マンダムと大阪大学大学院薬学研究科との共同研究によって可視化に成功した汗腺の三次元構造が解剖学の世界的定番の教科書である「Gray's Anatomy」に掲載

―熱中症や多汗症の診断や治療、汗腺組織の再生の応用に期待―

【研究成果のポイント】
■2017年6月に発表した共同研究成果である汗腺を構成している細胞の構造や形、発汗の際に汗の供給源となる血管構造の可視化画像が、「Gray's Anatomy」に掲載された
■「Gray's Anatomy」は、解剖学の教科書として世界的に定番のもの
■本研究成果が医学書に掲載され汗腺機能についての理解が深まることで、多汗症・熱中症などの発汗機能障害の診断法や治療法の開発、汗腺組織の再生が期待できる
  • 概要

大阪大学大学院薬学研究科 先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座※1の岡田文裕招へい教授、蛋白質研究所の関口清俊寄附研究部門教授、大学院医学系研究科の種村篤講師、室田浩之准教授(現在 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 教授)、片山一朗名誉教授の研究グループはこれまでヒト汗腺の三次元構造を可視化することに成功しており(2017年6月22日付け大阪大学研究専用ポータルサイトResOUを参照ください。https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017/20170622_3)、今回この成果が解剖学の世界的定番の教科書である「Gray's Anatomy(42nd edition)※2」に掲載されました。
人体の構造が理解できる解剖学は、13世紀に医学教育に必要な科目として重要性が認められ、診断学や外科治療など近代の医学の発展に極めて高い貢献をしてきました。このような解剖学分野において、1858年初版の「Gray's Anatomy」は、医学生が医師になるための解剖実習の理解の助けとなるべく出版されたといわれています。初版発売から160年以上経った今日でも、最も権威のある解剖学の定本として、また医学・解剖学を志す人の教科書として、世界中で多くの医学関係者に読まれています。

今回、2020年10月発行の「Gray's Anatomy」(全7章で構成)の出版社から依頼を受け、ヒト汗腺の詳細な構造と汗の供給源である血管の構造について新たに可視化した画像を、第1章の中の「皮膚」パートに掲載する運びとなりました。

この成果により汗腺の構造が深く理解されることで、次世代型制汗剤の開発にも役立つだけでなく、将来の熱中症や多汗症の解明や治療、医療の発展に役立つと期待されます。
本成果は特許出願し、その有用性についてゴードン会議※3などで継続的に発表しております。
  • 研究の背景
地球温暖化の進行を背景に、日本は熱中症対策の強化を進めているにもかかわらず、依然として夏場には多くの熱中症患者が救急搬送されており、社会問題の一つとなっています。障害を起こした発汗機能を改善するためには、発汗時に収縮を起こす汗腺の構造を理解する必要があります。しかし、汗腺は複雑な構造を持つため、従来の解析では解明できませんでした。このような背景から、これまで本研究グループはホールマウント免疫染色法を用いてヒト汗腺の三次元での可視化に成功し、汗腺の特徴的な構造を明らかにしたことで、汗腺は独自の分泌機構で汗を排出していることが予想されました。
  • 研究の内容

今回、「Gray's Anatomy」に掲載された成果は、本研究グループで可視化に成功したヒト汗腺の三次元構造についてです。汗腺は分泌部と導管部で構成された1本の管状の外分泌腺で、分泌部で放出された汗が導管部を通って皮膚表面に排出されます。汗腺の末端の分泌部と一部の導管部は、糸くずが絡まるようにコイル状に複雑に折りたたまれ、このコイル領域に存在する汗腺分泌部が収縮することで発汗するとされています。汗腺の複雑なコイル構造を理解するために、三次元的に汗腺を可視化したところ、分泌部と導管部でチューブ構造の立体的な違いが観察されました。導管部はシンプルに折れ曲がっていたのに対し、分泌部は折れ曲がるだけでなく、タオルを絞る様な捻れた構造を形成していました。また、汗腺の構造解析に加えて、発汗に重要な汗腺を取り巻く血管も可視化しました。血管は導管部と分泌部に非常に接近して配置されており、メッシュ状に汗腺を取り囲んでおり、汗の分泌と再吸収を効率的に行うために血管が汗腺と接近した配置をとることが予想されました。
  • 本研究成果が「Gray's Anatomy」に掲載されることで社会に与える影響
本研究の成果が、解剖学の世界的定番の教科書である「Gray's Anatomy」に掲載されたことで、今後、この知見をもとに汗腺障害の解明のためのアイデアが生まれ、汗腺の収縮の基礎的なメカニズムや恒常性の維持について理解が深まれば、発汗に関連する病気(熱中症や多汗症)の解明や治療につながると期待されます。更には、汗腺の発汗収縮を根本的に抑制する次世代の制汗剤の開発や汗腺の再生技術にもつながる可能性があります。
  • 特記事項
本掲載画像は、米国科学誌「PLOS ONE」(オンライン)に掲載された研究手法を用いて解析しています。
タイトル:“Three-dimensional Cell Shapes and Arrangements in Human Sweat Glands as Revealed by Whole-mount Immunostaining”
著者名:Ryuichiro Kurata1, 2, 3*, Sugiko Futaki3, Itsuko Nakano3, Fumitaka Fujita1, 2, Atsushi Tanemura4, Hiroyuki Murota4, Ichiro Katayama4, Fumihiro Okada1, 2, and Kiyotoshi Sekiguchi3,**

