“DInSAR”で宇宙から地盤沈下を正確に観測

ー高精度かつより低コストな新モニタリング手法を検証ー

国立大学法人千葉大学

千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程3年生の西勝之進氏、環境リモートセンシング研究センターのヨサファット・テトォコ スリ スマンティヨ教授を中心とする国際研究チームは、神奈川県横浜市、横須賀市、三浦市の地盤沈下を「連続差分干渉SAR解析(Consecutive DInSAR)(注1)」という手法を用い、他のモニタリング手法との比較検討を実施しました。その結果、地盤沈下のメカニズムを特定することに成功しました。
本研究により、Consecutive DInSARは高精度に地盤沈下を検出することのできる新たなツールとなる可能性が示されました。
本研究成果は、2022年12月28日に国際学術誌 Geocarto Internationalに掲載されました。

  • 研究の背景

地盤沈下とは、主に地下水を過剰に汲み上げることで土中に含まれる水が絞りだされ、粘土層が収縮することにより地面が沈む現象です。これは、世界人口の19%に影響を与えるほどの世界的な社会問題で、日本でも首都圏の一部がすでに沈み始めていることが明らかとなっています。この地盤沈下により沿岸地域の洪水・浸水が加速され、建物やインフラに損害を与える可能性があるため、地盤沈下をモニタリングし、危険を早期に検知できる技術が必要とされています。
日本では、一般的に観測井戸を利用して数ヶ月ごとに地表や地下水位の変化を計測しています。全球測位衛星システム (GNSS) (注2)も使われていますが、GNSSの観測値は大気の影響を受けることがあるため、観測井戸の方が信頼性が高いとされています。しかし、観測井戸は設備の老朽化のため定期的な機械のメンテナンスが必要な上に、費用がかかるという問題があります。また少子高齢化が進む日本では、こうした実地測量を担う技術者が今後不足することが予想されています。そのため、それらに換わる新しい地盤沈下のモニタリング技術として、現在「干渉SAR (InSAR)」が注目を集めています。
InSARは、SAR衛星により観測された2つの時期の画像を用いて地表の標高を測定するリモートセンシング技術です。さらに、Consecutive DInSARでは、地盤沈下率や地表速度として数値化し、時系列で標高のミリ単位の変化を測定することができるため、高精度に地盤沈下を検出することができます。
日本・韓国・インドネシアからなる本国際研究チームはまず、欧州宇宙機関の衛星プログラムであるCバンド合成開口レーダを搭載したSentinel-1が2017年8月から2022年3月までに取得した画像を、DInSARを実装したSARPROZのソフトウェアを用いて解析し、GNSS及び観測井戸のデータを用いて検証しました。さらに、地表面における気圧の値を用いて、地下水位や地盤沈下の量と原因を計算する新しい計算モデル"Law of Material Conservation(注3)"を定式化し、対象地域の地盤沈下が地質構造に応じて変化することを明らかにしました。

  • 研究の成果

解析の結果、Consecutive DInSARで得られたデータは、観測井戸やGNSSのデータと整合していることが明らかとなりました。現在の研究では、Consecutive DInSARとGNSSデータ間の速度誤差は、1センチ未満から数センチであり、また平均二乗平均誤差(RMSE)(注4)も1センチ未満から数センチであることが明らかになっています。本研究では、Consecutive DInSARの平均沈下速度は1.58cm/年であり、観測井戸とGNSSデータの速度誤差はそれぞれ0.02cm/年、0.90cm/年の範囲内でした。また、RMSEはそれぞれ0.39cm/年、0.46cm/年の範囲内であり、誤差が非常に少ないことが示されました。さらに、Consecutive DInSARと観測井戸の相関性は観測地点の地質構造に影響される可能性があり、かつ浅い井戸の地層収縮はConsecutive DInSARの地表面変化と一致していることが分かり、地盤沈下のメカニズムも把握できました。

  • 研究者のコメント (西 勝之進氏)

Consecutive DInSARは、今後、現在地盤沈下を観測するために使用されている観測井戸の代替技術となる可能性があります。Consecutive DInSARと衛星データを活用することで、政府や自治体は地盤沈下に対して効果的かつタイムリーな対策を講じることができるようになるだけでなく、コストの削減にもつながるでしょう。また、地盤沈下の度合いや原因がわかれば、地盤沈下の基準値を設定したり、地下水の使用量を制限することが可能となります。この技術を活用することで、今後沿岸地域や過去に地盤沈下した地域など、危険地域に居住する人々も安全かつ安心して生活することができるようになると期待しています。

  • 用語説明

(注1) 差分干渉SAR解析(DInSAR): Differential Interferometric Synthetic Aperture Radar。SAR衛星により観測された2時期のデータを干渉処理することで地表面の変動を検出する技術である。このうち、Consecutive DInSARは、2時期のデータを時系列で連続的に干渉処理する手法である。
(注2) 全球測位衛星システム (GNSS): Global Navigation Satellite System。航法衛星から発射される信号を用いて位置測定・航法・時刻配信を行うシステムである。米国のGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、ロシアのGLONASS、欧州連合のGalileo等の衛星測位システムの総称である。
(注3) Law of Material Conservation: 地表圧力によって変化する土壌変動量と地下水量が反応前後で保存されることをモデル化したものであり、本研究では、地盤沈下のメカニズムとして定式化している。
(注4) 平均二乗平均誤差(RMSE): Root Mean Square Error。予測値と真値の差分(誤差)を二乗平均し、その平方根をとった値であり、近似式による幾何補正の精度評価の指標として利用される。

  • 論文情報

タイトル: Consecutive DInSAR and well based on the law of material conservation between land surface pressure and ground water to observe land subsidence
著者: 西勝之進1、河合正明2、ボウォ エコ カヨノ3、ミルツァ ムハマド ワカード4、西香織5、ヨサファット・テトォコ スリ スマンティヨ1,6
所属:1千葉大学大学院 融合理工学府、2三菱重工業株式会社(日本)、3ジェンバー大学 (インドネシア)、4Lumir株式会社 (韓国)、5Bella Earther (日本)、6千葉大学 環境リモートセンシングセンター(CEReS)/スブラスマレット大学 (インドネシア)
雑誌名: Geocarto International
DOI: https://doi.org/10.1080/10106049.2022.2159069

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会社概要

国立大学法人千葉大学

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URL
https://www.chiba-u.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月