青色光エネルギーを効率的に受け渡す配位子開発に成功

―創薬や金属の新しい反応性の発見に前進―

国立大学法人千葉大学

千葉大学大学院医学薬学府博士後期課程3年生 栗原崇人、大学院薬学研究院 中島誠也助教及び根本哲宏教授の研究グループは、青色の可視光を効率的に吸収して付近の金属にそのエネルギーを受け渡す、可視光活性型配位子の開発に成功しました。
本研究成果により、再生可能な光エネルギーを高い効率で化学反応に用いることができるようになり、創薬や機能性分子合成における分子変換技術や、金属の新しい反応性の発見などが期待されます。
この研究成果は、2022年7月14日に”Nature Communications”に掲載されました。
  • 研究の背景
2010年にノーベル化学賞を受賞したパラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応(異なる2つの化合物を結合させる反応)は、医薬品、生理活性分子、農薬、機能性分子などを作るうえで欠かせない最重要技術の一つです。パラジウムに結合する様々な「配位子(注1)」は、日本の研究者を中心に発展しており、パラジウムの反応性を上昇させるために開発されてきました。用いる配位子の種類によって、パラジウムの活性化度合いのチューニングが可能になるため、パラジウムによる反応開発の歴史は、配位子の開発の歴史といっても過言ではありません。
近年、LEDや光触媒の発展に伴い、化学反応の開発では「可視光」の持つ大きなエネルギーを化学反応のエネルギーに転用しようという試みが広く行われています。特に、青色光は紫外光に比べて装置面でも取り扱いが容易であることや、青色光のもつエネルギーが分子変換のエネルギーに適していることから、光反応によく用いられています。上述のパラジウムの反応に関しても同様に、従来の「熱」を反応のエネルギー源とする方法から「光」、特に「可視光」をエネルギー源とする方法論にシフトしつつあります。
しかし、近年報告され始めたパラジウムに「可視光」を照射する反応で用いられている「配位子」は従来の「熱」をエネルギー源とする方法で開発されたものばかりであり、光による反応のためにデザインされた配位子はほとんどありませんでした。
そこで、同研究グループは、可視光のエネルギーを効率的にパラジウムに受け渡す、新たな配位子のデザインおよび合成を行うこととしました (図1)。

  • 研究成果1- コンピュータシミュレーションによる配位子のデザインと実際の合成
同研究グループは、実際の合成に先立ち、配位子のデザインや、可視光を吸収した後の分子の動き、どのような化学反応を可能とするかなどを(TD-)DFT(注2)計算によってコンピュータシミュレーションを行うことで分子や反応のデザインを行いました(図2)。

 

予め計算を行うことで分子の様々な物性が予測可能となり、研究開発をスピードアップさせることが可能です。計算の結果、ジフェニルアントラセンと呼ばれる可視光を吸収するユニット及びホスフィン(注3)を組み合わせた配位子が、効率的に可視光のエネルギーをパラジウムに受け渡すと予測されました。

コンピュータシミュレーションによってデザインした分子を実際に合成し、パラジウムと結合させて可視光の照射を行った結果、配位子の光の吸収波長や、パラジウムとの錯体を形成させた後の物性は計算値と良い一致を示しました。また、計算による予測通り、効率的にエネルギーが受け渡されていることが明らかとなりました。そこで、合成した配位子を用いて、様々な分子変換を試みることとしました。
  • 研究成果2- 可視光照射による分子変換方法の開発
同研究グループは、自身らの合成した配位子をパラジウムに作用させ可視光を照射することで、医薬品開発や原薬、材料合成等に有用な反応の開発を行いました。その結果、様々な分子と分子を結合させることに成功しました(図3)。

これらの反応は、従来の「熱」をエネルギー源とするパラジウムの反応とは全く異なるメカニズムで進行しており、「光」をエネルギー源とすることで「熱」エネルギーでは困難な分子変換に成功しました。さらに、本配位子は従来用いられている配位子よりも効率的に可視光のエネルギーを反応エネルギーへと応用することが可能であるということも明らかとなりました。
  •   研究者のコメント(千葉大学大学院薬学研究院 中島誠也 助教)
今回の研究によって、可視光を積極的に吸収し金属へとそのエネルギーを受け渡す新しい配位の開発に成功しました。光は、宇宙空間から無尽蔵に降り注ぐ、地球上の資源を用いない無限のエネルギー源であるため、光エネルギーを効率的に用いる事ができることを示した本研究は、SDGsの観点からも更なる発展が期待できます。また、コンピュータシミュレーションをふんだんに用いることで無駄の少ない効率的な配位子や反応の開発に成功しました。過去には化学者が頭で考えた分子を無鉄砲に合成し実際に用いてみるという手法でしたが、現代では計算機の発展によって現実世界の資源や研究費、時間を無駄にしない効率的な方法が可能となりました。今後、我々の開発した配位子や同様のアイデアから生まれる配位子が、世界中の合成科学者や製造の現場で広く用いられることを期待しています。
  • 論文情報
論文タイトル:A visible-light activated secondary phosphine oxide ligand enabling Pd-catalyzed radical cross-couplings
著者:Takahito Kuribara, Masaya Nakajima, Tetsuhiro Nemoto
雑誌名:Nature Communications
DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-022-31613-9
  • 用語解説
(注1)配位子:原子やイオンの周囲に原子、分子、イオンが配列することを配位といい、金属に配位する化合物を配位子という。
(注2)DFT計算:密度汎関数理論(Density Functional Theory)。電子密度やエネルギーなどの分子や原子の物性を計算することが可能。TD-DFT(時間依存密度汎関数法: Time-Dependent DFT)計算を行うことで分子の吸収波長等の予測が可能。
(注3)ホスフィン:リン原子を含む分子のこと。リン原子が金属に配位することが可能。

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電話番号
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代表者名
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上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月