凸版印刷と順天堂大学、共同研究講座を開設
「救急AI色画像情報標準化講座」を開設し、医学領域における画像データの真正性に関する共同研究を開始
■ 開設の背景
昨今、少子高齢化により患者増と医師不足が指摘され、医療の効率化が求められています。また、新型コロナウイルス感染拡大から、個人のスマートフォンなどを用いたオンライン診療が始まっています。 こうした中で対面での診療と比較し、正しい情報伝達の難しさや、デジタルデバイス間の画質不足による問題点の改善が求められています。 医学・医療において患者の状態等を正確に把握するためには、画像・映像などのデジタル視覚データは、美しさや綺麗さが優れていることよりも、色や質感表現などの品質管理が重要です。さらに、判断の間違い、診断の不正確さの要因にならないような技術や、画像・映像データの真正性 (※2)を担保する仕組みやガイドラインの確立が不可欠になっています。
他方で、5G や光通信などのデータ容量が課題とならない高速大量通信の普及により、4Kや8K等の高精細映像による情報共有や、デジタル視覚データそのものをAI 試料とする活用が行われます。こうした取り組みは、医学・医療にとどまらず、Society5.0 の実現に向けて様々な分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させる社会実装が求められています。
順天堂大学大学院医学研究科救急・災害医学の田中 裕 教授(順天堂大学浦安病院 院長)らは、生体センシング機能を備えた傷病者端末の設計開発研究(※3)において、電子トリアージシステムの開発を行ってきました。この研究では、傷病者に装着した脈拍センサや血流センサなどからのセンシング情報を収集すると共に、臨床現場に敷設した無線ネットワークとの間にアドホックネットワークを構築することで、傷病者の位置や病状変化をリアルタイムで監視・収集・整理し、その情報を図的に提示すると共に、一定のルールに基づき緊急度が高い傷病者を提示できるような救命救急医療支援システムの構築を行いました。本研究から視覚的情報の正確な把握が非常に重要であることが明らかとなりました。
この度このような背景から、凸版印刷が持つ印刷色を正確に再現可能とするカラーマネジメントシステム(CMS)技術と、順天堂大学浦安病院/救命救急センターの多くの救急医療情報を活用し、正しい画像・映像情報を伝えるプロトコルの標準化の基盤構築を目指し共同研究講座を開設します。
本共同研究講座では、救急医療において提供される医療画像(色)情報の正確性を評価・分析し、提供される医療画像情報の「標準化」を行い、医療画像情報提供のプラットフォーム構築と、色情報を数値化し、標準化された画像情報を利用した救急医療現場への臨床的応用を目指すと同時に、本プラットフォームを活用した安全・安心な医療サービス提供に向けて、臨床応用を進めていきます。
■ 各者の役割
・凸版印刷
凸版印刷は、現代の印刷テクノロジーの中核となっている CMS 技術を、 DTP(※4)創成期の30 年以上前から自社開発を行い蓄積、現在に至るまで応用・発展させて印刷生産を行ってきました。昨今では、従来のカラーチャートを用いる手法を独自に発展させ、対象物の分光反射特性(※5)を考慮することで高精度な色再現を実現しています。しかし、正確に色を伝える技術を印刷生産以外の分野で用いるには、さらなる技術的ブレイクスルーが必要不可欠です。 凸版印刷の研究開発部門では、独自に開発してきた技術をさらに拡張し、誰でもどこでも簡便に色調を合わせることが可能となるCMS技術の研究開発に取り組んでいます。
また、2013年よりオリジナル超高精細・高品質4K 映像コンテンツ「Meet Japan!®」を起点に、実空間に組込んだ超臨場感環境ソリューション「Natural Window®」による、健康経営や働き方改革の推進に向けた社会実装を進めています。一般的な放送・コンテンツとは違う「記録性」「正確性」を重視した制作技術・ノウハウを元に、凸版印刷は DX に必要不可欠な各種要素・パラメーター・プロトコル等を DX- E(Elements)と規定し、正しい色の再現や質感表現などのデジタル視覚データの品質を管理する基盤構築に取り組んでいます。このようなノウハウを元に本研究講座では、デジタル視覚データの中でも、特に精度を必要とする医学・医療分野において、画像・映像データの真正性を保証する研究開発と有用性の検証を行います。
・順天堂大学/順天堂大学浦安病院
順天堂大学浦安病院/救命救急センターは千葉県東葛南部地域の三次救急(※)医療施設として、最重症患者に高度な医療技術と大学病院の先端医学情報に基づいた集中治療を提供しています。順天堂大学浦安病院/救急診療科では様々な原因・病態による臓器不全やショック、多発外傷、広範囲熱傷、中毒、敗血症、特殊感染症(壊死性筋膜炎、ガス壊疽、破傷風など)、心肺停止、意識障害、代謝疾患、心不全や呼吸不全といった慢性病態の急性増悪、心血管障害、脳血管障害など、心肺危機に瀕した重篤な病態の症例を扱っています。
本研究では、標準化された画像情報を利用した救急医療現場への臨床的応用を目指します。例えば、 救急医療従事者が患者診察を行う際に、第一印象は非常に重要なサインです。血圧、体温、呼吸回数、 酸素化能などのバイタルサインに合わせて、顔面蒼白、苦悶様表情、紅潮、チアノーゼ、黄疸、乾燥など の視覚情報を、標準化された色画像情報として提供することで救急現場、外来でのトリアージに発展させる ことができます。さらに、救急現場で臨床家が自身の感覚で判断する「顔色」からの重症度評価を、顔認識 技術を利用し「数値化」する研究、熱傷の深度・面積を画像情報から正確に判定する研究などを計画して います。
※三次救急:重症患者(集中治療室入院患者)に対する救急医療
