1990年から2021年にかけての日本の地域別疾病負荷の変遷

―グローバル疾病負荷研究(GBD)からの新たな洞察―

学校法人 順天堂

順天堂大学大学院医学研究科総合診療科学の矢野裕一朗教授が Senior Collaboratorを務めるグローバル疾病負荷研究(Global Burden of Disease: GBD)を管轄するInstitute for Health Metrics and Evaluation (IHME) at the University of Washington(https://www.healthdata.org/)による、「日本における30年間(1990〜2021年)の地域別疾患負荷の変動」に関する研究成果が、Lancet Global Health誌のオンライン版に2025年3月20日付で公開されました。GBDは、地域や時間を問わず健康損失の実態を定量化する、これまでで最大かつ最も包括的な試みです。その成果を基に、医療体制の向上と健康格差の解消を目指しています。本研究はGBD調査の一環として実施されました。ワシントン大学のMohsen Naghavi医学博士と慶應義塾大学の野村 周平准教授が責任著者として、国内外の多くの研究者が参加し、日本からも順天堂大学をはじめとする複数の大学・医療機関がGBDに参画しています。本研究では、長期にわたる日本人の疾患パターンの変化を明らかにしました。COVID-19を含む幅広い疾病とリスク因子、寿命、死亡率、障害調整生命年(DALYs)などが調査されました。結果として、日本人の平均寿命は伸びる一方、地域間での健康格差が広がり、生活習慣病(NCDs:非伝染性疾患)*1関連の死亡率の減少ペースが近年鈍化していることが明らかとなりました。特にアルツハイマー病や糖尿病の負荷が増大し、高血糖値と高BMIが重要なリスク因子であることが明らかとなりました。本研究成果は、我が国の公衆衛生の現状を反映し、健康寿命を延ばすための戦略立案において、今後注力すべき重要な課題を示唆しております。これにより、さらに効果的な公衆衛生介入が可能となり、国民全体の健康向上に貢献することが期待されます。

本研究成果のポイント

  • 過去30年間で寿命は延長するも、地域間の健康格差が拡大。生活習慣病関連の死亡率は低下するも、近年そのペースが鈍化している

  • 近年ではアルツハイマー病や他の認知症、糖尿病の負荷が増加し、高血糖値と高BMIが重要なリスク因子である

  • 日本のCOVID-19関連疾病負荷は、他の先進国に比べ低い。しかし、若年層と女性の精神健康に負の影響を与えた可能性がある

背景

2024年、健康日本21(第3次)*2の開始に伴い、政府と地方自治体は、超高齢社会の課題に対応しながら、生活習慣病(NCDs:非伝染性疾患)および健康格差への対策を強化する新たな行動に取り組んでいます。しかし、全国規模で各疾病の負荷を包括的に評価するデータの不足や、健康指標を包含し比較分析を可能にする指標の欠如などの課題が、健康促進策や介入の優先順位付けの障害になっています。この問題に対処するために、グローバル疾病負荷調査(GBD)の一環として、日本に焦点を当てた研究が行われました。

内容

調査対象のデータは、Institute of Health Metrics and Evaluation (IHME) の GBD 2021 に基づいています(https://www.healthdata.org/research-analysis/gbd-data)。本研究では、COVID-19を含む371の疾病と88のリスク因子を含む1,474の日本のデータソースを活用し、以下の点を明らかにしました。

・2021年の日本における出生時の平均寿命は85.2年で、1990年の79.4年から5.8年増加した。女性は88.1年、男性は82.2年で、それぞれ1990年から5.8年と5.9年増加した。一方、都道府県間の寿命格差は1990年の2.3年から2021年には2.9年に広がり、特に男性ではこの傾向が顕著であった。

脳卒中、虚血性心疾患、悪性新生物(特に胃がん、肝がん、肺がん)、下気道感染症による死亡の減少が、平均寿命の延長に70%以上寄与した。しかし、各リスク因子が寄与する年齢調節死亡率の年次変化は、その減少率が近年鈍化し、特に1990年から2021年の年次変化は、脳卒中が-4.0%から-2.0%へ、虚血性心疾患が-3.9%から-1.7%に低下した。

・2021年、日本で最も多かった死因トップ5は、アルツハイマー病およびその他の認知症(100,000人あたり135.3)、脳卒中(114.9)、虚血性心疾患(96.5)、肺がん(72.1)、下気道感染症(62.3)であった。アルツハイマー病とその他の認知症は1990年の6位から2021年には1位に上昇した(図1)。また、GBD 2021で評価された全88のリスク因子の中で、メタボリックリスク因子が全死亡の24.9%を、行動リスクファクター因子が21.6%を、環境及び職業リスク因子が9.1%を占めた。1990年から2021年の間に、高血圧や喫煙、不適切な食生活(高食塩摂取、果物摂取不足など)などのメタボリックリスクや行動リスクに起因する死亡率や障害調整生命年(DALYs)*3率は減少したが、この傾向は近年鈍化している。一方、高BMIや高血糖による死亡率とDALYs率は悪化している。

