肥料に変換できるプラスチックの機能化に成功~循環型プラスチック社会を担う高分子材料の設計指針を提案~
千葉大学大学院工学研究院の青木大輔准教授、東京工業大学物質理工学院応用化学系の阿部拓海大学院生(研究当時)、大塚英幸教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の神谷岳洋准教授らの研究チームは、植物を原料とした高分子(プラスチック)(注1)の機能化手法を確立しました。さらに、機能化されたプラスチックをアンモニア水で分解することで得られる分解生成物には、植物の成長を促進する肥料としての効果があることも確認されました(図1)。
本研究では、使用後の廃棄プラスチックを肥料として利用できる、次世代高分子材料の設計指針を提案しています。研究成果は4月11日(現地時間)にPolymer Chemistryに掲載されました。
本研究では、使用後の廃棄プラスチックを肥料として利用できる、次世代高分子材料の設計指針を提案しています。研究成果は4月11日(現地時間)にPolymer Chemistryに掲載されました。
- 研究の背景
このような背景のもと、研究チームは、結合としての安定性と利用後の分解性を考慮してカーボネート結合に注目しました。カーボネート結合はそのままでは安定している一方、身近な塩基であるアンモニアと反応し、肥料として働く尿素へと変換できます。
先行研究では、この有機反応をポリイソソルビド(注2)という糖由来のポリマー(注3)(PIC)へと適用することで、分解生成物(糖由来のモノマー(注4)と尿素(注5)の混合物)がそのまま肥料として利用できることを明らかにしました(図2)。しかし、PICはそのままでは脆く、材料として利用するためにその機能を改善する方法(機能化手法)の開発が求められていました。
- 研究の成果
イソソルビトとDBMの共重合体は、汎用高分子材料よりも高い耐熱性を示し、ボロン酸(注9)試薬を用いて高分子合成後に機能団を導入可能であり(図4左)、PICの課題である物性調整や新たな機能付与に利用できることが明らかとなりました。
さらに、得られた共重合体のアンモニア分解について評価したところ、PICと比べてその分解が早いことがわかりました。つまり、高分子の「機能化」にも「分解」にもポリマー中のマンニトール由来の水酸基が大きく寄与することがわかりました。
最後に、得られた共重合体の分解生成物(イソソルビド、マンニトール、尿素の混合物)を用いてシロイヌナズナ(注10)の生育実験を行いました。その結果、本共重合体からの分解生成物が肥料として機能することが明らかになりました(図4右)。
- 今後の展望
- 用語解説
(注2)ポリイソソルビド:再生可能な生物由来のモノマーの1つで、グルコースを化学変換して得られる。イソソルビドをモノマーに用いて得られるポリカーボネートには、石油資源(ビスフェノールA)から得られるポリカーボネートに匹敵する耐熱性、機械的強度、透明性を有するものもある。
(注3)ポリマー:分子量の大きい分子で、その化学構造が「モノマー」と呼ばれる規則的な繰り返しの構造単位からできているもの。
(注4)モノマー:高分子(ポリマー)を構成する低分子の単位分子。
(注5)尿素:1分子あたりの窒素原子含有率が高く、植物の葉や茎を育てる化学肥料として古くから農業で使用されている。
(注6)マンニトール:自然界にも広く分布する糖質。食物や薬剤などに使用される。
(注7)共重合:2種類以上のモノマーを用いて行う重合のこと。生成するポリマーは共重合体と呼ばれ、ポリマーの改質に利用される。1種類のモノマーからなるポリマーは単独重合体(ホモポリマー)と呼ばれる。
(注8)脱保護:保護基は特定の化学反応から官能基を保護するが、使用目的後にその保護基を外すこと。今回は、一部の水酸基を重合反応中に保護しておき、重合後にその保護を外すことでポリマー主鎖骨格中に水酸基を導入している。
(注9)ボロン酸:R-B(OH)2の化学構造を有し、一般的に空気や水に安定で取り扱いやすい。合成中間体として高い汎用性があるため有機合成と創薬化学の分野で広く利用される。
(注10)シロイヌナズナ:通称ぺんぺん草。成長が速く、室内で容易に栽培でき、多数の種子がとれることから、植物のモデル生物として生育試験に広く用いられる。
- 研究プロジェクトについて
科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST
研究領域:「分解・劣化・安定化の精密材料科学」
研究総括:高原淳(九州大学 ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 特任教授)
研究課題名:「カーボネート結合に基づく高分子材料循環システムの構築」(課題番号JPMJCR22L1)
研究代表者:青木大輔(千葉大学 大学院工学研究院 准教授)
- 論文情報
著者:Takumi Abe, Takehiro Kamiya, Hideyuki Otsuka, and Daisuke Aoki
雑誌名:Polymer Chemistry
DOI:https://doi.org/10.1039/d3py00079f
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