高齢者専門大学病院における多職種によるフレイル実態調査ではフレイル有病率は16.6%で、一般地域住民の有病率より高率であった。
フレイル患者は胃もたれ症状で困っていることを確認
順天堂大学の浅岡大介教授※1,4、菅野康二准教授※2、松野圭准教授※2、宮内克己特任教授※3らのグループは、高齢者専門大学病院における多職種による高齢者のフレイルの実態調査を本邦で初めて実施し、フレイルの有病率は 16.6% (172例/1039例) と一般地域住民を対象とした過去の研究の有病率(7.4%)より高く、高齢者フレイル患者は胃もたれ症状で困っている(*1)ことを確認しました。健康長寿に影響を及ぼすフレイルに対し、胃もたれ症状の重要性が示唆されました。本研究はDiagnostics誌のオンライン版に2024年12月25日付で公開されました。
※1:順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 消化器内科
※2:順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 呼吸器内科
※3:順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 循環器内科
※4:順天堂大学 健康総合科学先端研究機構 ジェロントロジー研究センター
本研究成果のポイント
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高齢者専門大学病院における多職種によるフレイル実態調査の大規模前向きコホート研究(JUSTICE研究)の登録時データを用いた横断研究では、フレイル(改訂J-CHS基準)の有病率は16.6%であり、一般の地域住民を対象とした過去の研究の有病率(7.4%)より高かった。
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高齢者フレイル患者は胃もたれ症状で困っていることが明らかとなった。
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フレイル患者は非フレイル患者と比べ、高齢で転倒歴・ステロイド/鎮痛薬使用・サルコペニア(+)・うつ症状・COPDスコアが高く 、QOLや認知機能・嚥下機能は低かった。
背景
フレイルは「加齢により心身が老い衰えた状態」を指すが、寝たきり・要介護の要因として重要であり、人生100年時代・超高齢社会のわが国において健康長寿を妨げる一因となっており、フレイル予防は喫緊の課題となっています。本邦におけるフレイルの疫学では、一般の地域住民を対象とした過去の研究で、7.4%と報告されています*2が、高齢者専門大学病院における高齢者のフレイルの実態は不明な点が多く、多職種による多岐にわたるフレイルに関する実態調査は少ないです。当センターでは各内科疾患のみならずフレイル・サルコペニア・認知症・骨粗鬆症診療も合わせて行い、高齢者をトータルマネージメントする『長寿いきいきサポート外来』を2022年に開設し、高齢者の健康長寿を目指しています。今回、フレイルの最新の診断基準(改訂J-CHS基準)を用いて、高齢者専門大学病院における多職種によるフレイルの有病率ならびにフレイルのリスク因子を横断研究で検討することを目的としました。
内容
研究方法
●対象者:当センター内科外来を受診した65才以上の高齢者で自立歩行可能(杖歩行含む)である男性 460例、女性 579例の計1039名(平均年齢 78.2±6.1歳、平均BMI 22.9±3.7)
●試験デザイン:横断研究(高齢者専門大学病院における多職種によるフレイル実態調査の大規模前向きコホート研究(JUSTICE研究)の登録時データを使用)
●調査項目:
(1)「医師による」患者背景問診: 年齢、性別、BMI(身長、体重)、SpO2、飲酒(0: None or social、1; 1–4 days /week、2: 5–7 days / week)、喫煙(Brinkman Index: 本数x年数)、併存疾患(脳梗塞/出血・心筋梗塞・心不全入院歴・間質性肺炎・悪性腫瘍・高血圧症・糖尿病・心房細動・骨粗鬆症・サルコペニア・低亜鉛血症)。
(2)「薬剤師による」内服薬(お薬手帳): スタチン、酸分泌抑制薬、下剤、ステロイド、鎮痛薬、抗認知症薬、抗精神病薬。総内服薬剤数。
(3)「看護師による」質問票: 消化器症状関連QOL問診票(出雲スケール)、便秘重症度問診票(constipation scoring system(CSS))、簡易QOL評価(EQ-5D)、転倒歴、デイケア利用歴、社会的フレイル、オーラルフレイル問診票 (Oral Frailty Index (OFI)-8)、嚥下評価問診票(EAT-10)、COPD問診票(chronic obstructive pulmonary disease (COPD) assessment test (CAT))。身体測定: 握力・歩行速度(6m)計測。
(4)「心理士による」認知機能関連問診(MMSE (Mini-Mental State Examination))、老年期うつ病評価尺度(Geriatric depression scale 15;GDS15)