・平均寿命と健康寿命の差(大きいほど健康でない期間が長い)に関して、都道府県間の格差は1990年の9.9年から2021年には11.3年に拡大した。この増加は、女性では11.1年から12.7年へ、男性では8.7年から9.9年へと増加し、男女差は認めなかった。

DALYsは、1990年の100,000人あたり21,449.6から2021年には16,186.7へと24.5%減少したが、都道府県間での格差が存在した。また、DALYsの減少率は1990年から2021年までの間で鈍化し、1990年から2005年までは-1.0%、2005年から2015年までは再び-1.0%、そして2015年から2021年には-0.5%に低下した。脳卒中と虚血性心疾患に起因するDALYs減少率も同様に鈍化した。一方、アルツハイマー病やその他の認知症、腰痛、肺がんに起因するDALYs減少率は、近年悪化している。特に、糖尿病の悪化が顕著であり、1990年から2005年までの年次変化は0.4%、2005年から2015年は0.1%、2015年から2021年には2.2%にまで上昇した。

・2021年、日本のCOVID-19に起因するDALYsは100,000人あたり190.2(全DALYsの0.6%)と、高所得国の6-7%と比べて低かった。また、2021年末、日本は世界で最も低いCOVID-19死亡率を記録し、100万人あたり148人と、世界平均の683人と比較して非常に少なかった。一方、精神健康に負の影響を及ぼした可能性がある。GBD 2021のデータによると、特に若年層と女性の間で精神障害が大幅に増加し、2019年から2021年にかけて女性のDALYs率は15.6%、男性は9.0%増加が認められた。

今後の展開

過去30年間、日本人の平均寿命が延びた主な要因は、脳卒中、虚血性心疾患、そしてがん(特に胃がんの予防や治療の成功による)からの死亡率の減少にあります。しかし、近年は疾病負荷の減少ペースが鈍化しており、健康格差の拡大、アルツハイマー病およびその他の認知症、さらには糖尿病の増加が大きな課題となっています。今後10年間でこれらの問題に対処することは、日本の健康寿命をさらに向上させるために不可欠です。今後は、テクノロジーなども駆使しながら個々人にパーソナライズされた効率的かつ持続可能なライフスタイルの改善を図るとともに、社会環境への介入やコミュニティを基盤としたソーシャルヘルス*4の充実が、認知症などの疾病負荷に対する効果的な対策となることが期待されます。

図1:1990年、2005年、2015年、2021年における日本の全年齢・男女対象のGBDレベル3死因と、年齢標準化死亡率の年間変化率。ランキングは各死因による死亡者数に基づく。

用語解説

*1 非伝染性疾患(NCDs):感染症のように病原体を介して人から人へ直接伝わるものではなく、主に生活習慣や環境、遺伝的要因などが原因で発症する慢性疾患のことを指します。代表的な非伝染性疾患には、心血管疾患(心臓病、高血圧など)、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患(例:慢性閉塞性肺疾患、喘息)などが含まれます。

*2 健康日本21(第3次):国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針(001102474.pdf)。

*3 障害調整生命年(DALYs) :死亡や障害による健康への損失を総合的に考慮した指標

*4 ソーシャルヘルス:個人やコミュニティの社会的健康や幸福を指す概念。社会的なつながりや支援、地域社会への参加、社会経済的地位などが健康に与える影響が含まれる。

原著論文

本研究はLancet Global Health誌のオンライン版に2025年3月20日付で公開されました。

タイトル: Three decades of population health changes in Japan, 1990-2021: a subnational analysis for the 1 Global Burden of Disease Study 2021

タイトル(日本語訳): 日本における30年間の疾患負荷構造の変化(1990~2021年):Global Burden of Disease Study 2021における地域別分析

著者:GBD 2021 Japan Collaborators(責任著者 Mohsen Naghavi 1), 責任著者 Shuhei Nomura 2), 共著者 Yuichiro Yano 3)、他、複数の国内外の研究者.

著者(日本語表記):責任著者 Mohsen Naghavi 1), 責任著者 野村 周平 2), 共著者 矢野 裕一朗 3)、他、複数の国内外の研究者.

著者所属:University of Washington 1), 慶應義塾大学2), 順天堂大学3).

DOI: 10.1016/S2468-2667(25)00044-1 

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会社概要

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URL
http://www.juntendo.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
電話番号
03-3813-3111
代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
-
設立
-