店頭から消えた。でも、いい時計はほかにもある。『ロレックスが買えない。』発売。
古今東西で愛され続けている腕時計の代名詞的な存在だが、コロナ禍以降、異変が起きている。
以前から「コスモグラフ デイトナ」など、百貨店などの店頭に並ばない一部の稀少モデルは存在したが、2023年のいま、ほぼすべての人気モデルが店頭から消えた。
いったい、どこに消えたのか。その背景とはいったい?
そして、お目当てのロレックスを購入したい人々にとって、納得できる代案は?
ロレックスを買いたい人、買えない人。いまのところ買う機会はないが関心のある人――にとって必読の書です。
【はじめに】
腕時計ジャーナリストとして本格的に書き始めてから、すでに 30年近い。大学教授になったのは13 年前だから、腕時計の方がずっと前だ。ロレックスを四半世紀以上前から見続けてきたことになる。
新作の多くは、日本ではなくスイスでの発表時に取材し、実物を手に取り、説明を受け、質問を繰り返してきた。それは重要な意味をもっていた。実機が日本にはなかなか届かず、届いてもすぐに買い手がついてしまうので、実際に触って細部までみることが難しかったからだ。
ロレックスの記事を担当した雑誌編集者ならわかるだろうが、撮影用に腕時計を日本ロレックスから借りようとしても、なかなか難しい。売らなければならないので、撮影用の個体をキープできないのである。
ロレックスの、とくにスポーツモデルは、いつの時代も足りていなかった。それをあたり前のように受け取っていたし、ロレックスの悪口など、誰もいわなかった。あのクオリティの高さを維持しながら増産しろとはいえない。品質に比べて、無茶な値付けもしないのだ。
行列ができる飲食店のように、人気アーティストのコンサートチケットが数分で完売するように、そこには当然の理由があった。ロレックスはそれだけよい腕時計をつくってきたのだから、文句をいうのも野暮な話である。
このような品不足ながらも平和という不思議な平衡状態が激変したのは、ここ数年のことだ。新型コロナウイルスの世界的流行と同時に、ロレックスは足りないどころか買えない、という声が聞かれ、事実もそれを裏付けていた。さまざまな手が打たれているが、まだ事態は沈静化していない。
そんな時代に腕時計を手に入れたいならば、何を考え、どういう行動を取るべきか。この本は第1章で、ロレックスの超越的な人気の源泉をもう一 度、掘り下げてみた。まずは、 ロレックスと自分の間の、取るべき距離感を確認してほしいと願ったからである。
次に第2章で、現在の「ロレックス不足」に至る状況について、可能な限り取材を重ねて、事実と分析を提示した。ここまでで、腕時計ファンになったばかりの人でも、状況が把握できるだろう。
そして以降は「では、どうするのか」である。“To Rolex, or not to Rolex, that is the question. ” ロレックスか、ロレックス以外か。悩む価値がある問題であるし、答えはひとりひとりにしか出せない。それでも、これだけは伝えておきたいこと、忘れてはならない存在について、後半の全てを費やしている。
腕時計と出会う幸せは、実はすぐ近くにあるのかもしれない。それを見落としてほしくない、そう思うのである。
【著者】
並木浩一
腕時計ジャーナリスト
桐蔭横浜大学教授(博士)
1961年横浜市生まれ。ダイヤモンド社にて雑誌編集長、編集委員を経て現職。1990年代よりスイスの2大国際時計見本市(バーゼル、ジュネーブ)を含めて、国内外の時計界を取材し、高級腕時計の書き手として第一線で活躍。学術論文も発表、テレビ・新聞でも多数コメント。生涯学習機関の「学習院さくらアカデミー」と「早稲田大学エクステンションセンター」では、一般受講可能な腕時計講座も開講している。主な著書に『腕時計一生もの』(光文社新書)『腕時計のこだわり』(SB新書)『男はなぜ腕時計にこだわるのか』(講談社)など。雑誌では、「並木浩一の時計文化論」(『ウォッチナビ』/ワン・パブリッシング)、「並木教授の腕時計デザイン論」(『Pen』/CCCメディアハウス)等を連載中。
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