「糞化石の中にある糞化石」ができる条件を数理モデルで解明
~深海の底生生物の糞食行動の要因を読み解く~
千葉大学大学院教育学研究科修士課程2年の西澤 輝氏と教育学部の泉 賢太郎准教授は、糞化石などの生痕化石(注1)の中に見られる糞化石が形成される条件を数値的に解明しました。こうした「糞化石の中にある糞化石」は、堆積物を食べる底生生物(ベントス(注2))の糞食行動を記録しています。そこで研究チームは、通常は行動生態学の分野で扱われる「最適採餌理論(注3)」の原理を生痕化石に適用した新たな数理モデルを開発し、数値計算を行いました。その結果、深海堆積物中に埋没している排泄物の大きさが糞食行動を引き起こす主要因であることを明らかにしました。
地質年代を通じて糞化石などの生痕化石が大型化した傾向が知られているため、白亜紀以降(注4)には堆積物食性ベントスの糞食行動が起こりやすい条件が成立した可能性が考えられます。
本研究成果は、2023年2月28日に、国際学術誌Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecologyでオンライン公開されました。
地質年代を通じて糞化石などの生痕化石が大型化した傾向が知られているため、白亜紀以降(注4)には堆積物食性ベントスの糞食行動が起こりやすい条件が成立した可能性が考えられます。
本研究成果は、2023年2月28日に、国際学術誌Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecologyでオンライン公開されました。
- 発表のポイント
・深海堆積物中に埋没している排泄物の大きさが糞食行動を引き起こす主要因
・白亜紀以降に糞食行動が起こりやすい条件が成立した可能性
- 研究の背景
このような産状の生痕化石の大半は、白亜紀以降の地層に限って産出することが知られています。白亜紀には、ベントスにとって餌となる植物プランクトンが多様化し、それに伴い深海生態系では様々な変化が起きました。ベントスの糞食行動が白亜紀以降に普遍化したのも、こうした変化の一つの事例と考えられています。しかし、ベントスの糞食行動が実際にどのような要因によって引き起こされるのかについては、十分にわかっていませんでした。
- 研究の成果
今回の研究では、想定される要因の候補を複数選定し、それらをパラメータとしてPFFモデルの数理構造に組み込み、各パラメータの値を妥当な範囲内で変化させてPFF値を計算します。海洋堆積物中の有機炭素の濃度やその深度分布、堆積物中に埋没している排泄物の大きさ、ベントスの消化管断面積など、合計9つのパラメータについて詳細な数値計算を行いました。その結果、PFF値の符号変化への寄与が最も大きいパラメータ(=糞食行動の主要因)は、堆積物中に埋没している排泄物の大きさであることがわかりました(図3)。具体的には、堆積物中に埋没している排泄物が小さい場合にはPFF値が負の値を取るため、このような小さい排泄物を摂食することはベントスにとってはエネルギー的に不利であることを示唆しています。
さらに今回の数値計算の結果は、野外地質調査や文献調査を通じて収集した生痕化石データとも整合的であることも明らかになりました。
- 今後の展望
通常は行動生態学の分野で扱われる最適採餌理論を、古生物学の分野で適用した点に本研究は新規性があります。そのため今後は、PFFモデルを用いることで、これまで数値的に検討することが不可能であった糞食可能性の地質年代を通じた変化(PFF値の年代ごとの変化)を計算することができるようになります。古生物の行動を模擬した数理モデルの解析からは、化石の観察や分析のみからは得られない知見を得ることができます。特に、本研究のような生痕化石のモデリングは、古生物の行動を制約する古環境条件や古生物の適応様式の推定への応用が期待され、古生物学のブレイクスルーに繋がることが期待されます。
- 用語解説
(注2)底生生物(ベントス):河川や海洋などの水域に生息する生物の中で、水底に生息する生物の総称。堆積物食性のベントスは砂や泥などの堆積物ごと摂食し、その中に含まれる有機物を吸収し、砂や泥を排泄物として排泄する。
(注3)最適採餌理論:生物は自身の適応度を最大化させるような採餌戦略をとると仮定した上で、生物の適応的な採餌行動を説明する理論。
(注4)白亜紀:約1億4500万年前から6600万年前までの地質年代。陸上には恐竜や翼竜などが繫栄し、海洋ではアンモナイトやモササウルスや首長竜などが繁栄していた。
(注5)エネルギーバランス:ある行動によって得られるエネルギーと失うエネルギーの差。
- 研究プロジェクトについて
- 論文情報
著者:Ko Nishizawa, Kentaro Izumi
雑誌名:Palaeogeography, Palaeoclimatology, PalaeoecologyDOI:https://doi.org/10.1016/j.palaeo.2023.111475
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