治療が特に困難な結核「プレXDR-TB」新治療法の臨床試験で良好な暫定結果
個別アプローチで治療期間の短縮が可能に
プレ広範囲薬剤耐性結核(プレXDR-TB)は、結核の中でも非常に治療が困難な病気の一つだ。このプレXDR-TB患者を対象に、国境なき医師団(MSF)をはじめとするendTBコンソーシアム(※)が、初めての第3相ランダム化比較試験(endTB-Q試験)を行い、結果を公表した。この臨床試験は、従来の治療法より短い期間で4つの薬剤(べダキリン、クロファジミン、デラマニド、リネゾリド=BCDL)を組み合わせる治療戦略を採用しており、それが全体として高い治癒率を達成、特に結核の非重症患者において、良好な結果を示した。この暫定結果は、今年11月13日にインドネシア・バリ島で行われた「第54回世界肺の健康会議」で発表された。
※end-TBコンソーシアム:国境なき医師団(MSF)、パートナーズ・イン・ヘルス(PIH)、インタラクティブ・リサーチ・アンド・ディベロプメント(IRD)が主導し、国際医薬品購入ファシリティ(ユニットエイド=Unitaid)が資金援助するコンソーシアム
長く副作用の強い治療法からの脱却を目指して
プレXDR-TBは、最も有効性の高い抗結核薬であるリファンピシン(通常の結核治療に用いられる薬)やフルオロキノロン系抗菌薬(リファンピシンに耐性を持つ結核治療の鍵となる薬剤の一種)などに、耐性を有している。そのため、プレXDR-TBのレジメン(治療計画)はこれまで、忍容性(薬を服用した際に現れる副作用の程度)が高く、治療期間が最長2年で、治癒する症例は半数以下、というものが採用されてきた。
これに対し、endTB-Q試験は、これまでのendTB試験を基に、長期で副作用の強い薬剤耐性結核のレジメンから大きな転換を推し進めるものだ。さらに、endTB-Q試験は、重症度と早期治療への反応を考慮し、治療期間を6カ月か9カ月か選べる個別の医療戦略を用いた初めての試験でもある。endTB-Q試験には、インド、カザフスタン、レソト、パキスタン、ペルー、ベトナムの6カ国から計323人が参加しておりこの試験から得られる結果は、多様な患者に当てはまるものになっている
PIHでendTBの共同責任者を務めるキャロル・ミトニック教授は、「治療が難しい結核患者も、短期レジメンで治療を成功に導けるということが、endTB-Qの先行研究で示されました」としながらも、次のように指摘する。
「ただ、今回の試験はプレXDR-TB患者のみを対象としているため、フルオロキノロン系抗菌薬を使えない治療には以前は過小評価されていた重大なリスクがあることも明らかになりました。そして、どんなレジメンであれ、手厚いサポートと注意深い副作用の管理こそ、成功の鍵であることに変わりはありません」
また、パキスタンにおけるendTB-Q試験の責任者であるナシーム・サラーフディン医師は語る。
「薬剤耐性(AMR)はパキスタンの人びとの健康にとって巨大な脅威です。プレXDR-TBはAMRの中でも特に憂慮すべき病態となっています。このように差し迫ったニーズのあるパキスタンで試験を実施したおかげで、そういった場所での解決策を系統的に試すことができました」
この試験で得られた主な知見は以下の通り。
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BCDLを6カ月間ないし9カ月間投与すると、長期レジメン(治癒率89%)より若干低いものの、良好なアウトカムを示す率が高かった(治癒率87%)。
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BCDLの投与を6カ月の治療計画で開始し、治療への反応が遅れた場合は9カ月に延長したところ、治療開始時に重症の結核病変がない患者においては著しく有効であるという結果が得られた(治癒率93%)。
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重症結核患者において、BCDLを9カ月間投与しても、長期レジメンと比較して再発予防効果は不十分であった。
MSFのendTBプロジェクトリーダーであり、共同責任者のロレンツォ・グリエルメッティ医師は「この臨床試験は、いくつかの重要な点で革新的でした」と話す。
「結核の治療は『ひとつの治療法が万人に当てはまる』というものでないことは分かっているので、私たちはシンプルな基準に基づいて、重症度や治療効果に応じて治療期間を調整する戦略を試したのです。得られた新たなエビデンスは、BCDLのレジメンは重症でない結核患者には適しているが、重症の結核患者にはリスクが高いことが強調されています」
最適な治療法を選択するために
このような考察が得られたのは、試験の設計が洗練されていたというところも大きい。これまで顧みられなかったプレXDR-TB患者の集団に焦点を当てたこと、最新の非常に有効なレジメンを採用した内部対照の使用を選択したことなどがそれにあたる。