■ 順天堂大学浦安病院 院長/大学院医学研究科救急・災害医学 教授 田中 裕 コメント
我々の施設(順天堂大学浦安病院/救命救急センター)は、東葛南部地域の三次救急医療施設として、最重症患者に高度な医療技術と大学病院の先端医学情報に基づいた集中治療を提供しています。以前生体センシング機能を備えた傷病者端末の設計開発の研究に参加し、電子トリアージシステムの開発を行ってきました。本研究では、傷病者に装着した脈拍センサや血流センサなどからのセンシング情報を収集し、傷病者の位置や病状変化をリアルタイムで監視・収集・整理し、緊急度が高い傷病者を早期に発見できる救命救急医療支援システムの構築を行いました。一方本研究を通じて、視覚的情報の正確な把握が非常に重要であることが明らかとなりました。今回の共同研究講座では、救急医療において提供される医療画像(色)情報の正確性を評価・分析することです。提供される医療画像情報の「標準化」を行い、医療画像情報提供のプラットフォームを構築することです。色情報を数値化し、標準化された画像情報を利用した救急医療現場への臨床的応用を目指します。
<用語説明>
※1 一般社団法人日本救急医学会救急AI研究活性化特別委員会 救急AI推薦研究
名称 | 救急AI研究活性化特別委員会 日本救急医学会推薦AI 研究 |
組織 | 救急AI研究活性化特別委員会 委員長 齋藤大蔵(防衛医科大学校防衛医学研究センター外傷研究部門 教授) |
採択 | 第48回 日本救急医学会総会・学術集会 会長:小倉 真治(岐阜大学大学院医学系研究科 救急・災害医学 教授) 2020(H32)年11月18日(水)~20日(金) 会場:長良川国際会議場 等 |
研究課題名 | AI活用に向けた、画像・映像デジタルデータ品質について |
研究者 | 研究者代表 髙橋 隼人 (凸版印刷(株)先端表現技術開発本部 部長、日本救急医学会 正会員、(公)映像文化製作者連盟 理事) 共同研究者 秀 道広 (広島大学病院 特別顧問、広島市立広島市民病院 病院長) 井手 亜里 (京都大学大学院 名誉教授、社)先端イメージング工学研究所 代表理事) 馬場 一幸 (目白大学メディア学部 専任講師、(公)科学技術広報財団 理事) 岡本 健 (順天堂大学医学部 救急災害医学 教授、日本救急医学会 正会員) 近藤 豊 (順天堂大学医学部 救急災害医学 准教授、日本救急医学会 正会員) 斉藤 友明 (凸版印刷(株)情報技術研究室 室長、日本救急医学会 正会員) 稲村 崇 (凸版印刷(株)情報技術研究室 部長、日本救急医学会 正会員) 菅野 修 (凸版印刷(株)エキスパートクリエイター、日本救急医学会 正会員) 内山 優 (凸版印刷(株)エキスパートクリエイター、日本救急医学会 正会員) 五嶋 孝 (凸版印刷(株)DXデザイン事業部 事業戦略部 課長、日本救急医学会 正会員) 鈴木 徳彦 (凸版印刷(株)マーケティング事業部 プロモーションデザイン本部 部長、日本救急医学会 正会員) 中越 亮佑 (株式会社JVCケンウッド メディア事業部 事業開発部 部長) 樺澤 宏紀 (株式会社ブロードバンドタワー 取締役執行役員 技術担当) |
サイトURL | https://www.jaam.jp/info/2020/info-20200120_2b.html |
研究目的(概要) | 5G等の高速大容量通信や4K/8K等のICT情報技術革新を契機に、デジタル視覚情報(画像・映像)をヒトが所見する従来の方法のみならず、AI等によるデータそのものの活用が想定されている。本研究は活用・普及が求められるAIや遠隔診療等を想定した「試料」として用いる画像や映像のデジタルデータについて、領域を超えた多彩な専門研究者の知見を結集させ、データ品質の基準とガイドライン等の体系を構築し、社会実装により救急を始めとする社会貢献を目指すものである。 |
※2 真正性 【英】authenticity
正当な権限において作成された記録に対し、虚偽入力、書き換え、消去及び混同が防止されており、かつ第三者から見て作成の責任の所在が明確であることである。なお、混同とは、患者を取り違えた記録がなされたり、記録された情報間での関連性を誤ったりすることをいう。 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.1版(令和3年1月)」よりhttps://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275.html
※3 平成19年度独立行政法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)、
先進的統合センシング技術領域、代表東野輝夫大阪大学教授研究課題「災害時救命救急支援を目指した人間情報センシングシステム」災害時救急救命支援に向けた電子トリアージシステムの設計開発
※4 DTP Desktop publishing
パソコンを使い印刷物のレイアウトや印刷用版下などをデジタルデータで行う一連の制作を指す。印刷用のデジタルデータは非常に高解像度を必要とし、例えば標準的な印刷線数でA3サイズの印刷物を制作するには1,600万画素のデータが必要。ちなみに高精細映像と言われる4Kの解像度は829万画である。日本では1990年代頃から始まったと言われている。
※5 分光反射特性
物体に光が当たった際、物体の種類によって光の波長ごとの反射強度が異なる特性を持つことを指す。物体には、それぞれ特に強く電磁波(可視光は人間の眼で見ることができる波長の電磁波)を反射・吸収・放出する波長域がある。
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以 上
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