【国立科学博物館】新種の角竜を命名~『恐竜博2023 大阪会場』で実物化石を展示中~

文化庁

独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田 謙一)の石川 弘樹連携大学院生(地学研究部/東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻)、對比地 孝亘研究主幹(地学研究部 生命進化史研究グループ)、真鍋 真 副館長は、大阪市立自然史博物館で開催中の特別展『恐竜博2023』でこれまで「ケラトプス科の未記載種」として展示していた恐竜に関して、近縁種とは異なる特徴をもつことから、新属新種「フルカトケラトプス・エルキダンス」として記載を行いました。研究結果は、Cretaceous Research誌で8月12日(日本時間)に公開されました。
  • 研究のポイント

本研究で以下の4点が判明しました。
・本標本は、角竜(*1)の新種であること。
・本標本は、推定年齢3歳未満の若い個体(亜成体)であること。
・後期白亜紀のジュディスリバー層(*2)の恐竜の多様性を解明するうえで重要な化石であること。
・角竜の骨の形態を詳細に調べられる重要な標本であること。


  • 研究の背景

 角竜は、トリケラトプスなどに代表される植物食恐竜のなかまです。特に白亜紀の終わり頃には特徴的な角やフリルを発達させた多種多様な角竜が出現し、白亜紀末の小惑星衝突が起こるまで主要な大型植物食動物として北米や東アジアで繁栄していました。
 本標本が発見された「ジュディスリバー層」(アメリカ・モンタナ州)は19世紀に角竜の化石が世界で初めて報告された地層として知られていますが、完全度の高い化石の報告は意外に少ない地層です。国立科学博物館は、2012年にジュディスリバー層で見つかった例外的に完全度が高く保存状態の良い標本(標本番号:NSM PV 24660)を2018年に入手し、これまで研究を進めてきました。今回、本標本には角や吻部に既知の種とは異なる固有の特徴が認められ、このたび新種として記載を行いました。


  • 本標本の基本データ

標本番号:NSM PV 24660
分類:鳥盤類 新鳥盤類 周飾頭類 角竜類 ケラトプス科
学名:Furcatoceratops elucidans (フルカトケラトプス・エルキダンス)
属名の意味:フォーク状の角のある顔(目の上の角が二股フォークのように伸びていることから)
種小名の意味:光を当てるもの(研究例の乏しい骨の形態をも明らかにする標本であることから)
産地:アメリカ・モンタナ州 ウィニフレッド近郊
地層:ジュディスリバー層 コールリッジ部層
時代:後期白亜紀 カンパニアン(今から約7560万年前)
全長:約3.5メートル(亜成体)


図1:本標本の骨格図。白色の部位の骨化石が確認されている。図1:本標本の骨格図。白色の部位の骨化石が確認されている。


  • 本標本の研究で判明したこと・重要性

【本標本は新種であること】
 大型の角竜であるケラトプス科は、フリルが短く、縁に突起が発達していることが多い系統(セントロサウルス亜科)と、フリルが長く、縁の突起はあまり長くないことが多い系統(カスモサウルス亜科)に分けられます。本標本は、セントロサウルス亜科の中で、フリルの縁の装飾が控えめながら、フリルの側面のリッジが発達しているナストケラトプスの仲間であることがわかりました。ジュディスリバー層や近くの地層からはこれまでにも断片的なナストケラトプスの仲間の化石は報告されてきましたが、種を分類するカギになるような固有の特徴は認められていませんでした。本標本では、目の上の角芯が大きく前方に伸び、やや内側に曲がること、鼻骨の一部が前上顎骨に外側から被さるようになっているなどの特徴から、新種であると考えられます(図2)。


図2:フルカトケラトプスと近縁種の頭骨の比較。フルカトケラトプスでは、上眼窩角芯(目の上の角を支える骨)が根元から大きく前方へ伸び、やや内側に曲がっている。また、鼻骨と前上顎骨の関節部(青い三角で示した部位)の形態も異なる(左右は一部反転。スケール不同)。図2:フルカトケラトプスと近縁種の頭骨の比較。フルカトケラトプスでは、上眼窩角芯(目の上の角を支える骨)が根元から大きく前方へ伸び、やや内側に曲がっている。また、鼻骨と前上顎骨の関節部(青い三角で示した部位)の形態も異なる(左右は一部反転。スケール不同)。

【本標本は、若い個体(亜成体)であること】
 多くの脊椎動物は成長につれて、骨の癒合が進んだり、骨の表面組織が変化したりする傾向があります。本標本は、近縁種の成体の7割程度の体格と考えられ、骨の癒合も進んでいません。また、頭部や四肢の骨には幼体型と成体型の中間的な表面組織が見られます。従って、未成熟の若い個体(亜成体)だと考えられます。恐竜の骨の内部には、成長速度の季節変動によって年輪のような構造(成長停止線)が認められる場合があります。本標本では上腕骨や脛骨などで共通して2本の成長停止線が認められたことから、2~3歳で死んだ個体だと考えられます(図3)。
さらにフルカトケラトプスの成長過程の特徴を本標本で知ることができます。たとえば、全身のほとんどの部位で骨の癒合が進んでいないにもかかわらず、角の付け根などでは癒合が進んでいます。フルカトケラトプスでは目の上の角が長く伸びていますが、角の付け根の骨の癒合が早いことで発達した角を支えることができた可能性があります。


