高齢心不全患者における入院前の運動習慣と退院後の予後との関連性を解明

― 運動習慣が高齢心不全患者の予後と関連する要因となり得るか ―

学校法人 順天堂

順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の中出泰輔大学院生、末永祐哉准教授、鍵山暢之特任准教授、前田大智非常勤助教、藤本雄大大学院生、堂垂大志非常勤助教、砂山勉非常勤助教、南野徹教授らの研究グループは、高齢心不全患者における入院前の運動習慣と退院後の予後との関連性を明らかにしました。心不全と診断された後の運動療法の有効性については多くの研究が報告されていますが、入院前の運動習慣の実態は十分に解明されておらず、特に高齢心不全患者の退院後の予後との関連については、これまで十分な症例数を用いた検討がなされていませんでした。本研究では、世界最大規模の多施設レジストリデータ*¹「FRAGILE-HF」*²を用いて解析を行い、入院前の運動習慣と退院後の予後との関連性を検証しました。その結果、対象となった高齢心不全患者1,262名のうち、46.5%の患者が入院前に運動習慣を有さず、さらに運動習慣を有さない患者は、有する患者に比べて退院後の予後が不良であることが示されました。本研究は、入院前の運動習慣の評価が心不全患者のリスク管理において重要である可能性を示唆しており、今後の予防的介入や治療戦略の改善につながることが期待されます。

本研究成果は、European Journal of Preventive Cardiology誌のオンライン版に2025年2月19日付で掲載されました。

   

本研究成果のポイント

●高齢心不全患者において、入院前に運動習慣を有さない患者の割合は約半数であった。

●入院前に運動習慣を有さない患者は、退院後の予後が不良であることが明らかになった。

 

背景

心不全は高齢者に多い主要な疾患であり、再入院や死亡リスクが高いことから、適切な管理が求められます。これまでの研究では、心不全診断後に実施される運動療法の有効性が示されてきましたが、入院前の運動習慣が退院後の予後に与える影響については十分に解明されていませんでした。本研究では、高齢心不全患者における入院前の運動習慣と退院後の予後の関連を検討しました。

内容

本研究では、2016年から2018年にかけて、国内15施設において急性非代償性心不全で入院し、独歩退院が可能となった65歳以上の心不全患者を前向きに登録した多施設コホート研究「FRAGILE-HF」のデータを用いて統計解析を行いました。解析対象は、FRAGILE-HFに登録された1,262名の患者(中央値年齢81歳、男性56.9%)であり、入院前の運動習慣の有無を簡易的なアンケートにより評価しました。具体的には、ウォーキング以上の強度の運動を週に1回以上実施していた患者を「運動習慣あり群」、それ未満の患者を「運動習慣なし群」として分類しました。その結果、46.5%(n=587)の患者は入院前に運動習慣を持たず、53.5%(n=675)の患者が何らかの運動習慣を有していました。また、運動習慣を持たない患者は、持つ患者に比べて6分間歩行距離、握力、四肢骨格筋指数(ASMI)、歩行速度、SPPB(Short Physical Performance Battery)スコア、および5回椅子立ち上がり試験*³などの身体機能が低いことが確認されました。さらに、退院後2年間の追跡調査において、運動習慣を持たない患者の生存率が有意に低いことが明らかになり、また、単変量および多変量のCox比例ハザードモデル*⁴による解析でも、運動習慣が死亡リスクと有意に関連していることが示されました(図1)。

今後の展開  

本研究では、高齢心不全患者において入院前の運動習慣の有無が退院後の予後と関連する可能性が示唆されました。しかし、本研究は患者の主観的な評価に基づいて運動習慣を分類しており、活動量や歩数といった客観的な指標を用いた評価は行われていません。今後は、加速度計や歩数計などの客観的なデータを活用し、より具体的な運動習慣の実態を把握するとともに、予後との関連性をより精緻に検証することが求められます。また、運動習慣の評価を精度向上させることで、心不全患者のリスク層別化や、適切な運動介入プログラムの開発にもつなげていきたいと考えています。

  

用語解説

*1 多施設レジストリデータ:特定の疾患に関する様々なデータ(患者数、検査結果、予後など)を調査するため、複数の病院において、特定の疾患に罹患した患者を網羅的に登録したデータのこと。

*2 FRAGILE-HF:高齢心不全患者における身体的・社会的フレイルに関する疫学・予後調査 ~多施設前向きコホート研究~

*3 SPPB(Short Physical Performance Battery):身体機能を評価する指標で、バランステスト、歩行速度テスト、5回椅子立ち上がりテストの合計点(0~12点)で構成される。スコアが高いほど身体機能が良好で、低い場合は運動機能低下のリスクが示唆される。

*4 単変量および多変量のCoxモデル:時間と共に変化するイベント発生リスクに対し、一つ(単変量)または複数(多変量)の因子がどのように影響するかを分析する統計モデル

研究者のコメント

本研究は後ろ向きの解析であり、「運動習慣をつけることで退院後の予後が改善する」という直接的な因果関係を証明したわけではない点には注意が必要です。一方で、入院前の運動習慣の有無は、心不全患者のリスク層別化に有用である可能性が示唆されました。

原著論文 

本研究はEuropean Journal of Preventive Cardiology誌のオンライン版に2025年2月19日付で公開されました。

タイトル: Association of pre-admission exercise habit with post-discharge outcomes for older patients with heart failure

タイトル(日本語訳): 高齢心不全患者における入院前の運動習慣と退院後の転帰との関連

著者:Taisuke Nakade 1), Daichi Maeda 1), Yuya Matsue 1), Nobuyuki Kagiyama 1), Yudai Fujimoto 1), Tsutomu Sunayama 1), Taishi Dotare 1), Kentaro Jujo 2), Kazuya Saito 3), Kentaro Kamiya 4), Hiroshi Saito 5), Yuki Ogasahara 3), Emi Maekawa 4), Masaaki Konishi 6), Takeshi Kitai 7), Kentaro Iwata 8), Hiroshi Wada 9), Takatoshi Kasai 1), Hirofumi Nagamatsu 10), Shin-ichi Momomura 11), Tohru Minamino 1)12)

著者(日本語表記):中出 泰輔 1), 前田 大智 1), 末永 祐哉 1), 鍵山 暢之 1), 藤本 雄大 1), 砂山 勉 1), 堂垂 大志 1), 重城 健太郎 2), 齋藤 和也 3), 神谷 健太郎 4), 齋藤 洋 5), 小笠原 由紀 3), 前川恵美 4), 小西 正紹 6), 北井 豪 7), 岩田 健太郎 8), 和田 浩 9), 葛西 隆敏 1), 長松 裕史 10), 百村 伸一 11), 南野 徹 1)12)

著者所属(日本語表記):1) 順天堂大学, 2) 西新井ハートセンター病院, 3) 心臓病センター榊原病院, 4) 北里大学, 5) 亀田総合病院, 6) 横浜市立大学, 7) 国立循環器病研究センター, 8) 神戸市立医療センター中央市民病院, 9) 自治医科大学附属さいたま医療センター, 10) 東海大学, 11) さいたま市民医療センター, 12) AMED-CREST

DOI: https://doi.org/10.1093/eurjpc/zwaf069

  

「FRAGILE-HF」は、ノバルティスファーマ研究助成金および日本心臓財団研究助成金によって支援さました。本研究はAMEDから助成番号JP21ek0109543により資金提供を受け実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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会社概要

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URL
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業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
電話番号
03-3813-3111
代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
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設立
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