救急科=2022年8月撮影 © Mohammed Al-Shahethi/MSF

 
  • 複数の患者でベッドを共有
アブス病院では、患者は他の患者と病床を共有せざるを得ないことも多く、救急科、産科、新生児科、入院栄養治療センター(ITFC)などの診療科の稼働率は100%を大幅に上回ることも多い。アブス病院の需要が増加している背景には、イエメンにおける内戦の長期化に加えて以下の要因がある。

・手ごろな料金で質の高い基礎診療が受けられない
・そのため近隣の診療所ではなく病院での治療を余儀なくされる
・患者の多くは重症になるまで来院しない
・避難民キャンプの悪質な生活環境。清潔な水や衛生設備がなく感染症が流行する

2022年には状況はさらに悪化した。ハッジャ県や近隣のホデイダ県では複数の医療団体が資金不足により活動を停止。その結果、いくつかの医療施設で診療の中止や医薬品不足が相次ぎ、アブス病院に負荷が集中した。
 
  • 対応は限界
MSFは患者数増加に対応するため数年かけて、病床数を33床から288床に増やし、院内8割以上の診療科や薬局、検査室を運営し、保健省スタッフの給与サポートや人材を増やすことで支援を続けてきた。こうした支援は、MSFの全活動の中でも最大規模となるが、現在、スペース、人材、物資の面で限界に達している。

MSFはアブス病院の支援を継続するが、一方で栄養失調やはしかのリスクなど、緊急の医療ニーズが多岐にわたって存在するこの地域では、より多くの医療機関・団体が活動を始め、地域の医療態勢の下支えをすることが必要だ。

現在MSFとMSFが給与サポートする病院スタッフは現在632人に上る。2015年にMSFが支援を開始した際は35人だった=2022年8月撮影 © Jinane Saad/MSF現在MSFとMSFが給与サポートする病院スタッフは現在632人に上る。2015年にMSFが支援を開始した際は35人だった=2022年8月撮影 © Jinane Saad/MSF

 
  • 医療体制の整備・強化に一層の努力が必要
MSFの現地活動責任者、カロリーン・ドゥカルムは、「長引く内戦でイエメンの医療体制は大きく揺らいでいます。資金拠出機関と人道援助団体は医療体制の整備・強化に一層の努力を傾けることで、良質で安価な医療をアブス郡、ハッジャ県ならびにイエメン全土で全ての人に受けられるようにしていく必要があります。保健当局や人道援助・開発団体は急いで基礎医療の格差に取り組み、医療へのタイムリーなアクセスを確保し、二次医療の負担増につながる合併症のリスクを減らすことが求められているのです」と述べる。

MSFは保健省と連携してアブス病院での活動の再編成を進めている。2022年に着手したこの計画では、一部の診療を対象とした紹介・入院基準の見直しや、また他科診療を保健省に移譲することに加えて、人材管理の調整などが盛り込まれている。MSFは、この再編成を通じて、最も健康を脅かされやすい立場にある患者と救命医療に集中することで、医療の質の向上を目指すとともに、イエメンの医療体制の能力を高め、アブス郡の医療提供にとって、持続的な解決策の実現を目指している。

 

2022年、アブス病院においてMSFは、7万9325件の救急診療、1万181件の分娩介助、3095人の新生児ケア、2944人の栄養失調児のITFCでの治療、5237件の外科手術、1202人のマラリア患者治療を提供した 。MSFは1986年にイエメンで活動を開始し、2007年からは継続して活動している。現在国内12カ所の病院で活動し、13の県にある16カ所の医療施設を支援している。

 

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業種
医療・福祉
本社所在地
東京都新宿区馬場下町1-1  FORECAST早稲田FIRST 3階
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03-5286-6123
代表者名
村田慎二郎
上場
未上場
資本金
-
設立
1992年12月