『「ドキッ!」の瞬間、スローモーションで見える』は正しかった!
~感情が視覚の“時間精度”を上昇させることを改めて確認~
千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程3年生の小林美沙氏と大学院人文科学研究院の一川誠教授の研究チームは、さまざまな表情画像の観察で生じる感情反応が視覚の時間精度(短時間に処理できる能力)に及ぼす影響を調べました。その結果、画像を観察することで感情反応が生じた際に物事がスローモーションに見えるという現象が生じることが改めて確認されました。
本研究成果は、知覚研究の国際オンラインジャーナル誌i-Perceptionで2023年2月9日に公開されました。
本研究成果は、知覚研究の国際オンラインジャーナル誌i-Perceptionで2023年2月9日に公開されました。
- 研究の背景:感情が視覚の時間精度に及ぼす影響
- 研究成果
本研究では、感情喚起のために、様々な表情の顔画像を用いました。顔画像は、表情条件間での色彩や輝度の違いは小さいのに、表情によって観察者に多様な感情を喚起できること、怒りの表情画像は危険な画像として感情を喚起することが知られています。また、顔画像には、上下反転すると表情がわかりにくくなる「倒立効果」と呼ばれる特性があります。顔画像を倒立させて表情をわかりにくくすることによって、画像の特性は全く変えずに喚起される感情を弱くすることができます。そのため、条件間の視覚の時間精度の違いが実験参加者の感情反応による効果であるとしたら、倒立した表情画像を用いた場合、表情画像間での時間精度の違いがほとんどなくなることが予想されました。
・表情による視覚の時間精度への影響を調べる実験
男女それぞれ2名の怒り、恐怖、喜びと無表情の顔画像を用いました。フルカラーの表情条件の顔画像を1秒間提示した後、10〜50ミリ秒の範囲で画像の彩度を70%低下させ、彩度変化が見えるのに必要な最短時間を測りました(図1)。その結果、怒り、恐怖だけでなく喜びの条件でも、無表情条件より短い時間で彩度低下が認識されることが示されました(図2)。こうした表情条件間の違いは顔画像を倒立させた場合には見られませんでした(図3)。
・喚起される覚醒度が視覚の時間精度に及ぼす影響を調べる実験
感情反応には、興奮の度合(ドキッと感じる程度)に対応する覚醒度(注1)と、好きー嫌いの度合いに対応する感情価(注2)の2つの次元があります。覚醒度の次元での感情反応の程度が視覚の時間解像度に及ぼす影響を調べるため、引き起こされる覚醒度の反応が大きいと予測される怒り表情、中程度と予想される悲しみ表情、小さいと予想される無表情を提示し、視覚の時間精度を測りました。視覚の時間精度は、覚醒度の水準に対応して高くなることが認められました(図4)。これらの結果は、画像観察によって喚起される覚醒度に対応して、ドキッとするほど視覚の時間精度が高くなり、短い時間間隔の中で生じた出来事を認識しやすくなることを示しています。
<まとめ>
これらの結果により、画像の色彩特性ではなく、喚起された感情により、視覚の時間精度が上昇するという前回の研究結果が確認できました。また、時間精度の上昇を引き起こすのはネガティブな強い感情に限定されないこと、特に覚醒度次元の感情が視覚の時間精度を上げる効果が大きいことがわかりました。今回の研究成果により、覚醒度が高まるほど視覚の時間精度が高まることが示され、交通事故のような危険な場面や、スポーツ選手の緊張感の高い試合での「ゾーン」などの際に物事がスローモーションに見える現象について明らかにする一歩となったと考えられます。
- 用語解説
(注2)感情価:対象についての評価の軸であり、快―不快の度合いに対応する感情反応の次元。
- 論文情報
higher temporal resolution
・掲載誌:i-Perception
・DOI: https://doi.org/10.1177/20416695231152144
- 参考ニュースリリース
https://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2016/20160523.pdf
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザーログイン既に登録済みの方はこちら
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像