集中力測定:脳波とAIで捉える注意と認知の最前線

アスタミューゼ株式会社

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、集中力測定に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

集中力測定とは

集中力(Concentration)とは、特定の対象や課題に対して認知リソースを選択的かつ持続的に向ける能力を指し、注意力(Attention)や認知パフォーマンスと密接に関係します。現代の生産性や教育、医療、スポーツといった領域では、集中力を客観的に計測し定量化することへの需要が急速に高まっています。

本レポートでは、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、特許や論文、スタートアップ企業における「集中力測定」に関する技術動向を分析します。

まずは、集中力測定の科学的基盤とその歴史を見ていきます。

  • ベルガー(Berger):脳波(EEG)とアルファ波阻害の発見(1929)

    ドイツの精神科医ハンス・ベルガー(Hans Berger)は1929年、人間の脳波(EEG)記録を初めて報告した論文「Über das Elektrenkephalogramm des Menschen」のなかで、8~13 Hzのアルファ波が精神的な努力や集中の際に抑制される「アルファ波阻害(alpha blocking)」という現象を観察しました。これは生体信号から集中状態を捉えた最初の科学的記録であり、今日にいたる脳波ベースの集中力測定の原点となっています。

  • カーネマン(Kahneman):注意の認知リソース理論と瞳孔径計測(1973)

    認知心理学者ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)は著書『Attention and Effort』(1973)において、注意を「有限の認知リソース」として理論化しました。同時に、認知負荷(集中の強度)に応じて瞳孔径が拡大することを生理指標として採用し、集中状態を定量化する手法の理論的な基盤を確立しました。この「瞳孔径による認知負荷の推定」は、現代のアイトラッキング技術における集中度評価の基礎をなしています。

  • ポープ(Pope)ら:脳波(EEG)エンゲージメント指数の確立(1995)

    ポープらは論文「Biocybernetic System Evaluates Indices of Operator Engagement in Automated Task」において、脳波(EEG)の周波数帯域比 β/(α+θ) を「エンゲージメント指数(Engagement Index)」として定式化しました。ベータ波(13-30 Hz:覚醒や集中)を、アルファ波(8-12 Hz:リラックス)とシータ波(4-7 Hz:眠気や低集中)の和で割ったこの指数は、パイロットの覚醒度管理に初めて実用的に適用され、バイオサイバネティクス(生体制御工学)における集中力測定の礎となりました。今日でも脳波ベースの集中度評価においてもっとも広く参照される計算式です。

  • チェンとヴェルテガール(Chen and Vertegaal):生理信号による4状態注意分類(2004)

    チェンとヴェルテガール(Chen and Vertegaal)は2004年のCHI(コンピュータ・ヒューマンインタラクション国際会議)において、心拍変動(HRV)と脳波(EEG)を組み合わせて注意状態を「休息・移動・思考・作業中」の4段階に分類する「生理的注意認識ユーザインターフェース(PAUI: Physiologically Attentive User Interface)」を発表しました。これはマルチモーダルな生体信号をもちいて注意状態を複数のクラスに分類した先駆的な研究であり、現代の多状態注意分類技術の直接の先行研究に位置づけられます。

  • マルチモーダル統合の本格化(2010年代以降)

    2010年代以降、EEG(脳波)や機能的近赤外分光法 (fNIRS)、視線追跡、心拍変動(HRV)、皮膚電気反応(GSR)を統合するマルチモーダルアプローチが急速に発展しました。単一のセンサでは捉えきれなかった集中状態の多面性、すなわち注意の方向や深度、持続、切り替えを高精度に推定する技術が、学術研究から実装フェーズへと移行しつつあります。ウェアラブル化や小型化、AI解析の組み合わせにより、集中力測定は研究室から日常環境へと展開されています。

本レポートでは、アスタミューゼが保有する特許や論文、グラント、スタートアップのデータベースから、集中力測定に関連するキーワードをふくむ文献を抽出し、技術動向を分析します。特許4,948件、論文1,626件、ベンチャー403社を対象に、要旨にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移や国別動向、および技術ライフサイクル上の位置づけを評価します。

