HIV・結核・マラリア対策に後退の危機 国境なき医師団、資金拠出の継続を主要国に訴え

南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)のヨハネスブルグで開催される「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」(グローバルファンド)の第8次増資会合を前に、国境なき医師団(MSF)は世界の指導者たちに対し、180億米ドル(約2兆7858億円)の目標額を確実に拠出するよう訴える。
この目標が達成されなければ、HIV、結核、マラリアに関する不可欠なサービスが大幅に削減され、再流行を招く恐れがある。さらに、医療費の負担が世界で最もぜい弱な患者たちに押し付けられる危険性も高まる。
犠牲になるのは最もぜい弱な人びと
英国と南アフリカが共同主催するこの第8次増資会合は、G20首脳会議に合わせて2025年11月21日(金)に開かれる。
2027年から2029年の3年間の資金調達サイクルに向け、誓約額はグローバルファンドがHIV、結核、マラリアに効果的に対応するために必要な目標額を大きく下回る、数十億ドル規模の不足が生じるリスクが極めて高い。
2022年に開催された前回の第7次増資会合での調達額150億米ドル(約2兆3215億円:2023年から2026年の3年間分)をも下回る可能性すらある。この額でさえ、これらの対策に必要な資金には程遠いものだった。
「国際社会は今、立ち止まる余裕はありません。持続的な投資の必要性が高まっているにもかかわらず、主要な拠出国は大幅な削減を示唆しています。資金が不足すれば、その代償を払うのは患者──しかも、医療費を負担するのが最も難しい人びとなのです」とMSFの保健政策顧問、テス・ヒューエットは言う。
新技術の導入も制限される恐れ
180億米ドルの目標を達成できなければ、その影響は深刻かつ即時的なものとなる。誓約額が不十分な場合、疾病の発生率やサービスの提供状況を監視するデータ収集システムの支援など、重要な取り組みが損なわれ、過去2回の増資で築いた前進が失われる。
そして資金削減は、世界の結核対策に甚大な影響を及ぼす恐れがある。現在、結核対策における資金援助の76%をグローバルファンドが支えているからだ。
加えて、新しい結核ワクチンや既存のマラリアワクチン、「レナカパビル」のような革新的なHIV予防薬など、有望な新技術の導入も制限されることになる。
11月21日までに誓約が確定しなければ、効果的なプログラム計画が立てられず、資金はポートフォリオ最適化やサイクル途中での追加拠出といった、非効率な仕組みに回されることになる。
資金が不足すると、しばしば「国内資源の動員」を強化する名目で、医療費の負担がぜい弱な人びとに転嫁される。本来これは各国政府による医療支出の増加を意味するが、実際には患者の自己負担の増加を招くケースが多い。特に低所得国では顕著であり、患者の自己負担がすでに医療財源の重要な割合を占めている。

削減が続けば壊滅的な結果に
第8次増資に向けて各国が表明済みの拠出誓約額は、すでに深刻な懸念材料となっている。
現時点で誓約した主要な拠出国はドイツと英国のみだが、いずれも前回のサイクルより削減している(ドイツ:13億ユーロ【約2334億円】から10億ユーロ【約1795億円】へ、英国:10億ポンド【約2034億円】から8億5000万ポンド【約1729億円】へ)。インフレを考慮すれば、拠出額を増やした国はひとつもない。
残る拠出国もドイツや英国の例にならえば、結核、HIV、マラリア──世界で最も高い致死率でありながら完全に予防可能な感染症トップ3──の影響を受ける世界中の人びとにとって、壊滅的な結果をもたらすだろう。
「MSFの報告書『Deadly Gaps』に示された証拠に耳を傾け、11月21日に完全な拠出を約束するよう、他の主要国に強く求めます」とヒューエットは話す。
「持続可能な開発目標(SDGs)の目標3の達成を加速し、公衆衛生上の脅威である結核、HIV、マラリアを終息させるためには、グローバルファンドは全額の180億米ドルが必要です。適切な資金があれば、グローバルファンドは2300万人の命を守り、わずか6年で死者数を半減することができるとしています」
MSFは、まだ誓約を行っていない主要拠出国の一つである日本政府に対し、これまでと同様に増資額全体の約6%、3年間で約10.8 億米ドル(約1671億5160万円)の拠出を誓約することを求める。

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