糖尿病と診断された方の腎臓病悪化を早期予測!

-新たな指標で生命予後も明らかに-

学校法人 順天堂

順天堂大学大学院医学研究科腎臓内科学の合田 朋仁 准教授、村越 真紀 准教授らの研究グループは、共同研究者の広島赤十字・原爆病院内分泌・代謝内科の亀井 望 部長、札幌医科大学内科学講座循環病態内科学分野の古橋 眞人 教授らと、糖尿病と診断された方において、血清クレアチニン(Cr)とシスタチンC(cys)から算出される推算糸球体濾過量(eGFR)の差(eGFRdiff*1)が、腎疾患の進行および生命予後を予測する新たなバイオマーカーとして極めて有用であることを明らかにしました。本研究成果は、日常臨床で簡便に測定可能なeGFRdiffが、糖尿病関連腎臓病における個別化された治療戦略に大きく貢献する可能性を示すものです。さらに、本研究では、古典的な腎機能指標である尿アルブミンやeGFRcrで補正後も、eGFRdiffが腎疾患の進行および生命予後と関連することを見出しました。本論文はJournal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle誌のオンライン版に2025年7月23日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  • 行ったこと: 糖尿病と診断された方のコホートデータベースを用いて、血清クレアチニンとシスタチンCから算出されるeGFRの差(eGFRdiff)が、腎疾患の進行および生命予後とどのように関連するかを詳細に解析しました。特に、既存の腎機能指標(尿アルブミンおよびeGFRcr)で補正後も、eGFRdiffが腎疾患の進行および生命予後予測に有用かを検討しました。

  • 結果: eGFRdiffが大きいほど、腎疾患の進行や死亡のリスクが増加することを発見しました。この関係は、eGFRcrで補正後も維持されており、eGFRdiffがこれらの既存指標とは異なる独自の予後予測情報を持つことが示されました。eGFRdiffは日常臨床で簡便に測定可能です。

  • 展望: eGFRdiffが糖尿病関連腎臓病の早期リスク層別化に貢献し、個別化された治療戦略の立案に役立つことで、糖尿病と診断された方のQOL向上と医療費削減に繋がる可能性があります。今後は、eGFRdiffを指標とした介入研究を通じて、その臨床的有用性をさらに検証していきます。

背景

糖尿病は、進行すると腎不全に至る糖尿病関連腎臓病を引き起こし、透析導入の主要な原因となっています。糖尿病と診断された方では、タンパク質異化亢進や慢性炎症が複合的に作用し、筋肉量の減少や筋力低下を特徴とするサルコペニアやフレイルが進行することが知られています。これらの病態は腎疾患の進行だけでなく、心血管イベントや死亡リスクを高めることが指摘されています。 これまで、腎機能評価には血清クレアチニンに基づくeGFRcrが広く用いられてきましたが、筋肉量の影響を受けやすいという課題がありました。一方、血清シスタチンCに基づくeGFRは筋肉量の影響を受けにくいため、より正確な腎機能評価が可能とされています。しかし、両者のeGFRの差(eGFRdiff)が、糖尿病と診断された方の予後予測にどの程度寄与するかは十分に検討されていませんでした。

内容

本研究グループは、糖尿病と診断された方を対象に、クレアチニンに基づくeGFRとシスタチンCに基づくeGFR、そしてその差であるeGFRdiffと、将来の腎疾患の進行および生命予後との関連を検討しました。解析の結果、以下の主要な知見が得られました。

  1. eGFRdiffが予後と強い関連を示すことを発見:eGFRdiffが大きい(シスタチンCに基づくeGFRがクレアチニンに基づくeGFRよりも低い)ほど、腎疾患の進行(ベースラインから30% eGFRcr低下)および全死亡のリスクが増加することが明らかになりました。特に、腎疾患の進行と強い関連性が示されました。

  2. 日常臨床において簡便な測定で利用可能:クレアチニンとシスタチンCは日常の血液検査で広く測定されており、eGFRdiffはこれらのデータから容易に算出可能です。このため、特別な検査機器やコストを必要とせず、日常診療にすぐに導入できる実用的な指標となります。

  3. eGFRdiffは既存のマーカーとは異なる情報を提供する可能性:GDF-15*2(Growth Differentiation Factor-15)は、炎症や心血管疾患、さらにはサルコペニア*3に関連するバイオマーカーとして知られており、糖尿病と診断された方の予後予測にも有用であると報告されています。本研究では、eGFRdiffとGDF-15の関連を多変量解析で評価した結果、腎機能指標などで補正後も、両者には有意な関連が認められました。この結果から、eGFRdiffはGDF-15のようなサルコペニアや慢性炎症を反映するマーカーと関連しており、単なる腎機能指標にとどまらず、全身状態を反映する可能性があると考えられます。また、eGFRdiffは腎機能指標(尿アルブミンやeGFRcr)とは異なる情報を提供しうることから、これらと組み合わせることで、糖尿病と診断された方の腎疾患の進行および生命予後のより精密なリスク層別化が可能となることが示唆されます。