また、本研究成果である汗腺の三次元構造の観察法は、特許として登録されています。
発明の名称:“汗腺の形態の確認方法” 特許番号:6555973
発明者: 倉田 隆一郎1, 2, 3 藤田 郁尚1,2 二木 杉子3 関口 清俊3 種村 篤4 室田 浩之4 片山 一朗4

* 筆頭著者
** 責任著者
1 大阪大学 大学院薬学研究科 先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座
2 株式会社マンダム 基盤研究所
3 大阪大学 蛋白質研究所 寄附研究部門
4 大阪大学 大学院医学系研究科 情報統合医学皮膚科学講座

なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業16K19721(体温調節を担うヒト汗腺器官のコイル収縮部とその近傍の血管・神経の三次元的構造解析)、18K16028(ヒト汗腺幹細胞から再生した3次元組織構造体を用いた熱中症などの体温調節障害の解析)および20K08650(熱中症改善に向けた治療薬探索のためのヒト汗腺オルガノイド(汗腺器官モデル)の作製)の一部助成を受け実施されております。
  • 用語説明
※1 先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座
大阪大学大学院薬学研究科と、株式会社マンダムが2015年6月に設置した共同研究講座。共同研究講座は民間企業等からの出資を受け入れ、大学の研究者と出資企業の研究者が共通の課題について、対等の立場で共同研究を行うことにより、優れた研究成果を獲得することを目指す。本共同研究講座は、大阪大学内に設ける独立した研究組織で、大阪大学とマンダムとが協議しながら、柔軟かつ迅速に研究活動を行うことを特徴とする。

※2 Gray's Anatomy (42nd edition)
Gray's Anatomy (42nd edition)- Anatomical Basis of Clinical Practice
著者    : S.Standring
出版社 : ELSEVIER, LONDON
ISBN    : 978-0-7020-7705-0
ページ数 : 1588pp.
出版年月 : October 2020

※3 ゴードン会議
2019 Gordon research conference (Epithelial Differentiation and Keratinization)
日程: July 7 - 12, 2019
場所:Jordan Hotel at Sunday River (メイン州、アメリカ)
タイトル: Isolation and characterization of sweat gland stem cells from human skin
ゴードン会議・・・サイエンスの分野で歴史と権威がある研究集会の1つ
  • 研究代表者(倉田)のコメント
私達の祖先は環境の変化から食物や水分を求めて長距離移動が必要となり、体温が上がりすぎないようにするために体中の毛皮を脱ぎ捨てて、発汗によって体温を調節する事を選択しました。そのため、体温調節のために汗腺の発汗で体温を下げる動物はヒトのみになります。その一方で、ヒトの汗腺は進化が未熟なため、生活環境や加齢によって発汗機能が変化しやすく、熱中症や多汗症などが社会的問題になっています。しかし、発汗障害の治療に必要なヒト汗腺に関する知見が不足しているのが現状です。よって、このようなヒト汗腺に関する研究は、基礎を固めていくことで、その上に様々な知見や技術がさらに積み上がり、数年後の応用につながると信じています。
本研究グループでは2009年から研究をスタートし、ヒト汗腺細胞の単離法やヒト汗腺幹細胞の同定、人工ヒト汗腺器官の再生、汗腺三次元構造解析、汗腺収縮動態観察、汗腺不死化細胞の樹立などに取り組んできました。この進化が未熟なヒトの汗腺に、現在の社会環境でもしっかりと役割を果たしてもらえるように、本研究グループはこの研究をさらに発展させていく予定です。
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