実験とAIの融合!ホウ素触媒反応の新展開と新理解
―環境に配慮した金属代替法の発展に貢献―
千葉大学大学院医学薬学府博士後期課程2年生 伊藤翼氏、大学院薬学研究院 原田慎吾講師及び根本哲宏教授の研究グループは、機械学習(AI)を活用し、ホウ素触媒を用いた新しい脱芳香族化反応(注1)の開発に成功しました。本研究成果により、金属を用いずに生物活性(注2)を有する分子群のコア骨格を構築できることから、自然環境に配慮した合成法への発展が期待できます。この研究成果は2022年12月12日に米化学雑誌”ACS Catalysis“オンライン版にて公開されました。
- 研究の背景
- 研究成果1- 実験とAIを織り交ぜた効率的な反応条件の探索
本反応は金属元素を含む触媒を用いると収率が低かったため、ホウ素触媒を使うことが成功の鍵でした。これらの検討結果を踏まえ、多様な芳香族化合物への適応を検討しました。まず、コンピューターに試薬の当量、溶媒の種類、温度といった反応条件と結果の傾向を学習させ、少ない労力で結果の改善が期待できるAI手法(ベイズ最適化(注4))を取り入れました(図3)。この結果、わずか7回という最低限の検討回数で反応条件の大幅な改善に成功しました。これは従来の検討手法に比べ、約10分の1以下の検討量であり、検討時間が約2-3ヶ月ほど短縮されています。また、この条件を活用することで20種類の化合物に本反応を適用することができました。
- 研究成果2- コンピュータシミュレーションの活用による新しい中間体の発見
- 研究者のコメント(千葉大学大学院薬学研究院 原田慎吾 講師)
また本研究では、AIを用いることで、6つの反応条件を同時に最適化し、収率を迅速に改善できました。さらにDFT計算というコンピュータシミュレーションの手法を活用することで、これまで提案されてこなかった新しい活性化のモデルや中間体の存在を明らかにすることができたことは、有機合成化学分野でも同様のベイズ最適化法がAI技術として応用できることを示唆しております。
本研究は主に、科学研究費助成事業、デジタル有機合成、武田科学振興財団研究助成の支援により遂行されました。
- 論文情報
著者:Tsubasa Ito, Shingo Harada, Haruka Homma, Ayaka Okabe, Tetsuhiro Nemoto
雑誌名:ACS Catalysis
DOI:https://doi.org/10.1021/acscatal.2c04504
- 用語解説
(注2)生物活性:生物に対して、何かしらの効果を発揮する性質や状態(=活性)のこと
(注3)スピロ環:2つの環が1つ原子を共有した二環式構造のこと。
(注4)ベイズ最適化:最適化したい値と様々なパラメーターを関数として関連づけ、その関数の回帰モデルを作成することで、目的の値を最適化する手法。
(注5)DFT計算:密度汎関数理論(Density Functional Theory)に基づく計算手法。電子密度やエネルギーなどの分子や原子の物性を予測することが可能。
(注6)カルベン:炭素原子は四配位の状態(手が4本)が安定であるのに対して、不安定な中性二配 位の状態の活性種。
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