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【国立科学博物館】新種のハチはカシワの葉に不思議な“鈴”をつくる~マイクロCTが解き明かした、転がる幼虫室の形成過程~

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 独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田謙一)の井手竜也研究員(動物研究部陸生無脊椎動物研究グループ)は、国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所(所長:浅野(中静)透)の小山明日香主任研究員(生物多様性・気候変動研究拠点)との共同研究により、新種のタマバチを発見し、さらに本種がカシワの葉に形成する鈴状の虫こぶの形成過程をマイクロCTで解明しました。この研究成果は 2023年10月30日に国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
  • 研究のポイント

・カシワの葉に虫こぶを形成する新種のハチ(タマバチ)を国内で発見し、「カシワハスズタマバチ(学名:Belizinella volutum(ベリジネラ・ボルツム))」と命名しました。
・さらに本種の虫こぶは丸く中空で、その空洞内に小さく丸い幼虫室が固定されずに転がっている、「鈴」のようなめずらしい構造をもっていることを明らかにしました。
・従来は解剖を必要としていたため、虫こぶの内部構造の変化を同一のサンプルで追跡観察することは困難でしたが、マイクロCTを用いることで、実施可能であることを示しました。
・「鈴」は天敵に対する防御機構と考えられます。さまざまな生物や環境との関わりによって生まれた虫こぶの形の働きを探る研究は、進化生物学等、昆虫学以外の分野へも波及します。


  • 研究の背景

 虫こぶは、植食性の昆虫が植物に産卵・寄生することで形成される異常発達構造です。その形状は虫こぶを形成する昆虫ごとに異なり、外観から内部にいたるまで驚くほど複雑で、変化に富んでいます(写真1)。その複雑な形状にはどのような働きがあるのかという疑問は、昆虫学者のみならず、進化生物学者、植物生理学者、物理工学者など、さまざまな分野の研究者から強い関心を集めてきました。
 タマバチは、そのような複雑に発達した虫こぶを形成する代表的な昆虫です。体長1~6mmほどの小型のハチで、世界から約1400種、日本から約80種が知られていますが、近年でも新種が見つかっているなど、分類学的研究が活発に行われている昆虫です。
 タマバチの虫こぶは通常「幼虫室」と「外壁」で構成されています。幼虫室の形は球形で、1つの虫こぶに1つの幼虫室しかないものもあれば、複数の幼虫室を伴うものもあります。その幼虫室を保護するように取り囲み、位置を固定している組織が外壁で、分厚い壁になっていたり、木質化して硬くなっていたり、トゲや毛を伴っていたりします。これらの組み合わせによって、虫こぶの複雑な構造がつくりだされています。


写真1:昆虫が植物上に形成するさまざまな虫こぶ写真1:昆虫が植物上に形成するさまざまな虫こぶ

  • 研究の内容

 タマバチの国内調査を進めていくなかで、岡山県北部にてカシワの葉に形成された見慣れない丸い虫こぶを発見しました。直径1cmほどのその虫こぶは、薄く硬い外壁の内部のほとんどが空洞になっており、その空洞内に小さく丸い幼虫室が固定されずに転がっているという、特異な構造をしていました(写真2)。このような虫こぶは海外のタマバチの虫こぶで数例の報告があるものの、国内では記録がありませんでした。採集した虫こぶから成虫を得て、体の特徴やDNAを調べた結果、既存の種に該当しない新種であることがわかりました(写真3)。

写真2:カシワハスズタマフシの断面。下に転がる白い球が幼虫室。写真2:カシワハスズタマフシの断面。下に転がる白い球が幼虫室。

写真3:カシワハスズタマバチ。成虫は翅が無く、アリのよう。幼虫室は取り除いている。写真3:カシワハスズタマバチ。成虫は翅が無く、アリのよう。幼虫室は取り除いている。


 新種のタマバチの学名はBelizinella volutum(ベリジネラ・ボルツム)、和名はカシワハスズタマバチとしました。学名のvolutum(ボルツム)は転がるという意味のラテン語です。和名は、虫こぶが「カシワ」の「葉」につくられること、虫こぶが中空で、幼虫室が転がる様子が「鈴」に見立てられることに由来しています。なお、虫こぶの名称はカシワハスズタマフシとしました(フシは虫こぶを意味する語)。新種の発表に用いた標本(タイプ標本)は、つくば市の国立科学博物館自然史標本棟およびアメリカのスミソニアン国立自然史博物館に収蔵しました。
 さらに、本種の特異な虫こぶの構造が形成される過程を明らかにするべく、微小な昆虫の体内構造の観察などにも用いられるマイクロCTの技術を用いて、同一のサンプル内での虫こぶの成熟過程を可視化することを試みました。その結果、最大径に達した直後の本種の虫こぶでは、幼虫室が中心部に位置し、その外側は水分を多く含んだ柔らかい組織で満たされているものの、時間経過に伴い、幼虫室の周辺部から空隙が生じ、それが外側へと広がっていくことで、幼虫室が自由に転がることができる空間が生まれることが判明し、その様子を捉えることに成功しました(写真4)。

写真4:マイクロCTによって観察されたカシワハスズタマフシの内部構造の変化写真4:マイクロCTによって観察されたカシワハスズタマフシの内部構造の変化


  • 当研究成果から期待されること、今後の課題

 本研究は、幼虫室が転がるという特異な虫こぶを形成する新種のタマバチを発見・命名したのみならず、マイクロCTを用いることで、同一のサンプル内で虫こぶの内部構造の成熟過程を追跡観察することが可能であることを示したものです。一般的に、タマバチの虫こぶの形状は寄生バチなどの天敵の影響を受けて発達してきたとされており、カシワハスズタマバチの虫こぶに見られる特異な構造も、寄生バチに対する防御機能としての働きがあると考えています。本当にそのような働きがあるのかを調べるためには、虫こぶの成熟段階ごとに寄生バチによる寄生状況等を同一サンプルで追跡観察することが望ましいものの、従来は虫こぶを解剖する必要があったため、同一サンプル内での追跡調査は困難となっていました。マイクロCTを用いることで、非破壊的に、同一サンプルを追跡調査できる可能性があることから、虫こぶの複雑な形状にはどのような働きがあるのかという疑問に対する答えを探求するための研究手法として、今後活用されていくことが期待されます。

【発表論文】
表題:The formation of a rolling larval chamber as the unique structural gall of a new species of cynipid    gall wasps
著者:Tatsuya Ide, Asuka Koyama
掲載誌:Scientific Reports 13: 18149
(URL) https://doi.org/10.1038/s41598-023-43641-6

本研究は、科学研究費補助金(JP19H00942:代表 前藤薫, JP21H02212:代表 井手竜也, JP22H03797:代表 小山明日香)の支援を受けています。

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