目に見えない静電気を分子レベルで観測することに成功
~材料固有の帯電特性の解明へ前進~
千葉大学大学院工学研究院の宮前孝行教授と大学院融合理工学府博士前期課程1年の井坂友香氏の研究グループは、表面の分子の状態を選択的に調べることのできる計測手法を用いて、絶縁体材料の表面に溜まっている静電気を非接触で高感度に検出・可視化する技術を開発しました。この手法は、従来の手法に比べて表面に存在する分子を選別することが可能であることから、材料の違いによる帯電のしやすさ、しにくさなどを示す「帯電列(注1)」の序列の原因や、「帯電の起源」を知る手がかりを得る重要な手法となることが期待されます。これにより、高度化した電子デバイスや製品に対する帯電防止の有効性を調べることが出来るだけでなく、帯電を自在に制御することで防汚処理をはじめとして新たな技術開発を加速することに繋がります。
本研究成果は2023年1月20日に応用物理学会速報誌Applied Physics Expressに掲載されました。
本研究成果は2023年1月20日に応用物理学会速報誌Applied Physics Expressに掲載されました。
- 発表のポイント
・表面電位計ではとらえられなかった微小領域の帯電を捉えてマッピングすることに成功
・材料の違いによる帯電のしやすさの違いや、帯電の起源を知る手掛かりに
- 研究の背景
研究グループでは、これまで材料表面や界面の分子の情報を選択的に計測・評価する手法として、和周波発生分光法(SFG分光法)を用いた有機物界面の評価・解析技術の研究を進めてきました(図1)。SFG分光法は高強度のパルスレーザー光を使った分光法の一種で、赤外光と可視光を同時に照射することで発生するSFG光を検出します(図1上)。さらにSFG分光法は、表面や固体内部の界面の分子の向きや反応などを詳しく調べることが出来ます。このSFG分光法では、試料に電界が存在する時には、その電界の強さに応じて得られるSFGの信号強度が増加する「電界誘起効果」と呼ばれる効果があることが知られています(図1下)。研究チームはこれまでに、この電界誘起効果を用いることで、有機ELや有機トランジスタなどの有機デバイスを駆動したときに、内部に存在する電荷の情報を高感度で選択的に調べることが可能になる計測技術を開発してきました。
- 研究の成果
さらに、ポリメチルメタクリレート(PMMA・アクリル樹脂)の上に、有機薄膜としてステアリン酸アミドを薄く塗布した試料を用いて帯電によるSFGスペクトルを調べてみると、帯電することによって、有機薄膜で覆われている内側のPMMAに由来するSFGの信号強度が増加していることが認められました(図3)。これは、試料の帯電によって表面に存在する電荷に由来する電界が、有機薄膜に留まらず、下地となっているPMMA試料の内部にまで広がっていることを示しています。
さらに、帯電によるSFG信号強度の増加を利用して、ポリプロピレンを部分的に帯電させた際の表面の状態について2次元マッピングすることに挑戦しました。ポリプロピレンの試料の一部をガラスで覆い、帯電させた後にガラスを取り除いてマッピングすると(図4)、ガラスで覆われていなかった部分ではSFG信号が顕著に強くなっており、微小な領域(~0.3 mm)での不均一な帯電を見分けることが出来ることを示すことが出来ました(図4右上)。またこの帯電した試料を一晩放置した後に再度測定したところ、表面電位では0 Vを示しているにも関わらず、SFGの面内マッピングイメージではわずかに帯電が残っていることがわかります(図4右下)。このことは、SFG分光が表面にごくわずかに残っている静電気でもその影響を検出出来ることを示しています。
- 今後の展望
- 用語解説
- 研究プロジェクトについて
- 論⽂情報
著者: 井坂 友香 1 , 宮前 孝行 2,3,4
所属: 1 千葉⼤学⼤学院融合理⼯学府,2 千葉⼤学⼤学院⼯学研究院,3 千葉⼤学分子キラリティ研究センター,4 千葉⼤学ソフト分子活性化研究センター
雑誌名: Applied Physics Express
DOI: https://doi.org/10.35848/1882-0786/acb1ec
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザーログイン既に登録済みの方はこちら
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像