この試験結果は、プレXDR-TBにおける最適な治療法を選択するには、個々のリスクとベネフィット、特に治療開始時の結核の重症度を慎重に考慮する必要があることを示唆している。結果に基づき、BCDLの投与を6カ月間の計画で開始し、治療への反応が遅れた場合は9カ月間に延長するという戦略を、非重症プレXDR-TB患者にも適用すべきだ。一方で、重症プレXDR-TB患者には、治療後の再発を予防するために長期レジメンがより適している可能性がある。
「治療が最も困難な薬剤耐性結核に焦点を当てたこの画期的な試験の結果は、致死的な結核に対する効果的な治療方法について、理解を深めることが緊急に必要であることを強調しています」とUnitaidのエグゼクティブ・ディレクター、フィリップ・デュネトン医師は語る。
「さらに、人間中心、地域主導のアプローチを強化することの重要性も浮き彫りにしています。この新たなエビデンスは、この分野への私たちの継続的かつ将来的な投資を支えるものになるでしょう」
この大きな進歩は、世界保健機関(WHO)が多剤耐性結核(MDR-TB)に対する新しい短期レジメンを推奨する(今年8月)など、結核治療における最近の画期的な進展に追加されるものだ。今後は、強化されたレジメンを必要とする患者の特定を改善しながら、プレXDR-TBにおける治療の構成と期間の両方を最適化する研究が求められるだろう。
endTB-Q試験はユニットエイド(Unitaid)、国境なき医師団(ラモン・アレセス財団とユング科学研究財団の後援による)、PIHが共同出資している。比較的新しい抗結核薬であるべダキリンとデラマニドを、旧来の薬と組み合わせて使う史上初の試験である。最も耐性の強い結核菌の治療法改善に向けたNGOによる取り組みの一環として行われた。フルオロキノロン耐性結核に対する短期間・低副作用性、有効なレジメンの新たな選択肢が出現し始めていることから、endTB-Qは大いに有望視されている。
【国際医薬品購入ファシリティ(ユニットエイド=Uninaid)について】
Unitaidは低・中所得国の人びとに新しく、安価な検査・診断製品や治療法を届けることで命を救っている。Unitaidはパートナーと連携して、革新的な治療、検査、ツールを特定し、それらを阻む市場の障壁に取り組み、それらを最も必要としている人びとに迅速に届ける支援をしている。2006年の創設以来、UnitaidはHIV、結核、マラリア、女性と子どもの健康、パンデミック(世界的大流行)予防、準備、対応など、世界最大の保健課題に取り組むための100以上の画期的な検査・診断製品や治療法を送り出してきた。毎年、これらの製品は1億7000万人以上の人びとに役立っている。Unitaidは、世界保健機関(WHO)と連携している。https://unitaid.org/#en
【国境なき医師団(MSF)について】
民間で非営利の医療・人道援助団体。紛争地や自然災害の被災地、貧困地域などで危機に瀕する人びとに、独立・中立・公平な立場で緊急医療援助を届けている。現在、世界約70の国と地域で活動。MSFの結核対策は30年余りに及び、1999年よりMDR-TB治療プログラムに着手。現在、30カ国で結核治療プロジェクトを実施しており、薬剤耐性結核の治療を行う最大級のNGOである。2022年には、世界各地にあるMSFのプログラムで1万7800人が第一選択薬による結核の治療を開始し、2590人が薬剤耐性結核の治療を開始した。www.msf.org。
【パートナーズ・イン・ヘルス(PIH)について】
PIHは、貧困層や社会の片隅に追いやられた人の健康改善にまい進する世界的な保健団体。PIHは現地の能力を高め、貧しい地域社会と密接に協力して、質の高いヘルスケアを提供し、病気の根本原因に取り組み、医療従事者を訓練し、研究を進め、世界的な政策変更を提唱している。MDR-TBの治療には1995年に着手し、以後、ペルー、ロシア、ハイチ、レソト、カザフスタンなど複数の国で地域密着型の治療プログラムを実践している。 www.pih.org
【インタラクティブ・リサーチ・アンド・ディベロプメント(IRD)について】
IRDは保健医療の提供と研究を行う世界的な団体。ドバイを拠点に、MDR-TBの疾病負荷の高いパキスタン、インドネシア、バングラデシュをはじめ合計15ヵ国で活動している。IRDチームは、医療市場イノベーションの活用を含め、世界的な医療格差対応に、プロセスと技術のイノベーションを活用。肺の健康や糖尿病ケアの民間事業者を巻き込むソーシャルビジネスのような保健医療市場の革新、地域調査員や治療支援者を対象とした実績に基づくインセンティブ、治療の順守を促す患者へのインセンティブ、治療とプログラムの質を詳細に観察するためのオープンソースの情報技術プラットフォームなどに取り組んでいる。https://ird.global/
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