集中力測定に関連する特許の動向

アスタミューゼが保有する特許データベースから、集中力測定に関連するキーワードをふくむ特許母集団4,948件を抽出しました。これらを対象に、要旨中にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移を分析し、近年進展がみられる技術要素を特定する「未来推定」分析を実施しました。

成長率(Growth)は、2015年から2024年までの全期間における各キーワードの出現回数のうち、直近(2020年以降)の出現回数が占める割合をあらわしています。値が1に近いほど、そのキーワードが近年に集中して出現している(=最近になって注目されはじめた)ことを示します。

図1は、集中力測定関連特許の要旨にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移(成長率上位40語)をヒートマップで示したものです。

図1:集中力計測関連特許の要旨に含まれるキーワードの年次推移(2015~2024年)

成長率(Growth)が1.0に近い最新の注目キーワードとして、「脳波エントレインメント、神経同期(entrainment)」「機能的近赤外分光法(fNIRS)」「オドボール課題(oddball、(P300 / ERP誘発パラダイム)」が確認されました。これらはいずれも2020年以降に出現が急増したキーワードであり、次世代の集中力測定や増強技術として注目されていることを示しています。

「fNIRS(成長率:0.79)」は、近赤外光をもちいて脳血流動態を非侵襲的に計測する技術であり、脳波(EEG)との同時計測(EEG-fNIRS)による認知状態の高精度な評価がおもな研究潮流です。ウェアラブル化が進みやすく、日常環境での長期モニタリングに適した点が特許出願の増加を牽引しています。

「multi-modal(成長率:0.73)」「fusion(成長率:0.62)」は、脳波(EEG)や機能的近赤外線分光法(fNIRS)、視線、心拍といった複数の生体信号を統合する技術群であり、単一のセンサの限界を超えて集中状態を多面的に推定するアプローチが活発化していることを示しています。

「neurocognitive(成長率:0.68)」「connectivity(成長率:0.64)」「time-frequency(成長率:0.68)」は、網は(EEG)から脳のネットワーク活動や時間周波数特性を解析する手法群であり、集中力の神経機構を定量化する研究の広がりを反映しています。

「n-back(成長率:0.63)」「nasa-tlx(成長率:0.67)」は、認知負荷の測定や評価にもちいる標準的なパラダイムであり、集中力測定の検証ベンチマークとして特許に組み込まれる頻度が高まっています。

続いて、国別の特許出願動向を見ていきます。図2は、集中力測定関連特許の国別出願件数の年次推移を示しています。

図2:集中力特定関連特許の国別出願件数年次推移(2015~2024年)

国別では中国の存在感が最も大きく、全体の44%を占めます。続いて、米国(22%)、日本(20%)の順で件数が多くなっています。日本は集中力測定分野において自動車や電機メーカー(トヨタ自動車、本田技研工業など)が特許を牽引する強みを持っています。中国では大学や研究機関が組織的に出願を進めており、認知科学や脳工学分野への国家的な研究投資が件数の増加を支えています。なお、2024年以降にかけて各国の特許出願件数が減少傾向にありますが、これは出願から公開まで一定のタイムラグがあるためであり、実際の出願件数が減少していることを意味するものではありません。

(以降、集中力測定に関する特許の代表的な特許事例、論文のキーワード分析、国別発表数分析、代表論文の事例、およびスタートアップ企業の事例紹介、それらをふまえた全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)

著者:アスタミューゼ株式会社 加治佐 平 博士(農学)

さらなる分析は……

アスタミューゼでは「集中力測定」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。

コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/

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会社概要

アスタミューゼ株式会社

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https://www.astamuse.co.jp/
業種
情報通信
本社所在地
東京都千代田区神田錦町2丁目2-1 KANDA SQURE 11F WeWork
電話番号
03-5148-7181
代表者名
永井 歩
上場
未上場
資本金
2億5000万円
設立
2005年09月