(5)「管理栄養士による」栄養評価: 食品摂取の多様性得点(DVS: Dietary Variety Score)), CONUT score = (Alb, total Lymphocyte count, TC)
(6)「診療放射線技師による」骨格筋量・骨密度測定: 二重X線エネルギー吸収法(DXA法): 骨格筋量指数: SMI(Skeletal Muscle Mass Index)(kg/m2)、腰椎・大腿骨頸部骨密度
(7)「臨床検査技師による」生理機能検査: 採血、心電図(ECG)、呼吸機能検査(拘束性換気障害、閉塞性換気障害)、BIA法(タニタ)による位相角(phase angle: PhA)測定
●評価: 高齢者フレイルの有病率ならびに、フレイルのリスク因子の検討(単変量・多重ロジスティック解析)
研究結果
1.高齢者専門大学病院における高齢者フレイルの有病率 ※(図1)
高齢者におけるフレイルの診断は、2020年に改訂された最新の診断基準である、改訂日本版CHS (J-CHS)基準に従い定義した。3項目以上に該当する場合、フレイル(+)とした (3項目未満の場合フレイル(-))。
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全体(1039例)におけるフレイル有病率は、 16.6% (172例/1039例) だった。
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本邦におけるフレイルの疫学では、一般の地域住民を対象とした過去の研究で 7.4%と報告されている(*2)が、本検討では一般地域住民の有病率より高かった。
2.高齢者フレイル患者のリスク因子の検討 (単変量解析) ※(図2)
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フレイル患者は非フレイル患者に比べ高齢であったが、性別、BMI、Brinkman Index、飲酒については2群間で有意差は認めなかった。
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フレイル患者は非フレイル患者に比べ、脳梗塞/脳出血・心筋梗塞・間質性肺炎・糖尿病・骨粗鬆症・サルコペニア・低亜鉛血症の症例が多かった。
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フレイル患者は非フレイル患者に比べ、下剤・ステロイド・鎮痛薬・抗精神病薬内服・総薬剤数が多かったが、スタチン内服例は少なかった。
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フレイル患者は非フレイル患者と比べ、逆流・胃痛・胃もたれ・便秘・下痢の全ての消化器症状スコア(※数値が高いと困っている)と便秘重症度(※数値が高いと重症)がいずれも高値で、転倒/デイケア利用歴・社会的フレイル/オーラルフレイル・うつ(GDS)・嚥下機能(EAT10)(※数値が高いと嚥下能低下)・COPD(CAT10)も高値であった。また、フレイル患者は非フレイル患者と比べ、 QOL・認知機能(MMSE)は低値だった。
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栄養面では、フレイル患者は非フレイル患者と比べ、 CONUT scoreが高かった(※数値が高いと栄養が悪い)。
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生理機能検査では、フレイル患者は非フレイル患者と比べ、拘束性換気障害が多く、位相角が高値だった。
3.高齢者フレイル患者のリスク因子の検討 (多重ロジスティック解析) ※(図3)
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高齢者フレイルと消化器症状QOLとの関連について、多重ロジスティック解析の結果、高齢者フレイル患者は特に胃もたれ症状でこまっていることが明らかとなった。
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フレイル患者では非フレイル患者と比べて、年齢・転倒歴・ステロイド/鎮痛薬使用・サルコペニア(+)・うつ症状(GDS-15)・嚥下機能(EAT10)(※数値が高いと嚥下機能低下)・COPD(CAT10)スコアが高く、QOLや認知機能(MMSE)は低かった。
今後の展開
順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センターは、超高齢社会・人生100年時代において、健康寿命延伸対策として、2022年に『長寿いきいきサポート外来』を開設し、各内科疾患のみならず、フレイル・サルコペニア・認知症・骨粗鬆症診療も合わせて行い、高齢者をトータルマネージメントすることにより高齢者の健康長寿に積極的にかかわり、予防対策に努めています。今後、本研究での知見をもとに、高齢者の健康寿命延伸を目標に、フレイル・サルコペニア・認知症・骨粗鬆症等に対して、予防・介入を含めた臨床研究を精力的にすすめていきたいと考えています。
