ロジャー・ウォーターズがピンク・フロイドの歴史的名盤を再訪する『The Dark Side of the Moon Redux』を10月6日にリリース

The Orchard Japan

2023年9月22日 14時00分

photo by Kate Izor

ピンク・フロイドによるオリジナル作品のリリースから50年、ロジャー・ウォーターズが来たる10月6日に、史上最も著名で、かつ最も高い評価を受けたアルバムの1枚である『The Dark Side of the Moon（邦題：狂気）』を、途方もない野心をもって再解釈した『The Dark Side of the Moon Redux』を発表する。（注：“redux”は“帰ってきた”を意味する）

同アルバムからは9月21日に、2曲入りのシングル『SPEAK TO ME（スピーク・トゥ・ミー／BREATHE（生命の息吹き）』がリリースされた。これは、すでにリリック・ビデオと共に公開されている『MONEY（マネー）』と『TIME（タイム）』に続く、サード・シングルにあたる。

SPEAK TO ME／BREATHE (Official Lyric Video, DSOTM REDUX)　

ロジャーがまだ29歳だった時に、彼をメンバーに擁するピンク・フロイドがレコーディングした『The Dark Side of the Moon』は、人間としての体験、時間の経過、そして狂気への転落について多元的に思索する壮大な作品だ。

「老年期を生きる人間の記憶――それは絶頂期を生きる人間の行ないである」

アルバムの冒頭で聞こえる上記の言葉が予告する通り、『The Dark Side of the Moon Redux』でのロジャーは、50年間の空白を飛び越えて、彼自身の人生体験や哲学、年齢を重ねることで培った叡知をもとに新たな視点に立ち、オリジナル作品が包含していた哲学的、社会的、政治的なテーマをさらに強調しながら、自らの創作物に再解釈を施し、肉付けをしている。

ロジャーの並外れたヴォーカル・パフォーマンスは、今や古典と化した彼の歌詞の深遠さにこれまでになかった層を加え、同時に、新たに誕生したこの哲学的な創作物に、ざらついた感触の叡知を付与している。ロジャーとガス・サイファートによるプロダクションは本作を、ピンク・フロイドのサイケデリックなオーケストレーションを削ぎ落し、より生々しく、よりデリケートで、それでいて同等に実験的な独創性に富み、精巧なテクスチュアを備え、音楽的な間テクスト性に溢れた作品に仕上げた。

ロジャーはアルバムについて以下のようにコメントしている。

「『The Dark Side of the Moon』はある意味で、人間の在り方に対する、ひとりの年配者の嘆きだったように感じられる。しかし、あのアルバムを作った時のデイヴ（デヴィッド・ギルモア）とリック（リチャード・ライト）とニック（・メイソン）と私はあまりにも若くて、現在の我々を取り巻く世界を見渡してみると、アルバムのメッセージが定着しなかったことは明白だ。それゆえに私は、果たして80歳の人間が持つ叡知が再考ヴァージョンに何をもたらし得るのかと、考え始めたのである。

『The Dark Side of the Moon』を改めてレコーディングするアイデアをガスとショーン（・エヴァンス）に最初に話した時、私の頭がおかしくなってしまったのだと誰もが思ったものだが、検討すればするほどに、“まさにそこが重要なのではないのか？”という想いを強くした。

我々が作り上げた作品に、私は大きな誇りを抱いている。全く遜色なく、半世紀の年月を越えて、オリジナル盤と手を取り合って堂々と立っているこの作品を」。

Introducing The Dark Side Of The Moon Redux by Roger Waters

ロジャーはまた、７月に公開されたアルバムの紹介映像『Introducing The Dark Side of the Moon Redux by Roger Waters』の中で、「私が思うに新しいヴァージョンはより内省的で、アルバムのコンセプトをより明確に示している」とも語っている。

「なぜリメイクを思い立ったのか？今年はオリジナル作品のリリース50周年であり、このアルバムには再考の価値があり、再訪することが可能だと考えたからだ。メッセージもコンセプトも、時代が変わっても古びていない。それは改めて表現されるべき、非常に重要なメッセージとコンセプトであり、異なるヴァージョンを作ることが、オリジナル盤が50年間生き延びたという事実のセレブレーションに相応しいと感じた。オリジナル盤の座を奪おうとか、置き換えようとは考えていない。私が望んだのはあのアルバムを記憶に刻むことであり、付加的な作品を作ることであり、同時に、オリジナル盤のコンセプトと楽曲で達成したことを進化させたかったのだ」。