図1: eGFRdiffと腎疾患の進行および生命予後との関連性

年齢、性別、HbA1c、尿アルブミンおよびeGFRcrで補正後もeGFRdiff(eGFRcysとeGFRcrの差)が大きな負の値になるに従い、腎疾患の進行や生命予後のリスクが高くなることが示された。

今後の展開

本研究は、eGFRdiffという簡便かつ既存の検査データから算出可能な指標が、糖尿病と診断された方の腎疾患の進行および生命予後を予測する上で極めて有用であることを世界に先駆けて示したものです。この成果は、以下の点で大きな意義を持ちます。

  • 早期のリスク層別化: eGFRdiffを用いることで、糖尿病と診断された方の中から腎疾患の進行や死亡リスクが高い患者を早期に特定し、より積極的な介入や治療方針の検討が可能になります。

  • 個別化医療の推進: 患者の個々の状態に応じたリスク評価に基づき、よりパーソナライズされた治療計画の立案に貢献します。

  • 医療費の削減: 重症化を未然に防ぐことで、透析導入や合併症治療にかかる医療費の削減にも繋がり得ます。

今後は、eGFRdiffを臨床現場でどのように活用していくか、具体的な介入方法や治療効果についてさらなる研究を進めることで、糖尿病関連腎臓病の予後改善に貢献していきたいと考えています。

用語解説

*1 eGFRdiff(推算糸球体濾過量差): 血清クレアチニンから算出される推算糸球体濾過量(eGFRcr)と、血清シスタチンCから算出される推算糸球体濾過量(eGFRcys)の差(eGFRcys - eGFRcr)を指します。一般的に、筋肉量が少ない状態ではeGFRcrが実測値よりも高く算出される傾向があるため、筋肉量の低下に伴いeGFRcysの方がeGFRcrよりも低くなることで、eGFRdiffが負の値、またはより大きな負の値を示すと解釈されます。

*2 GDF-15 (Growth Differentiation Factor-15): 炎症や細胞ストレスなどに応答して産生されるタンパク質で、心血管疾患や腎臓病の予後予測バイオマーカーとして注目されています。近年では、サルコペニアの病態生理に関与し、そのマーカーとしても着目されています。

*3 サルコペニア: 筋肉量の減少と筋力または身体能力の低下を特徴とする症候群です。加齢や疾患により生じ、転倒、QOLの低下、死亡リスクの増加と関連します

研究者のコメント 

長年、糖尿病と診断された方の腎予後改善に貢献したいという思いで研究を続けてきました。

今回の研究で、日常臨床で簡便に測定できるeGFRdiffが、これほどまでに腎疾患の進行および生命予後予測に有用であることが示されたことに大きな喜びを感じています。

この発見が、糖尿病と診断された方の一人ひとりに合わせた早期介入と、より良い治療選択に繋がり、ひいては糖尿病関連腎臓病の重症化抑制、透析導入が必要になる方の減少に貢献できることを心から願っています。

順天堂大学大学院医学研究科 腎臓内科学 

准教授 合田 朋仁 

原著論文

本研究はJournal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle誌のオンライン版に2025年7月23日付で公開されました。

タイトル:Association of Difference Between eGFR from Cystatin C and Creatinine and Serum GDF-15 with Adverse Outcomes in Diabetes Mellitus

タイトル(日本語訳):eGFRdiff(推算糸球体濾過量差):血清クレアチニンから算出される推算糸球体濾過量(eGFRcr)と、血清シスタチンCから算出される推算糸球体濾過量(eGFRcys)の差(eGFRcys - eGFRcr)および血清GDF-15値と有害事象との関連性

著者:Tomohito Gohda1, Nozomu Kamei2,3, Marenao Tanaka4, Masato Furuhashi4, Tatsuya Sato4,5, Mitsunobu Kubota6, Michiyoshi Sanuki3, Takeo Koshida1, Shinji Hagiwara1, Yusuke Suzuki1, Maki Murakoshi1

著者(日本語表記):合田朋仁1)、亀井望2, 3)、田中希尚4)、古橋眞人4)、佐藤達也4,5)、久保田益亘6)、讃岐美智義3)、越田剛生1)、萩原晋二1)、鈴木祐介1)、村越真紀1)

著者所属:1)順天堂大学医学部腎臓内科学講座、2)広島赤十字・原爆病院内分泌・代謝内科、3)呉医療センター・中国がんセンター臨床検査部、4)札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科5)札幌医科大学細胞生理学6)呉医療センター・中国がんセンター内分泌・糖尿病内科

DOI:10.1002/jcsm.70011

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会社概要

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URL
http://www.juntendo.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
電話番号
03-3813-3111
代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
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設立
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