レアメタル代替技術 ~地政学リスク下における永久磁石・触媒分野の開発動向を事例で分析~

アスタミューゼ株式会社

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、レアメタル代替に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

レアメタルの重要性と安定供給に向けた取り組み

レアメタルには世界共通の定義はありませんが、国内では経済産業省の鉱業審議会において1980年代に「『地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属』のうち、工業需要が現に存在する(今後見込まれる)ため、安定供給の確保が政策的に重要であるもの」と定義され、31鉱種が対象となっています。希少性の観点で同様の概念は英語圏でminor metalsと呼ばれ、英国を拠点とし欧米中を中心とした企業150社が加盟する非営利団体Minor Metals Trade Association (MMTA) では

41鉱種を対象としています。

一方政策上の重要性の観点からは、近年、欧米政府においてCriticalを用いた呼び方による定義が使われ始めています。欧州委員会では重要な原材料のリストをCritical Raw Materialsとして2011年から公開を始め、2020年に改定された第4版では30の原材料が指定され、その多くが金属となっています。

米国では2020年のエネルギー法において「米国地質調査所の長官を通じて、内務長官が重要(critical)と指定したあらゆる鉱物、元素、物質、または材料」をCritical Mineralsと定義し、2022年に50鉱種が指定されています。

これらの定義・リストはそれぞれの政府や団体の関心事に応じて異なっていますが、共通する元素も多く、G7ほか8か国で構成される鉱物安全保障パートナーシップのような国際的な枠組みを通しての連携が図られています。

レアメタルが用いられる主な製品・用途としては次のようなものが挙げられます。この表で示したレアメタルはすべて前述した日米欧政府の定義に共通して含まれる元素となっています。

製品

用途

用いられる主なレアメタル

EV用モーター

永久磁石

ネオジム、ジスプロジウム

EV・モバイル機器

2次電池

リチウム、コバルト

排ガス浄化装置・燃料電池

触媒

プラチナ、パラジウム

産業機械(金属加工装置)

超硬工具

タングステン、バナジウム

フラットパネルディスプレイ・太陽電池

透明電極

インジウム

電子機器

電子部品

ガリウム、タンタル

このように様々な製品において欠かせないレアメタルですが、その安定供給を脅かす要素として、希少性や技術的・経済的な抽出困難性があります。しかし近年、これらに加えてより深刻な問題となっているのが地政学的リスクで、産地が偏在するが故に、産出国における政情不安や地政学的対立により供給の不安定化が生じる可能性があります。

これに対して日本を筆頭とする需要国ではレアメタルの安定的な確保に向けて次のような取り組みが進められています。

1.リサイクルの推進
レアメタルは電気・電子機器に多く含まれ、これらの使用済み製品の「都市鉱山」としての活用が推進されています。関連する技術開発として、例えば国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が製品の高度な解体・選別システムを開発する「高度循環型システム構築に向けた廃電気・電子機器処理プロセス基盤技術開発」プロジェクトを2023年度からの5年間の計画で実施中です。解体・選別された回収物からレアメタルを抽出する技術に関しても、全世界におけるスタートアップ企業の資金調達や学術機関の獲得研究資金が増加傾向にあることが当社の分析で確認されています。

2.新規採掘源・採掘/抽出技術の開発
資源外交を通じて新たな国外供給ルートを確保する取り組みに加え、自国内の新規採掘源の探索とこれを活用する採掘/抽出技術の開発が試みられています。日本では本州から1,800 km離れた小笠原諸島・南鳥島周辺の水深5,000~6,000 mの大陸棚でレアアース泥が発見されており、試験採掘が開始されようとしています。またこれを効率良く製錬/精製/運搬する技術の開発も併せて計画されています。

3.レアメタルの代替および使用量削減技術の開発
製品の高い性能を可能とするレアメタルにおいて、性能を犠牲にすることなくその使用を無くすもしくは量を削減する技術開発も進められて来ました。国内では前述のNEDOによる「希少金属代替省エネ材料開発プロジェクト」において2008年から2015年の期間に委託および助成事業として、モーター用磁石、蛍光体、排ガス浄化触媒、超硬工具などに用いられるレアメタルの代替や削減技術に関する研究開発が実施され、2021年時点で7件が製品化されています。

4.備蓄
安定供給にリスクがあり産業上重要な元素を、国策で備蓄する動きも強められています。日本では1983年の希少金属備蓄制度創設以降、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が一律の備蓄日数でレアメタルの備蓄を行っていましたが、2020年からは国が情勢に合わせて鉱種ごとに備蓄日数を策定する体制に移行されました。

これらはそれぞれで異なるアプローチであり、持続可能性の観点からはどの取り組みも欠かせませんが、それぞれの取り組みにおける研究開発環境は産出国の動向や需要国の政策などの影響を少なからず受けるものと考えられます。

このような中、本レポートでは前述の取り組みの中から特に「代替技術」にフォーカスし、その対象としてEVモーターなどに欠かせない永久磁石、そして排ガス浄化装置や燃料電池に使われる触媒の2分野を事例として取り上げ、研究開発・技術動向を分析しました。

