iPS細胞技術でヒト感覚神経に対する新知見
- 防腐剤や大気汚染物質が感覚異常を起こす可能性を確認 -
株式会社ファンケルは、株式会社リプロセル(本社所在地:横浜市港北区、代表取締役社長:横山周史、以下リプロセルと表記)と共同で開発した「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞(1)」を使用し、防腐剤や大気汚染物質が、神経を刺激して正常な状態から過敏な状態に変化させる可能性を明らかにしました。この研究成果は、当社が順天堂大学大学院医学研究科・環境医学研究所 (所長:髙森建二)に設置した「抗加齢皮膚医学研究講座」における皮膚のかゆみ研究によるもので、その内容は、第31回 国際化粧品技術者会連盟 横浜大会2020 (2020年10月21日から30日開催) で、“Development of a Novel in vitro Assay to Measure Environment-Triggered Skin Hypersensitivity in Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Sensory Neurons”として学術発表しました。
<研究結果>
【皮膚中に残存する防腐剤が、感覚神経線維を増生する可能性を確認】
「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞」を、化粧品を使うことで皮膚中に残存すると予測される濃度の防腐剤を含む培地で培養しました。代表的な防腐剤としてメチルパラベンとフェノキシエタノールを例に実験を行ったところ、感覚神経線維(2)がそれぞれ1.8倍 (図1)と2.1倍 (図2)に増えることが分かりました。これらの結果は、防腐剤が直ちに皮膚の感覚異常を起こすことを示すものではありません。しかし、皮膚バリア機能が低下した敏感肌においては、防腐剤を含む化粧品の使用で感覚神経線維が健常な肌状態よりも増加することが示唆され、感覚異常の発生リスクを高める可能性があります。
大気汚染物質の代表としてベンゾピレンについても、感覚神経線維への影響を検討しました。ベンゾピレンは、皮膚内部に浸透して炎症や老化の原因にもなりうる物質です。「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞」を、皮膚内に到達する可能性のある濃度のベンゾピレンを含む培地で培養したところ、感覚神経線維にビーズ状の変性が2.7倍の頻度で生じることが分かりました(図3)。このビーズ状の変性は、情報伝達に関与する感覚神経線維がダメージを受け、痛みやかゆみなどの感覚の異常に関連した変化が起きている可能性を示しています。
敏感肌を訴える方は年々増え続けており、その多くは肌がピリピリ、チクチクした刺激やかゆみを感じやすい感覚異常の状態になっています。感覚異常の原因の一つとして、感覚神経線維の密度が増加することが考えられています。しかし、ヒトの感覚神経を身体から取り出して培養することは倫理面から困難であり、動物を用いた実験が主流になっている現在、培養細胞レベルでの研究技術の発展が切望されていました。これまで当社では、再生医療の技術を利用して、リプロセルと共同で高性能の「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞」を開発し、皮膚内部の感覚神経線維を試験管内で再現することに成功しています。今回、この「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞」を使い、私たちの身の回りで広く使われている防腐剤や人体への影響が懸念される大気汚染物質が、感覚神経線維に与える影響について研究を行いました。
<本研究結果による今後と製品開発>
本研究の成果は、感覚神経線維の密度の増生のみならず、神経変性という視点からも感覚異常を捉えることで、多面的なメカニズムの解析が可能となり、皮膚における感覚異常の発生や悪化の原因解明につながることが期待されます。また、本成果を基盤として「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞」を用いたアプローチにより、敏感肌の方でも安心してご使用いただける無添加化粧品の良さを神経科学的に証明できる研究を追究してまいります。さらに、このヒトiPS細胞技術を感覚異常の発生や増悪のメカニズム解明にも応用し、敏感肌の予防と改善に役立つ製品開発に向けた研究も進めていきます。
【用語説明】
(1)ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞:ヒトiPS細胞から作製されたヒト由来の感覚神経細胞
(2)感覚神経線維:感覚神経細胞から伸びている線維状の突起で、皮膚においては痛みやかゆみなどの感覚を受容し、電気信号として伝達している
【皮膚中に残存する防腐剤が、感覚神経線維を増生する可能性を確認】
「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞」を、化粧品を使うことで皮膚中に残存すると予測される濃度の防腐剤を含む培地で培養しました。代表的な防腐剤としてメチルパラベンとフェノキシエタノールを例に実験を行ったところ、感覚神経線維(2)がそれぞれ1.8倍 (図1)と2.1倍 (図2)に増えることが分かりました。これらの結果は、防腐剤が直ちに皮膚の感覚異常を起こすことを示すものではありません。しかし、皮膚バリア機能が低下した敏感肌においては、防腐剤を含む化粧品の使用で感覚神経線維が健常な肌状態よりも増加することが示唆され、感覚異常の発生リスクを高める可能性があります。
【皮膚内に浸透した大気汚染物質が、感覚神経変性を引き起こす可能性を確認】
大気汚染物質の代表としてベンゾピレンについても、感覚神経線維への影響を検討しました。ベンゾピレンは、皮膚内部に浸透して炎症や老化の原因にもなりうる物質です。「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞」を、皮膚内に到達する可能性のある濃度のベンゾピレンを含む培地で培養したところ、感覚神経線維にビーズ状の変性が2.7倍の頻度で生じることが分かりました(図3)。このビーズ状の変性は、情報伝達に関与する感覚神経線維がダメージを受け、痛みやかゆみなどの感覚の異常に関連した変化が起きている可能性を示しています。
<研究背景・目的>
敏感肌を訴える方は年々増え続けており、その多くは肌がピリピリ、チクチクした刺激やかゆみを感じやすい感覚異常の状態になっています。感覚異常の原因の一つとして、感覚神経線維の密度が増加することが考えられています。しかし、ヒトの感覚神経を身体から取り出して培養することは倫理面から困難であり、動物を用いた実験が主流になっている現在、培養細胞レベルでの研究技術の発展が切望されていました。これまで当社では、再生医療の技術を利用して、リプロセルと共同で高性能の「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞」を開発し、皮膚内部の感覚神経線維を試験管内で再現することに成功しています。今回、この「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞」を使い、私たちの身の回りで広く使われている防腐剤や人体への影響が懸念される大気汚染物質が、感覚神経線維に与える影響について研究を行いました。
<本研究結果による今後と製品開発>
本研究の成果は、感覚神経線維の密度の増生のみならず、神経変性という視点からも感覚異常を捉えることで、多面的なメカニズムの解析が可能となり、皮膚における感覚異常の発生や悪化の原因解明につながることが期待されます。また、本成果を基盤として「ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞」を用いたアプローチにより、敏感肌の方でも安心してご使用いただける無添加化粧品の良さを神経科学的に証明できる研究を追究してまいります。さらに、このヒトiPS細胞技術を感覚異常の発生や増悪のメカニズム解明にも応用し、敏感肌の予防と改善に役立つ製品開発に向けた研究も進めていきます。
【用語説明】
(1)ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞:ヒトiPS細胞から作製されたヒト由来の感覚神経細胞
(2)感覚神経線維:感覚神経細胞から伸びている線維状の突起で、皮膚においては痛みやかゆみなどの感覚を受容し、電気信号として伝達している
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