年末年始(2021年12月23日~2022年1月3日)の旅行動向
● 地域観光事業支援も活用した都道府県内・近隣県への「エリアツーリズム」が主流
● 旅行に行きやすい雰囲気になった一方で、感染防止の意識も根付く
「部屋食や個室で食事できる施設を選ぶ」「少人数での旅行にとどめる」
JTBは、「年末年始(12月23日~1月3日)に1泊以上の旅行に出かける人」の旅行動向見通しをまとめました。なお、今期も夏季同様、新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下新型コロナ)の世界的拡大により海外渡航が制限されているため、国内旅行のみを対象としました。本レポートは旅行動向アンケート、経済指標、業界動向や予約状況などから推計しています。
*総旅行人数は、延べ人数。一人あたり旅行費用は一人1回あたりの費用*対前年比は小数点第二位以下を四捨五入*国内旅行人数は宿泊を伴う旅行者の人数(観光および帰省目的の旅行に限る)
*海外旅行人数は出国者数(業務目的の旅行を含む)*国内旅行費用は、交通費・宿泊費・土産代・食費等の旅行中の諸費用を含む *海外旅行費用は、燃油サーチャージ含む。旅行先での土産代等の現地支払費用は除く
【旅行動向アンケート 調査方法】
調査実施期間: 2021年11月16日~11日22日
調査対象: 全国15歳以上79歳までの男女個人
サンプル数: 事前調査10,000名 本調査1,498名
(事前調査で「年末年始に国内旅行に行く/たぶん行く」と回答した人を抽出し本調査を実施)
調査内容: 2021年12月23日~2022年1月3日に実施する1泊以上の国内旅行
(帰省を含む。商用、業務等の出張旅行は除く)調査方法: インターネットアンケート調査
<現在の社会経済環境と生活者の動き>
1.新型コロナウイルス感染症と旅行・観光の動き
新型コロナが世界的に拡大してから2度目の年末年始を迎えようとしています。ワクチン接種が進むにつれ、新型コロナは一部の国・地域を除き下火に向かったように思われ、それまで滞っていた経済活動も多くの国と地域が新型コロナとの共存に踏み切り、活発化しました。
一方、新たな変異株であるオミクロン株が英国をはじめとする欧州や香港、日本でも検出されるなど、世界的に拡大する兆しがみられています。旅行分野においては、一時、国際航空便の再開やワクチン接種完了者を対象とする、到着地での隔離期間の短縮などの制限緩和が図られ、旅行促進が期待されましたが、新たな変異株で観光・旅行業が再び打撃を受けることが懸念されます。
日本国内では、首都圏などの大都市圏を中心に、1~9月の大半において緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が適用され、旅行や外食、イベントなどに多大な影響を及ぼしました。新型コロナの感染者数は8月をピークに減少し(図表2)、9月30日に緊急事態宣言などが全面解除されました。国や自治体は感染対策を徹底しながらも、会食の人数制限やイベントの開催制限に対し、12月からの解除を発表しました。また、旅行需要喚起策として期待されている「GoToトラベル」は、来年以降の実施となることがほぼ決まっていますが、再開されるまでの代替として、県民割などの「地域観光事業支援」が12月1日現在、東京都を除く46道府県で実施しています。一方、安全・安心の旅行の実現を目指して実施した「ワクチン・検査パッケージ」の技術実証が行われ、その結果をもとに、観光庁が「旅行業・宿泊業におけるワクチン・検査パッケージ運用ガイドライン」を策定しました。人々の旅行意欲に関しては、㈱JTB総合研究所による緊急事態宣言解除直後の調査「新型コロナウイルス感染拡大による、暮らしや心の変化と旅行に関する調査(2021年10月実施)」によると、「今後1年間に国内旅行を予定・検討している人」は前回調査(2021年7月実施)から微増にとどまっており、不安や慎重な気持ちに大きな変化は見られないようです(図表3)。安全・安心に向けた様々な取り組みが旅行意欲の向上につながることが期待されます。
※厚生労働省「PCR検査陽性者数(単日)」データをもとにJTB総合研究所作成
※JTB総合研究所「新型コロナウイルス感染拡大による、暮らしや心の変化と旅行に関する調査(2021年10月実施)」
2.旅行やレジャー消費をとりまく経済環境と生活者意識
2021年11月の政府の月例経済報告によると、景気は「厳しい状況が徐々に緩和されつつあるものの、引き続き持ち直しの動きに弱さがみられる」となっており、回復にはまだ時間がかかりそうです。しかしながら、個人消費は10月から上方修正されており、今後の消費拡大が期待されます。総務省の「家計調査」においては、2021年4~6月は前年の反動が表れているものの、消費活動が行われている様子がうかがえます(図表4)。日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」の「現在の暮らし向き(ゆとり)」をみると、2021年9月調査では「ゆとりが出てきた」の割合が増加、「ゆとりがなくなってきた」の割合が減少しており、生活のゆとり意識は徐々にではあるものの改善傾向となっています(図表5)。
一方、懸念材料としては、様々な分野において商品・原材料の価格が軒並み上昇していることがあげられます。一例として、ガソリン価格は2021年11月29日時点で給油所小売価格が168円を超えました(図表6)。この影響を抑えるため、日本やアメリカでは石油の国家備蓄の一部を放出する対策を施し、価格の低下及び安定化を図っています。