＜トラックリスト＞

SPEAK TO ME（オリジナル盤の邦題：スピーク・トゥ・ミー）

BREATHE（生命の息吹き）

ON THE RUN（走り回って）

TIME（タイム）

THE GREAT GIG IN THE SKY（虚空のスキャット）

MONEY（マネー）

US AND THEM（アス・アンド・ゼム）

ANY COLOUR YOU LIKE（望みの色を）

BRAIN DAMAGE（狂人は心に）

ECLIPSE（狂気日食）

＜クレジット＞

ロジャー・ウォーターズ：ヴォーカル、ベース（『ANY COLOUR YOU LIKE』）、VSC3

ガス・サイファート：ベース、ギター、パーカッション、キーボード、シンセサイザー、バッキング・ヴォーカル

ジョーイ・ワロンカー：ドラムス、パーカッション

ジョナサン・ウィルソン：ギター、シンセサイザー、オルガン

ジョニー・シェパード：オルガン、ピアノ

ヴィア・マードー：テレミン

アズニヴ・コーケジアン：ヴォーカル

ゲイブ・ノエル：ストリング・アレンジメント、ストリングス、サランギ

ジョン・キャリン：キーボード、ラップ・スティール、シンセサイザー、オルガン

ロバート・ウォルター：ピアノ（『THE GREAT GIG IN THE SKY』）

プロデュース――ロジャー・ウォーターズ、ガス・サイファート

アート・ディレクション及びデザイン――ショーン・エヴァンス

写真――ケイト・アイザー

このうちガス（ミシェル・ブランチ、ベンジー・ヒューズ）、ジョーイ（ベック、ワイズ・ブラッド）、ジョナサン（ファーザー・ジョン・ミスティ、エンジェル・オルセン）、ジョン（ザ・フー、ケイト・ブッシュ）、ロバート（スーザン・テデスキ、ザ・グレイボーイ・オールスターズ）は、今年12月まで続くロジャーのワールド・ツアー『This Is Not A Drill』に同行しているバック・バンドのメンバー。2022年に発表したセルフ・カヴァー集『The Lockdown Sessions（邦題：ザ・ロックダウン・セッションズ）』にも参加している。ゲイブはケンドリック・ラマ―からハリー・スタイルズまで幅広いアーティストとコラボするアレンジャー兼チェリスト、ヴィア・マードーことオリヴィア・メインヴィルはシネマティックな作風で注目を集めるマルチ・インストゥルメンタリスト兼シンガー、ベドウィンの名義で活動するアズニヴ・コーケジアンは中東にあるルーツに根差した音楽を志向するシンガー・ソングライターだ。10月8・９日にロンドン・パラディアムで開催されるソールドアウト公演では、以上9名のミュージシャンを従えて『The Dark Side of the Moon Redux』の全編を披露する。

またショーン・エヴァンスは、コンサートのセットデザインを手掛けるなど、長年ロジャーと密にコラボしているクリエイティヴ・ディレクターであり、ドキュメンタリー映画『Roger Waters：The Wall（ロジャー・ウォーターズ／ザ・ウォール）』（2014年）の監督も務めた。

＜『Dark Side of the Moon』＞

『Dark Side of the Moon』は、後続のミュージシャンに多大な影響を及ぼし歴史的名盤の1枚と目されている、ピンク・フロイドの8枚目のスタジオ・アルバム。日本では『狂気』の邦題で広く知られ、当時の最先端のテクノロジーを駆使し、バンド・アンサンブルに多様なエフェクトを織り交ぜて緻密に構築したサウンドと、70年代初めの社会を背景に、時間の経過、死、暴力、戦争、消費主義、メンタルヘルスに至るまで人間の存在そのものに関わる題材を掘り下げた歌詞から成る、壮大なコンセプト作品だ。全英チャートでは最高2位を記録し、アメリカではピンク・フロイドにとって初のナンバーワン・アルバムとなり、実に700週以上トップ200圏内にチャートイン。セールスは世界合計で5.000万枚以上を数え、これは史上4位の記録にあたる。ロジャーは全曲の作詞と、『MONEY』『BRAIN DAMAGE』『ECLIPSE』の作曲を手掛け、『BREATHE（IN THE AIR）』『ON THE RUN』『TIME』『US AND THEM』を他のメンバーと共作したほか、『BRAIN DAMAGE』と『ECLIPSE』のリード・ヴォーカルを担当。

＜ロジャー・ウォーターズ＞

1943年、英国サリー州生まれ。ロンドンのリージェント・ストリート建築工芸学校で出会ったリック・メイソン（ドラムス）、リチャード・ライト（キーボード）、少年時代からの友人だったシド・バレット（ギター、ヴォーカル）と、1965年にピンク・フロイドを結成する。ロジャーはベースを担当し、メイン・ソングライターでもあった。1967年にデビュー・アルバム『The Piper at the Gates of Dawn（邦題：夜明けの口笛吹き）』をリリースし、翌年のシドの脱退に伴いデヴィッド・ギルモア（ギター）を新メンバーに迎えてバンドは活動を続行するが、12枚目のアルバム『The Final Cut（ファイナル・カット）』（1983年）を経て1985年にバンドを脱退。これに先立つ1984年にアルバム『The Pros and Cons of Hitch Hiking（ヒッチハイクの賛否両論）』でソロ・デビューを果たしていた彼は、現在までに４枚のオリジナル・アルバムを発表したほか、映画サントラやオペラを制作。ツアー活動にも精力的に取り組み、ピンク・フロイドの『The Wall（ザ・ウォール）』と『Dark Side of the Moon』の両アルバムの全編再現ツアーは大きな話題を呼んだ。

リリース情報

ロジャー・ウォーターズ

シングル『Speak To Me / Breathe』配信中

配信リンク：https://rwaters.lnk.to/breathe