【活動レポート】亡き兄・久光重貴氏の想いを繋ぐ。子どもたちの“笑顔”を生み出す「フットサルリボン」の今【一般社団法人Ring Smile】
12月16日、神奈川県にある子ども向け医療施設で、今年5回目の「フットサルリボン」の活動が行われた。
12月16日、神奈川県にある子ども向け医療施設で、今年5回目の「フットサルリボン」の活動が行われた。2021年以降、コロナ禍でオンラインにとどまっていた活動が、8月から対面で再開。2020年12月19日に逝去された故・久光重貴さんの想いを受け継いだ弟・邦明さんがつくり上げる今の空間も、あの頃と変わらない“子どもたちの笑顔”があった。
取材・文=伊藤千梅(SAL)
写真=本田好伸(SAL)
写真提供=久光邦明 氏
※取材は2024年12月16日に実施しました
■参加した全員が元気を与え合う場所
辺り一面にクリスマスの装飾が散りばめられた施設は、子どもの“心”に寄り添った場所だと痛感する。その施設内の体育館、Fリーグのユニフォームが飾られている入口を開けると、そこには大人から子どもまで、15人ほどがボールを蹴りながら談笑する姿があった。
「ここでは、体は動かせるけれど、さまざまな理由から病気や障がいと向き合う子どもたちが集まってボールを蹴っています」
そう教えてくれたのは、「フットサルリボン」の活動を主宰する邦明さんだ。
「病気の子どもたちに目標や夢をもってもらうことで、そこに向かって頑張る力や、治療に打ち勝とうと踏ん張れるような源をつくっていきたい」
そんな邦明さんの想いがこの活動の原動力だ。参加する子どもたちは、そんなメッセージを知ってか知らずか、笑顔が充満するこの空間を心から楽しんでいるようだ。
兄・重貴さんがフットサルリボンを始めた頃から参加しているという、車椅子に乗る大志さんもその一人だ。彼の母親は、「周りの子たちの成長が刺激になって挑戦するようになった」と、12月1日に行われた湘南国際マラソンに出場し、車椅子でも参加できるラン&ウォーク1.4kmを歩き切ったというエピソードを教えてくれた。
重貴さんは、2013年に右上葉肺腺がんが発覚して以来、7年間の闘病生活を続けながらピッチに立った選手だった。病気が見つかってからは、上咽頭がんで闘病していたデウソン神戸(当時)の鈴村拓也さんと共に、2014年に一般社団法人Ring Smileを設立。病気と戦う子どもたちに向けてフットサル教室や病院慰問などを行ってきた。
闘病の末、重貴さんが逝去されてからは、邦明さんが活動を引き継いだ。荼毘に付す数日前、兄から「引き継いでほしい」とお願いされ、二つ返事で「一緒にやっていこう」と答えた。それからは、兄が関わってきた人たちの元を訪ね、活動を継続する意思を伝えると共に、コロナ禍の制限のなか、オンラインでフットサル教室などを開催した。そうやって地道に続けて、ようやく対面での活動ができるようになったのは、今年8月のことだった。
邦明さんの想いに賛同したFリーガーも多い。今シーズンからしながわシティに加入し、初めて関東圏でプレーする田村龍太郎選手もその一人だ。10月から参加し、今回で3回目という田村選手は、子どもたちの輪に溶け込んでいた。
集まった人たちは通常のルールとは異なる「走ったらダメなフットサル」、いわゆるウォーキングフットボールを行った。
「走れたら自分の能力でなんとかできることも、歩くだけになったら自分1人ではできないことがあります。走れる人も走れない人も、チームになって、輪になれる。全員でゴールを目指すので、より支え合っていることを感じます」
田村選手がそう語るように、走れる・走れない、足が速い・速くないに関係なく、全員が歩いてプレーするフットサルは、全員が平等。子どもも大人も一緒になって楽しめる空間がそこに広がり、みんなが一つのボールを追いかけていた。
邦明さん自身、どうしたら兄の思いを受け継いで、形にしていけるか模索する日々だ。それでも、当初からの想いである「笑顔の連鎖」という、根底にある大事なメッセージを伝え広げようと動いてきたことで、ここはかけがえのない場所になっている。
子どもたちの笑顔が繋がり、参加する親御さんや、ボランティアとして関わる大人たちの表情も、気がつけば自然と笑みであふれる、今のフットサルリボンの姿があった。
「最初は、子どもたちに少しでも元気を与えられたらと思っていましたが、それよりも、一緒にボールを蹴らせてもらうことが本当に楽しくて、そこでまた頑張ろうと思える。逆に力をもらっています」
田村選手がそう話すように、邦明さんもまた「自分たちが元気をもらえる」と気づいた。
12月19日に、重貴さんがこの世を去って4年、七回忌を迎える。邦明さんは、これからも兄の想いを受け継いでこの活動を続けていく。
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