フェムテック:特許・論文・スタートアップで見る女性の健康を支える技術の最前線
アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、フェムテックに関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

フェムテックとは
フェムテック(Femtech)とは、Female(女性)とTechnology(技術)を組みあわせた造語です。月経や妊娠、出産、更年期、婦人科疾患といった女性特有の健康課題を、デジタル技術やセンシング技術、バイオテクノロジーなどを活用して支援・解決する製品やサービスの総称です。
フェムテックは2010年代以降に注目されはじめた比較的新しい概念ですが、現在では女性のウェルビーイング向上と医療格差是正をめざす学際的な技術領域として確立されつつあります。
フェムテックが急速に注目を集めるようになった背景には、女性の健康が長らく医療や産業、社会のいずれの側面でも十分にあつかわれてこなかったという課題があります。医学研究は歴史的に男性を主たる被験者とすることが多く、女性特有の生理現象や疾患は研究の蓄積が十分ではありませんでした。月経や妊娠、更年期といったライフステージにともなう心身の変化は社会的にもタブー視されやすく、診断の遅れや治療選択肢の不足、QOL(生活の質)の低下といった「Gender Health Gap(医療における男女格差)」が国際的な課題として浮上しています。
加えて近年では、女性特有の健康課題が個人のQOLにとどまらず、企業の生産性や人材定着、ひいては経済成長に影響をあたえうる論点として注目されつつあります。国際機関によるジェンダー格差の可視化や、各国政府の女性活躍推進政策、企業におけるDE&I(多様性・公平性・包摂性)や健康経営の浸透は、女性の健康をビジネスインフラとして整備する必要性を浮き彫りにしています。フェムテックは、こうした医療的なギャップと社会的なニーズの双方を技術によって埋め、女性がライフステージを通じて活躍し続けられる環境を整えることを目的として登場しました。フェムテックがあつかう技術領域は、ライフステージや健康課題にもとづいて大きく4つに分類できます。
第一に、月経・妊孕性(にんようせい、妊娠しやすさ)関連技術です。月経周期の把握や予測、不妊治療の支援、排卵期の判定などを対象とし、基礎体温やホルモン濃度を計測するウェアラブルデバイス、AIによる周期予測アプリ、家庭用のホルモン検査キット、月経カップや吸水ショーツといった生理用品のサステナブル化などが代表例です。センシング技術やデータ解析、素材工学などの領域が関わります。
第二に、妊娠・出産・産後支援技術です。妊娠期から産褥期(さんじょくき、出産後の回復期間)にかけての母子の健康モニタリングや産後ケアなどを対象とし、胎児心拍を在宅で計測するワイヤレスモニタ、妊娠高血圧症候群の早期検知デバイス、産後うつのスクリーニングアプリ、骨盤底筋トレーニングデバイスなどが代表例です。医療機器工学や遠隔医療(テレヘルス)、行動科学などの領域が関わります。
第三に、更年期・加齢関連技術です。更年期症状の緩和やホルモンバランスの管理、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や心血管リスクなど、加齢に伴う健康課題への対応を対象とし、ホットフラッシュ(更年期に起こるのぼせやほてり)を抑制する冷却ウェアラブル、ホルモン補充療法(HRT)を最適化するデジタル療法(DTx)、更年期向けの遠隔診療プラットフォームなどが代表例です。内分泌学や行動変容科学、デジタル治療などの領域が関わります。
第四に、婦人科疾患関連技術です。性感染症や子宮頸がん、子宮内膜症、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの婦人科疾患の早期発見や治療を対象とし、自己採取型のHPV検査キット、子宮内膜症のバイオマーカ探索、骨盤底ケア機器などが代表例です。診断医療やバイオテクノロジー、医療機器工学などの領域が関わります。
これらの技術領域は、月経や妊娠、更年期、婦人科疾患というライフステージ上の各段階に対応していますが、現実には個々の技術が単独で発展するのではなく、ウェアラブルセンシング、AI解析、診断キット、デジタル療法、医薬品開発といった共通の基盤技術を横断的に活用しながら進展しています。また、新型コロナウイルス感染症の流行を契機としたテレヘルスの普及や、生成AIの登場は、フェムテックの社会実装を加速する要因として注目されています。
本レポートでは、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、特許や論文、スタートアップ企業における「フェムテック」に関する技術動向を分析します。
フェムテックに関連する特許の動向