図3:本標本の左上腕骨の断面と成長停止線(▲で示した線が成長停止線)図3:本標本の左上腕骨の断面と成長停止線(▲で示した線が成長停止線)


【ジュディスリバー層の恐竜の多様性を解明するうえで重要な化石であること】
鳥類以外の全ての恐竜は、今から約6600万年前の白亜紀末に絶滅しました。この大量絶滅を理解するうえで、白亜紀最末期の約1000万年間の恐竜の多様性の変化が近年注目を集めています。ジュディスリバー層はこのような時代に堆積した地層の1つで、その古生物学的な重要性にもかかわらず、断片的な化石が多いことから恐竜の多様性に関する理解が遅れてきました。しかし、近年は精力的な研究によってジュディスリバー層からもさまざまな化石が発見・報告され、恐竜の多様性に関する研究が進んできています。本標本は、ジュディスリバー層から産出した化石の中でも例外的に完全度が高く、保存状態も良い角竜で、今後、ジュディスリバー層から見つかっている多数の断片的な化石を分類するための比較標本として重要です。


【角竜の骨の形態を詳細に調べられる重要な標本であること】
 本標本は極めて保存状態が良く、骨の各部位の癒合が進んでいないことから、1つ1つの骨の特徴を詳細に観察することができる重要な化石です。特に、角竜では成長とともに頭部の骨の癒合が進んでしまうため、個々の骨の形態は観察しにくくなってしまいます。本標本は保存状態が良いうえに多くの部位が見つかっており、これまで他の角竜でもあまり研究されていなかった骨についても詳しく調べることができます。たとえば、上顎のクチバシを支える角竜特有の骨「吻骨」や、フリルの縁の小さな骨の特徴まで詳しく調べることができるため、今後の研究が期待されます(図4)。


図4:本標本の頭部。頭骨を構成する多数の骨が良好な保存状態で見つかっている。図4:本標本の頭部。頭骨を構成する多数の骨が良好な保存状態で見つかっている。


図5:フルカトケラトプスの復元図図5:フルカトケラトプスの復元図



  • 今後の研究計画

 本標本は、新種であるだけでなく、ジュディスリバー層から見つかった角竜としては最高の完全度・保存状態の化石で、角竜の1つ1つの骨の特徴に関する知見を提供する重要な標本です。ジュディスリバー層産の角竜に関する分類学的・解剖学的な理解を進める可能性を持っています。今後は、国内外の恐竜研究者と協力し、近縁種との比較をさらに進めるとともに、ジュディスリバー層の恐竜の多様性とその変遷、マイクロCTスキャンなども活用して、クチバシや顎、三半規管などの内部構造や神経血管系などの特徴に関して研究を進めていく予定です。本標本の発掘地でも追加の調査を予定しており、同じ場所から発見された角竜以外の化石についても、現在研究を進めています。


  • 発表論文

表題:Furcatoceratops elucidans, a new centrosaurine (Ornithischia: Ceratopsidae) from the upper Campanian Judith River Formation, Montana, USA.
著者:石川 弘樹、對比地 孝亘、真鍋 真
掲載誌:Cretaceous Research
※本研究は、標本調査の一部に関して東京大学・理学系研究科大学院学生国際派遣プログラム(2018年度、2019年度)の支援を受けています。


  • 恐竜博2023 大阪会場

会期:2023年7月7日(金)~9月24日(日)
会場:大阪市立自然史博物館 ネイチャーホール(花と緑と自然の情報センター2階)
〒546-0034 大阪市住吉区長居公園1-23
H P:https://dino2023.exhibit.jp/
*東京会場(国立科学博物館)は閉幕しました。(会期:2023年3月14日(火)~6月18日(日))


  • 用語解説

*1 角竜
ジュラ紀から白亜紀の北半球で繁栄した植物食恐竜で、上顎の先端にクチバシを支える「吻骨」という特殊な骨をもつ。白亜紀の終わり頃には、角やフリルを発達させたトリケラトプスなどの大型種が現れ、北米や東アジアで繁栄した。

*2 ジュディスリバー層
アメリカ・モンタナ州中部に分布する後期白亜紀に堆積した地層。分類が難しい断片的な化石の産出が多いが、近年は精力的な研究により角竜のメルクリケラトプス(2014年)やスピクリペウス(2016年)、鎧竜ズール(2017年)、肉食恐竜ダスプレトサウルス・ウィルソニ(2022年)といった多数の新種の恐竜が記載され、注目を集めている。

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未上場
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設立
1968年06月