紛争下の「医療への攻撃」が記録的レベルに──国家が民間人保護の義務を果たさず

国境なき医師団

攻撃を受け激しく破壊されたパレスチナ・ガザ地区のシファ病院=2025年2月7日 © Nour Alsaqqa/MSF

武力紛争下における医療への攻撃が、記録的なレベルに達している。国境なき医師団(MSF)は報告書「標的にされる医療(Medical care in the crosshairs)」(英文)を発表し、国家を含む紛争当事者が、国際人道法で定められている医療施設や医療従事者、患者、医療車両を保護する義務を果たさない事態が増えていると訴える。

医療への攻撃を非難し、攻撃をした当事者への不処罰を終わらせるよう求めた国連安保理決議2286号の採択から今年で10年を迎える。各国は今こそ、国際人道法を遵守し、民間人の命を守り、説明責任を果たし、そして、攻撃をしても処罰されないという現状を根本から変えなければならない。

「間違えて攻撃」から「保護の喪失」へと変わる説明

本報告書は、既存の国際データベースの数値とMSFの紛争地での経験に基づいて作成された。世界保健機関(WHO)の「医療への攻撃監視システム(SSA)」によると、2025年には医療施設に対する攻撃が合計1348件報告された。紛争地で殺害された医療従事者と患者は1981人に上り、2024年の944人から倍増している。最も深刻な影響を受けたのはスーダンで、1620人が殺害された。続いて、ミャンマーで148人、パレスチナで125人、シリアで41人、ウクライナで19人が殺害された。

報告書では、国際人道法を尊重する紛争当事者が減ってきているという問題を浮き彫りにしている。この傾向は、統計データのみならず、政府関係者や軍関係者、その他紛争当事者からの発言からも明らかだ。

MSFのアドボカシー専門家であるエリック・ラーンはこう話す。

「紛争当事者は医療への攻撃について、これまでは『間違えて攻撃』したと説明していましたが、今は、医療施設や援助スタッフが国際人道法上の『保護を失った』ためと説明し、攻撃を正当化する方向へと変わってきました。この転換は、民間人の保護や被害軽減の義務よりも、軍事目的を優先していることを表しています」

医療への攻撃は、国際人道法の誤った解釈や、条文と慣習法双方の曖昧さから引き起こされることがある。それにより、責任のあり方が変質している。これまでは保護される存在としてみなされてきた民間人や医療施設が、軍事目標ではないことを証明しなければならない状況に置かれているのだ。

「攻撃前のしかるべきタイミングで警告するといった、紛争当事者に課せられた重要な義務が軽視されることが多くあります。これが無視されることで、医療施設は『保護喪失』の主張に対して反論することも、患者を退避させることもできないのです」

医療への攻撃の大半は国家によるもの

「紛争下における保健医療保護連合(Safeguarding Health in Conflict Coalition)」から入手可能な最新データによると、2024年に医療を標的とした事件は3623件あり、2023年より15%、2022年より62%多かった。2024年、医療に対する暴力の約81%は、国家組織によるものだった。

MSFスペインのコーディネーター、ラケル・ゴンザレスは述べる。

「武力紛争に国家が関与することは、医療を保護する上で特別な問題を引き起こします。国家組織は非国家武装集団よりも、特に人口密集地で空爆や爆撃を行う可能性が高いからです。

医療と人道援助への暴力は、必要不可欠な医療サービスの停止や援助団体の撤退を招き、地域社会が医療を受けられなくなることにつながります。紛争地で暮らす人びとはすでに暴力の影響を受けており、医療を失うことで生活はさらに耐え難いものになります」

国際スタッフに比べ、現地で採用されたスタッフは、こうした攻撃の影響をとりわけ強く受けている。「援助スタッフ安全データベース(Aid Worker Security Database)」によると、2021年から2025年の間に、世界で現地スタッフ1241人が殺害され、1006人が負傷し、604人が誘拐された。これらは、殺害された援助スタッフ全体の98%、負傷者の96%、誘拐被害者の94%を占める。

ウクライナ・ドネツク州で、攻撃により破壊されたオフィスを確認するスタッフ=2024年4月5日 © Yuliia Trofimova/MSF

国際人道法の尊重を

2015年10月3日、アフガニスタン・クンドゥーズのMSF外傷センターが米国のAC‑130攻撃機による空爆を受けた。これは、MSFがスタッフ・患者・医療施設に対して受けた最も致命的な攻撃の一つだ。この攻撃でMSFのスタッフ14人を含む42人が殺害された。その7カ月後、人道セクターの働きかけを受け、国連安全保障理事会は医療施設および医療スタッフの保護に関する決議2286号を採択し、当事者の不処罰の終結と国際人道法の尊重を求めた。しかしそれから10年が経った現在も、武力紛争下の医療と人道援助は依然として、むしろこれまで以上に、攻撃にさらされている。

ラーンは語る。

「安保理決議2286号は、拘束力のある決定として初めてこれらの懸念に焦点を当てた点で、一筋の希望でした。しかし、この決議を採択した当時の安保理理事国15カ国のうち、武力紛争の被害者の保護を定めるジュネーブ諸条約追加議定書のすべてを批准していたのは6カ国に過ぎませんでした」

最終的に国際法上の義務を取り込む各国の国内法制は、この文脈で決定的な役割を果たす。国際人道法への十分な配慮なく立法がなされれば、国際人道法の義務、特にいずれかの紛争当事者から「敵」とみなされた人たちを含むすべての人が医療を受ける権利を損なう恐れがある。

ラーンはこう話す。

「各国は国際人道法を遵守しなければなりません。また、すべての紛争当事者は、医療を保護し、医療施設を軍事目的で使うことを防ぎ、医療活動の保護を軍事指針や意思決定に組み込むために、適切な仕組みを整備しなければなりません。そして、国家が法を遵守しなかった場合には説明責任を負わねばなりません。独立した事実調査の受け入れ、自主調査の実施、透明性の高い結果の共有が求められます。これらの仕組みは、事実を明らかにし、説明責任を果たし、蔓延する不処罰の風潮に対抗するために不可欠です」

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会社概要

国境なき医師団(MSF)日本

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URL
https://www.msf.or.jp/
業種
医療・福祉
本社所在地
東京都新宿区馬場下町1-1  FORECAST早稲田FIRST 3階
電話番号
-
代表者名
村田慎二郎
上場
未上場
資本金
-
設立
1992年12月