アスタミューゼが保有する特許データベースから、要旨に「フェムテック(femtech)」および周辺技術に関連するキーワードをふくむ特許母集団16,687件を抽出しました。これらを対象に、要旨中にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移を分析し、近年進展がみられる技術要素を特定する「未来推定」分析を実施しました。
キーワードの変遷を把握することで、すでにブームがすぎた技術や、今後注目をあつめると予測される技術を定量的に評価できます。さらに、それぞれの要素技術について、技術ステータス(黎明・萌芽・成長・実装)の段階を予測することが可能です。
図1は、2016年以降に出願されたフェムテック関連特許の要旨にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移です。

成長率(Growth)は、2016年から2025年までの全期間における各キーワードの出現回数のうち、直近(2021年以降)の出現回数が占める割合をあらわしています。値が1に近いほど、そのキーワードが近年に集中して出現している(=最近になって注目されはじめた)ことをしめします。なお、2024年から2025年にかけて各キーワードの出現回数が減少傾向にありますが、これは出願から公開まで一定のタイムラグがあるためと考えられ、実態の出現回数が減少していることを意味するものではありません。
2016年以降に出願されたフェムテック関連特許の分析では、「細菌性膣症関連(vaginosis-associated/vaginitis-related/vaginosis-related)」「多嚢胞性卵巣症候群(pcos)」などの婦人科疾患語、「骨密度(bmd)」「閉経周辺期(perimenopause)」などの更年期関連語、「自己人工授精(self-insemination)」「出生前(antenatal)」などの生殖支援技術の高度化・個別化関連語が顕著に増加しています。
「細菌性膣症(vaginosis/vaginitis)」は、Lactobacillus属(crispatus、gasseri、jenseniiなど)を中心とした膣マイクロバイオーム解析や、それを基盤とする診断・治療技術の急速な進展をしめしています。近年は、Lactobacillus属の特定の系統 (crispatus、jenseniiなど)を活用したライブバイオセラピックス(生菌製剤)の開発、メタゲノム解析にもとづくマイクロバイオーム型分類体系の整備、抗菌薬治療後の再発率の高さを背景としたプロバイオティクスや膣内移植(VMT)の検討など、複数の治療アプローチが並走して進展しており、これに連動して関連特許の出現件数も急増しています。
さらに「多嚢胞性卵巣症候群(pcos)」「子宮鏡(hysteroscope)」「子宮筋腫(hysteromyoma)」など、婦人科疾患の低侵襲診断・治療に関するキーワードが安定して高い出現頻度をしめし、技術ステータスが成長から実装へ移行しつつある領域として確認できます。
「閉経周辺期(perimenopause)」は、毎年安定的に出現件数を伸ばしているキーワードです。ホルモン補充療法(HRT)の最適化、ホットフラッシュや骨密度低下、睡眠障害といった症状のウェアラブルセンサによる客観的モニタリング、AIによる閉経時期の予測モデル、更年期向け遠隔診療プラットフォームなど、これまで標準治療が乏しかった更年期前後の女性に対する多面的なソリューションが、医薬品や医療機器、デジタルヘルスを横断して並行的に進展していることを反映しています。
また、「骨密度(bmd)」は、閉経後の骨粗鬆症リスク評価や治療最適化に関連し、更年期や加齢の領域における重要なバイオマーカとして注目されています。
「自己人工授精(self-insemination)」は、医療機関に頼らず自宅で実施可能な妊孕性支援技術に関連するキーワードであり、PherDal社による無菌シリンジ式キットなど在宅生殖支援製品の出願増加を反映しています。
「出生前(antenatal)」は2020年以降に出現回数が増加しており、新たな出生前診断・管理技術の登場をしめしています。これは、ウェアラブルセンサや胎児心拍計、母体生体情報の遠隔モニタリングといった在宅型の妊娠期管理技術や、AIによる超音波画像解析、リスク評価アルゴリズムなど、従来の対面診療を補完するデジタル出生前ケア技術の登場を反映しています。
(以降、フェムテックに関する特許の国別出願動向と事例、論文およびスタートアップ企業の動向分析と事例、それらをふまえた全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)
著者:アスタミューゼ株式会社 髙橋 舞菜 博士(農学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「フェムテック」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。
また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
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