EVモーター等に用いられる高性能な永久磁石としての代表例がネオジム磁石であり、構成元素は重量比順に鉄(約60-75%)、ネオジム(約15-30%)、ホウ素(約1%)、ジスプロジウムなどの添加元素(約1%)となっており、この中でネオジムとジスプロジウムがレアメタルとして該当します。

排ガス浄化装置に使われる触媒に用いられる代表的なレアメタルは白金族(Platinum Group Metals)と呼ばれる白金、パラジウム、ロジウムの3元素で、燃料電池の触媒として白金が使われています。白金は需要の高まりもあって価格が高騰しており、燃料電池の原材料コストの大きな割合を占めることから、代替・削減技術が普及における課題とされています。

なお本レポートでは事例として取り上げなかったものの、産業上重要な分野である2次電池に関しては、当社の全固体電池に関する分析レポートの中でレアメタルを用いない方式が取り上げられています。

当社の他レポートと同様に、本レポートにおいても、アスタミューゼ独自のデータベースにおける、特許・グラント・スタートアップ企業についての情報を用いて分析を行います。

永久磁石用・触媒用のレアメタル代替技術に関するグラントの動向分析

EV用モーターなどに使われる永久磁石用のレアメタル、そして排ガス浄化や燃料電池の触媒用のレアメタルを、供給の安定性が高いその他の元素に代替する技術に関し、まずは競争的研究資金であるグラントの配賦状況を分析しました。ただし中国はグラントデータの開示状況が年により大きく異なり、実態を反映しない可能性が高いためデータから除外しています。図1にグラント件数および配賦額の年次推移を示します。グラントの件数はプロジェクトの開始年に1件としてカウントし、配賦額はプロジェクト全体の金額を実施期間中の年度に均等に割り当てる方法で集計しています。

件数・配賦額ともに、触媒用レアメタル代替に関する研究の方が永久磁石レアメタル代替に関する研究より多いことが分かりますが、ここ数年は永久磁石のレアメタル代替研究の配賦額において顕著な増加が確認できます。永久磁石のレアメタル代替研究の件数は横ばい傾向にあることから、1件あたりの配賦額が大きい大型プロジェクトが採択されていることが分かります。触媒用レアメタルの代替研究においても件数に減少傾向が見える一方で配賦額は横ばいであることから、プロジェクトの大型化の傾向が見て取れます。

図1 永久磁石および触媒用レアメタルの代替技術に関するグラントの件数および年間配賦額(全世界)の年次推移

永久磁石のレアメタル代替研究に関するここ数年のプロジェクト大型化が見えて来たところで、2022年以降に開始された大型プロジェクトをいくつか紹介します。

  • MAGELLAN (MAGnets in rEsiLient suppLy chAiNs)

    • 機関/企業:仏Orano社ほか13社/機関

    • グラント名/国:CORDIS/EU

    • 採択年:2024年

    • 資金賦与額:約700万ドル(累計)

    • 概要:EVモーター及びそこに用いる永久磁石の材料設計・製造・リサイクルに総合的に取り組む大型プロジェクト。ネオジム磁石に含まれる元素であるジスプロジウムやテルビウムを、同じ

      Critical Mineralではあるがより供給が安定しているセリウムやランタンに置き換える研究も含まれる。

  • 水素イオンセラミックス

    • 機関/企業:京都大学ほか5研究機関

    • グラント名/国:科研費/日本

    • 採択年:2022年

    • 資金賦与額:6.3億円(累計)

    • 概要:水素イオンを含ませたセラミックによる新たな機能材料探索に関する複数の取り組みのうちのひとつとして、EuVO2Hにおいてネオジム磁石に匹敵する巨大磁気異方性が発生することが発見されている。

  • Rare Earth Free Motor Designs with MnBi

    • 機関/企業:Powdermet, Inc.

    • グラント名/国:DOE/米国

    • 採択年:2022年

    • 資金賦与額:115万ドル(累計)

    • 概要:DOE(米国エネルギー省)が開発したマンガンビスマス(MnBi)永久磁石の産業化を目指す研究。マンガンビスマス磁石の製造方法や、これを用いたモーターの設計最適化などが取り組まれている。

日米欧の各国/地域それぞれにおいて大型プロジェクトが政府の助成によって開始されていることが確認できました。日欧のグラントではレアメタル代替がプロジェクト全体の中の一部の研究となっており、研究資金が全てレアメタル代替に配賦される訳ではありませんが、プロジェクトに組み込まれていることが重点領域として位置づけられていることを示すものと考えられます。

永久磁石材料のレアメタル代替技術の特許出願動向

次に、特許の出願動向の分析を行います。特許分析の事例としては、前節で抽出された大型グラントの中から、基礎研究から実用化検討のフェーズに移行しつつあることがうかがえる、マンガンビスマス

(MnBi)永久磁石を対象にします。

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さらなる分析は……

アスタミューゼでは「レアメタル代替」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

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業種
情報通信
本社所在地
東京都千代田区神田錦町2丁目2-1 KANDA SQURE 11F WeWork
電話番号
03-5148-7181
代表者名
永井 歩
上場
未上場
資本金
2億5000万円
設立
2005年09月