CO2資源化用光触媒の活性をエタノール処理で3.6倍に向上
―カーボンニュートラルサイクルの実現に前進―
千葉大学大学院融合理工学府および理学部学生の張 超(1)、Yang Jiwon(2)、原 慶輔(3)、石井 蓮音(4)、大学院理学研究院 張 宏偉 特任研究員(2021年当時)、泉 康雄 教授、同工学研究院の糸井 貴臣 教授の共同研究グループは、ポルフィリン光触媒を用いてCO2をCOへ資源化する際、エタノール処理により活性が3.6倍に向上することを見出しました。さらに、その理由はコバルトイオンへCO2が有効に反応するようになるためであることを、光反応条件での分光追跡(注1)により解明しました。本研究成果はJournal of Catalysis誌で2022年7月16日(米国時間)に電子出版されました。
- 研究の背景
- 研究成果
そこで1回目の光反応試験後、光触媒の活性を回復する様々な処理(酸素処理、水素処理、大気下放置)をテストしてみたところ、大気下放置したコバルト-ポルフィリン–酸化チタン光触媒は、1回目の反応の9時間以降に低下し一定となった活性の1.54倍となり、部分的に活性回復が認められました。これは光反応試験中に還元された酸化チタンが再酸化されたため、と判明しました。
さらに40分の1気圧のエタノールガスに触れながら、1回目の光反応試験後のコバルト-ポルフィリン–酸化チタン光触媒に光照射したところ、CO2光資源化反応速度は1回目の試験の最初の速度の3.6倍にまで向上することが分かりました。光反応条件で、赤外吸収スペクトル・紫外可視吸収スペクトル・X線吸収スペクトルでこの光触媒反応を追跡(注1)すると、反応開始後9時間までにコバルトイオン上に生じたヒドロキシ(OH)基が、この触媒の活性を12%にまで下げる(図1左)ものの、エタノールに触れることでOH基が取り去られ、さらにコバルト-ポルフィリン分子間の間隔が広がることでCO2分子に触れやすくなり(図1中央)、ギ酸種(HCOO, 図1右)を経て、CO生成することが実証されました。
エタノールガスに触れた後のCO光生成速度はコバルト-ポルフィリン–酸化チタン光触媒1グラムあたり毎時63マイクロmolで、触れる前の速度:1グラムあたり毎時2.3マイクロmolの27倍であり、吸収した光の1.6%がCO2からCO生成に直接関与(注2)し、2回目の光反応試験3時間の間にひとつのコバルトイオンが7.4個のCO分子を作ったことが判明しました。
- 今後の展望
COを直接の資源とするためには別の触媒を用いてメタンやエチレン、プロピレン、さらにはプラスチックにまで変換することが必要になりますが、コバルト-ポルフィリンを本研究グループが別途開発したニッケル–酸化ジルコニウム光触媒と組み合わせる等で、CO2を持続可能に直接資源化できる、さらに有効な再生可能エネルギー駆動光触媒を実現することが期待できます。
- 用語解説
(注2) 光の関与:光は電磁波であるが、同時に粒子であるとも考えられる。そこで、コバルト-ポルフィリン–酸化チタン光触媒に吸収された光の粒子数に対して、光照射により光触媒中に生じた活性化電子のうち、いくつがCO2からCOへの変換に関与したのかを量子効率と呼ぶ。CO2をCOにするには二つ電子が必要であることを利用して算出できる。
- 論文情報
雑誌名:Journal of Catalysis
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jcat.2022.07.006
学生著者所属:1 大学院融合理工学府博士前期課程2年(2021年修了)
2 理学部4年(2022年卒業)
3 大学院融合理工学府博士後期課程1年
4 大学院融合理工学府博士前期課程2年
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザーログイン既に登録済みの方はこちら
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像