バイオマスバーニング(火災)が大気環境へ及ぼす影響の大きさを確認

―エアロゾルデータを用いて気候変動への影響を評価―

国立大学法人千葉大学

千葉大学大学院融合理工学府博士前期課程2年生の大野健氏と環境リモートセンシング研究センター (CEReS)の入江仁士教授らの研究グループは、バイオマスバーニング(注1)と人為起源エアロゾル(注2)の両方の影響を受けるユニークな地域であるインドシナ半島に着目し、最先端の再解析データMERRA-2(注3)を活用することで、近年の中国南部の大気質改善がインドシナ半島の大気質改善に寄与していることを明らかにしました。再解析データは、数値モデルに観測を同化することで均質なデータを提供します。バイオマスバーニングが大気環境へ及ぼす影響は、人為起源エアロゾルよりも相対的に強まることから、今後より一層重要となることが示唆されました。
また、MERRA-2を活用するにあたって、CEReSが中核となって展開する国際観測網SKYNET(注4)のデータによる精度検証を試みたところ、MERRA-2はバイオマスバーニング起源のエアロゾルを過小評価していることがわかりました。この研究成果は、同様の特徴を持つ地域での再解析エアロゾルデータの再現性向上に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2022年11月12日に日本地球惑星科学連合(JpGU)の英文電子ジャーナルProgress in Earth and Planetary Science(PEPS)に掲載されました。

 

  • 研究の背景
エアロゾルは太陽光を吸収・散乱する効果や、雲の性質を変化させる効果によって地球の気候変動に影響を与えます。さらに、大気汚染や健康にも悪影響を及ぼします。バイオマスバーニングは、そのエアロゾルの重要な発生源の一つです。バイオマスバーニングでは主に光を吸収するエアロゾル(黒色炭素や有機炭素)が排出されます。大規模なバイオマスバーニングが発生する世界有数の地域の一つにインドシナ半島(図1)があり、乾季の10月–5月に発生し、1–3月に活発となります。加えて、同地域は東アジアから光を散乱する人為起源エアロゾル(硫酸塩エアロゾル)の輸送が確認されており、バイオマスバーニングの影響と相まってエアロゾルの光学特性(散乱・吸収など)が複雑です。したがって、インドシナ半島におけるエアロゾルの定量的理解は、エアロゾルの包括的な理解のために必要不可欠です。本研究では時空間的に均質な再解析エアロゾルデータのMERRA-2を活用し、バイオマスバーニングと人為起源のエアロゾルが大気環境へ及ぼす影響を定量的に解析することを目標としました。
  • 研究の成果
まず、インドシナ半島中央のタイ・ピマイ(図2)に設置されている地上観測装置によって、MERRA-2の光学特性の精度検証を行いました。乾季においてMERRA-2はエアロゾルの光学的深さ(AOD)(注5)を過小評価しており、MERRA-2の地表付近の光吸収性エアロゾル(注6)排出量が不十分であることが示唆されました。

次に検証されたAODを利用して、インドシナ半島の季節変動要因についての解析を行いました。光吸収性を持つ有機炭素AODはバイオマスバーニングが活発な1-3月に特に高い割合を示し、光散乱性を持つ硫酸塩AODの割合は一年を通して全体の25%以上を占めていることが分かりました。
最後にインドシナ半島の年々変動について解析を行いました。インドシナ半島の北東には中国が位置しており、モンスーンの影響で10月にエアロゾルの越境輸送が確認されています(図1)。そこで、中国南部(SC)とインドシナ半島のエアロゾルの光学特性の関係性の解析を2009年から2020年にかけて行いました(図3)。特に、中国南部風下の北東インドシナ半島(NEIC)では硫酸塩AODが減少傾向にありました。硫酸塩エアロゾルの前駆物質である二酸化硫黄(SO2)の排出量が中国南部で減少傾向であることから、インドシナ半島の大気質の改善に中国からの人為的なエアロゾルが大きく寄与していることが示唆されました。

 

  • 今後の展望
本研究でのMERRA-2の精度検証から得られた知見は、バイオマスバーニングの影響を受ける地域における再解析エアロゾルデータの再現性向上に役立つことが期待されます。今後、気候変動に伴う森林火災の発生のみならず、経済活動の変化も予想されることから、大気環境のモニタリングが重要となります。そのような背景から、研究グループは観測データを活用した突発的な森林火災や長期の大気汚染物質のモニタリングを今後も継続し、環境対策への貢献を目指します。
  • 用語解説
(注1)バイオマスバーニング:有機物(バイオマス)の燃焼(バーニング)のことで、自然起源と人為起源によって発生する火災を指す。
(注2)人為起源エアロゾル:化石燃料などの燃焼により発生し、大気中に浮遊する微小な粒子。硫酸塩がその一つであり、二酸化硫黄が前駆物質となる。
(注3)MERRA-2:Modern-Era Retrospective analysis for Research and Applications, Version 2の略。NASAで開発された再解析データ。全球モデルのGEOS-5に観測データを組み込むことによって(データ同化)、時空間的に均質なデータを提供する。
(注4)SKYNET:大気中エアロゾル・雲・放射に関する国際地上大気観測ネットワーク。
http://atmos3.cr.chiba-u.jp/skynet/
(注5)エアロゾル光学的深さ(AOD):⼤気中のエアロゾルによる光の強度の減衰を決める量のことをエアロゾル光学的深さ、あるいは、エアロゾル光学的厚さという。減衰する要素としては光吸収と光散乱に分けられる。
(注6)光吸収性エアロゾル:⼤気中のエアロゾルのうち、光を効率よく吸収するエアロゾルのこと。
  • 研究プロジェクトについて
本研究は、環境再生保全機構の環境研究総合推進費、日本学術振興会の科学研究費助成事業(JP20H04320, JP21K12227, JP22H03727, JP22H05004)、宇宙航空研究開発機構の地球観測研究公募、地球気候系の診断に関わるバーチャルラボラトリーの形成(VL)、の支援を受けて遂行されました。
  • 論文情報
・論文タイトル:Quantitative evaluation of mixed biomass burning and anthropogenic aerosols over the Indochina Peninsula using MERRA-2 reanalysis products validated by sky radiometer and MAX-DOAS observations
・掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science (PEPS)
・著者:Takeru Ohno, Hitoshi Irie, Masahiro Momoi, Arlindo M da Silva
・DOI:https://doi.org/10.1186/s40645-022-00520-4
  • 関連ニュースリリース
・大気汚染対策と温暖化対策のコベネフィットに向けた窒素酸化物(NOx)濃度分布の新知見ー大気リモートセンシング・地上観測網・大気環境モデリングの融合研究により実現ー(掲載日:2022/03/24)
https://www.chiba-u.ac.jp/others/topics/info/nox.html
・世界初の技術で大気境界層のオゾンとその前駆気体を同時にリモートセンシング 国内の大気汚染対策に
新たな観測事実(掲載日:2021/05/13)
https://www.chiba-u.ac.jp/others/topics/info/post_979.html

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業種
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本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月