新しい脊髄刺激「FAST walk」でより速く歩けるように

― 脳卒中後の歩行機能を改善 ―

学校法人 順天堂

順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学 藤原俊之教授らの研究グループは患者の歩行に合わせて脊髄と股関節を刺激する「FAST walk」を用いた歩行リハビリテーション治療により、慢性期脳卒中患者の歩行速度を改善させることができることを明らかとしました。従来のリハビリテーション治療では回復が困難とされている慢性期の脳卒中患者の歩行機能を改善させることができたことは、後遺症に悩む多くの脳卒中患者に対する新しいリハビリテーション治療の可能性を示すものです。本論文はJournal of NeuroEngineering and Rehabilitation 誌のオンライン版に2025年7月7日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  • 世界初の「患者の歩行に合わせて脊髄と股関節を刺激するFAST walk(*1)」を用いた脳卒中リハビリテーション治療の効果を明らかとしました。

  • FAST walkは慢性期脳卒中患者の歩行速度を改善しました。

  • 脳卒中後の歩行リハビリテーション治療における新たな治療法として期待されます。

背景

脳卒中の後遺症より手足の麻痺などの後遺症が残る患者のうち、80%以上は歩行に障害を認めました。特に歩行スピードの低下は屋外での活動を制限し、職業復帰等を妨げる原因になります。そこで、研究グループは脳卒中後の歩行障害を抱える患者のために、新たな歩行リハビリテーションシステム「FAST walk」を開発しました。「歩く」動作は脳からの指令をもとに脊髄にある神経回路を利用して行われています。FAST walkは足の筋肉の動きを感知するセンサー(筋電図)を使い、歩くタイミングとスピードに合わせて、脊髄と股関節の筋肉に皮膚の上から弱い電気を流して、歩く動きをサポートするシステムです。歩こうとする本人の動きに合わせてサポートするため、患者にとって最適な歩行のリハビリテーションが可能になります。

内容

本研究では、慢性期の脳卒中患者20名を対象に、FAST walkとトレッドミル歩行訓練を組み合わせたグループ、脊髄刺激とトレッドミル歩行訓練を併用したグループ、トレッドミル訓練のみのグループの3つに分け、10回の訓練セッションを実施しました。その結果、FAST walkを使用したグループでは、10メートルの歩行時間が訓練後および訓練4週間後に有意に短縮されました。一方、他の2グループでは同様の効果は見られませんでした。本研究によりFAST walkを用いた歩行訓練が歩行機能を改善させることが示され、新たなリハビリテーション治療法として今後の発展が期待されます。

今後の展開

本研究は、世界初の「患者の歩く意図を筋電図から判別し、脊髄と股関節伸展筋を刺激する新しい脊髄刺激FAST walk」を用いた脳卒中リハビリテーション治療の効果を示した研究であり、今までの手法では回復が困難であるとされていた6か月以上経過した慢性期脳卒中患者の歩行障害の回復を可能とする新しいリハビリテーション治療として期待されています。今回の無作為比較試験で、その安全性と効果が証明され、今後多くの歩行障害を有する患者への臨床での使用を可能にするために、製品化、薬事承認を目指します。

用語解説

*1 FAST walk:非麻痺側に付けた筋電センサーにより、歩行企図、歩行スピードを感知し、歩行のタイミングに合わせて、皮膚の表面に貼った電極により脊髄と股関節の筋肉を刺激する新しい脊髄電気刺激。

研究者のコメント

我々は常に障害の機能回復を目指す新しい治療法の開発を目指してきました。今回世界初の歩くタイミングとスピードに合わせて脊髄刺激と股関節刺激が可能なFAST walkを用いた歩行リハビリテーション治療による歩行機能改善効果を示すことができました。今後は製品化、薬事承認を目指し、広く臨床の現場で使用できるようにしていきたいと思います。

原著論文

本研究はJournal of NeuroEngineering and Rehabilitation誌のオンライン版に2025年7月7日付で公開されました。

タイトル: Electromyography (EMG)‑triggered transcutaneous spinal cord and hip stimulation

for gait rehabilitation in persons with chronic stroke: a randomized, controlled trial

タイトル(日本語訳): 慢性期脳卒中患者歩行障害に対する筋電図トリガー経皮的脊髄刺激と股関節刺激:無作為化比較試験

著者: Mami Tani1), Tomofumi Yamaguchi2,3), Kaoru Honaga1,3), Yoko Takahashi2), Hidemi Kono1), Yuhei Murakami1), Reina Isayama1), Koshiro Haruyama2), Yuji Fujino2), Tadamitsu Matsuda2), Issei Fukunaga4), Masaaki Hori5), Akira Tanuma1), Futoshi Wada1), Kozo Hatori1), Toshiyuki Fujiwara1,2,3)

著者(日本語表記): 谷 真美1)、山口智史2,3)、補永 薫1,3)、高橋容子2)、河野英美1)、村上悠平1)、諌山玲名1)、春山幸志郎2)、藤野雄次2)、松田雅弘2)、福永一星4)、堀 正明5)、田沼 明1)、和田 太1)、羽鳥浩三1)、藤原俊之1,2,3)

著者所属: 1)順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学 2)順天堂大学保健医療学部理学療法学科 3)順天堂大学大学院機能修復治療学講座 4)順天堂大学保健医療学部診療放射線学科 5)東邦大学大森医療センター 放射線科

DOI: 10.1186/s12984-025-01690-0 

   

なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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URL
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業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
電話番号
03-3813-3111
代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
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設立
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