用語解説
*1 消化器症状関連QOL問診票(出雲スケール)
出雲スケールは、逆流、胃痛、胃もたれ、便秘、下痢の5つの(上部から下部)消化器症状を全般的に評価する合計15項目からなる自己記入式質問票である。各消化器症状ごとのQOLを得るために、0点(まったく困らなかった)~5点(がまんできないくらい困った)の6段階のスコアが使用される。各消化器症状別QOLは、0点(障害なし)から15点(重度障害)までスコア化される。
Furuta, K. Ishihara, S. Sato, S. Miyake, T. Ishimura, N. Koshino, K. Tobita, H. Moriyama, I. Amano, Y. Adachi, K. et al. Development and verification of the Izumo Scale, new questionnaire for quality of life assessment of patients with gastrointestinal symptoms. Nihon Shokakibyo Gakkai Zasshi 2009, 106, 1478–1487.
*2 参考文献
Kojima, G.; Iliffe, S.; Taniguchi, Y.; Shimada, H.; Rakugi, H.; Walters, K. Prevalence of frailty in Japan: A systematic review and meta-analysis. J. Epidemiol. 2017, 27, 347–353.
原著論文
本研究はDiagnostics誌のオンライン版に2024年12月25日付で公開されました。
タイトル: Association Between Gastrointestinal-Related Quality of Life and Frailty Using Baseline Data of the Prospective Cohort Study (JUSTICE-TOKYO Study)
タイトル(日本語訳): フレイルと消化管症状QOLとの関連 (前向きコホート研究(JUSTICE-TOKYO study)の登録時データを用いて)
著者: Daisuke Asaoka1, Osamu Nomura1, Koji Sugano2, Kei Matsuno2, Hiroyuki Inoshita3, Nobuto Shibata4, Hideki Sugiyama4, Noemi Endo4, Yoshiyuki Iwase5, Miyuki Tajima6, Naoko Sakuma6, Megumi Inoue6, Mariko Nagata6, Taeko Mizutani7, Mizuki Ishii7, Sachi Iida7, Yoshiko Miura8, Yuji Nishizaki9, Naotake Yanagisawa9, Tsutomu Takeda10, Akihito Nagahara10, Katsumi Miyauchi11
著者(日本語表記): 浅岡大介1, 野村収1, 菅野康二2, 松野圭2, 井下博之3, 柴田展人4, 杉山秀樹4, 遠藤野恵美4, 岩瀬嘉志5, 田嶋美幸6, 佐久間尚子6, 井上恵6, 永田真理子6, 水谷多恵子7, 石井みづき7, 飯田茶稚7, 三浦佳子8, 西﨑祐史9, 柳澤尚武9, 竹田努10, 永原章仁10, 宮内克己11
著者所属: 1)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 消化器内科、 2)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 呼吸器内科、 3)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 腎臓内科、 4)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター メンタルクリニック、 5)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 整形外科、 6)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 薬剤科、 7)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 看護部、 8)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 栄養科、 9)順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター 臨床研究支援センター、 10)順天堂大学 消化器内科、 11)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 循環器内科
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