JTBが実施したアンケートで、自身の生活と年末年始の旅行について当てはまる状況を聞いたところ、自身の生活では「昨年より収入が減った(14.4%)」が2020年度調査(19.1%)と比べるとやや減少しました。一方で、「将来が不安なので、貯蓄や資産運用を増やしている(14.8%)」は同調査(11.7%)を上回っており、将来の不安に備えた対応も着実に行われている様子がうかがえます。年末年始の旅行については、「昨年より長く休みが取れそうだ(4.7%)」が2020年度調査(5.8%)よりやや減少しており、日並びの悪さもあり、長期間の休みがとりにくい状況が考えられます。さらに「来年は旅行できそうにないので、今年は旅行に行く(2.8%)」が同調査(1.9%)より増加し、先行き不透明ながらも旅行への意欲が見られます。
また、「昨年よりお金をかけて豪華に過ごす予定(3.4%)」は2020年度調査(2.3%)よりも増加、逆に「昨年よりお金をかけずに質素に過ごす予定(13.8%)」は22.1%から8.3ポイント減少しました(図表7)。「今後1年間の旅行の支出に対する意向」について、「コロナ前(2019年以前)」と「コロナ禍(2020年以降)」とそれぞれ比較して聞きました。「コロナ前(2019年以前)より支出を増やしたい」と回答した人は11.2%、「コロナ禍(2020年以降)より旅行支出を増やしたい」は17.3%であり、感染拡大が始まった昨年よりは支出を増やしたいと考える人の割合が高い結果となりました(図表8)。
※総務省「家計調査」をもとにJTB総合研究所作成
図表5:※日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」をもとにJTB総合研究所作成
図表6:※経済産業省資源エネルギー庁「石油製品価格調査」をもとにJTB総合研究所作成
図表8:※ アンケート結果は無回答があるため単一回答でも合計100%にはなりません。
<2021年~2022年 年末年始の国内旅行動向予測>
3.年末年始の旅行意向
一般的には6連休。旅行意欲は回復傾向も、今年の日並びは長期休暇にはなりにくい「旅行に行く(行く/たぶん行くの合算値)」人は16.9%と2.1ポイント前年から上昇
今年の年末年始の一般的な休暇は、12月28日(火)を仕事納めとすると、1月3日(月)までの6連休になります。その前後は平日が続くため休みが取りにくく、例年より長期休暇になりにくい日並びになります。
前述の事前調査で、年末年始期間中(2021年12月23日~2022年1月3日)の帰省を含めた旅行意向を聞きました。期間中に旅行に行くかどうかについては、「行く(8.6%)」および「たぶん行く(8.3%)」と回答した人の合計は16.9%となり、前年より2.1ポイント上昇しました(図表9)。2019年の調査では20.0%が「行く」と回答していることから、緊急事態宣言が解除になり、新規感染者は低水準が続いていますが、旅行意欲がコロナ禍前の水準まで一気に高まった状態ではないことが分かります。性年代別でみると、男女とも若い年代ほど旅行意向が高い結果でした。「行く(“行く”と“たぶん行く”の合計)」は男性29歳以下が最も高く29.8%、女性29歳以下(25.2%)、男性30代(23.1%)と続きました。一方、旅行意向が最も低かったのは男女60歳以上(男性9.4%、女性6.7%)でした(図表10)。事前調査で「年末年始に国内旅行に行く/たぶん行く」と回答した人のうち1,498人に旅行の目的や動機を聞いたところ、上位から「毎年恒例なので(36.6%)」「家族一緒に過ごすため(33.2%)」「実家で親族や友人と過ごすため(29.4%)」となりました(図表11)。それぞれの目的や動機の割合は前年と比較すると総じて減少していますが、これは今年の年末年始に旅行に行く人が増え、目的が多様化し、分散したことが考えられます。その一方で「自然や風景を楽しみたいので(12.6%)」だけは前年より0.9ポイント上昇していました。また、性年代別にみると、「実家で親族や友人と過ごすため」は前年に比べ女性の上昇率が高く、特に女性50代は前年より5.2ポイント、女性40代は2.7ポイント上昇していました。これは、帰省しコロナ禍で自由に会えない高齢の親や友人と過ごしたい気持ちの表れといえそうです。一方、男性20代は5.6ポイント減少しました(図表は省略)。今年の年末年始の旅行はこれまでコロナ禍で帰省を控えていた人たちにとって、親族や友人と過ごす大切な機会であるということがいえそうです。
4.国内旅行人数は 1,800万人(実績推計19年比▲38.5%、同20年比+80.0%)
国内旅行平均費用は 32,000円(実績推計19年比 ±0%、同20年比▲3.0%)年末年始期間(2021年12月23日~2022年1月3日)の国内の旅行動向については、各種経済指標、交通機関各社の動き、宿泊施設の予約状況、各種定点意識調査などをもとに算出し、1,800万人(19年比▲38.5%、20年比+80.0%)と推計します。また、国内旅行平均費用は32,000円(19年比 ±0%、20年比▲3.0%)、総額5,760億円と推計します。旅行費用については、カレンダーの日並びおよび新型コロナによる平均泊数の低下が影響しています。帰省を含むアンケート調査では出発日のピークは30日です(図表12)。一方でJTBの宿泊を伴う企画旅行商品の予約状況ではピークは31日となっています。具体的な傾向については次章以降で述べる通りです。
5.地域観光事業支援(県民割等)も活用した都道府県内・近隣県への「エリアツーリズム(※)」が主流
1泊2日が5.5ポイント上昇の36.3%と、短期旅行が増える
旅行者が全体的に増え、同行者は昨年の家族中心から友人・知人にも広がる
旅行の内容について詳細を聞きました。
旅行日数:「1泊2日」が36.3%と最も多く、前年より5.5ポイント上昇しました。次いで「2泊3日(26.3%、前年比+1.1ポイント)」「3泊4日(15.2%、前年比▲2.2ポイント)」となりました。3泊以上は昨年より割合が減少し、日並びの影響による短期傾向を反映しています。(図表13)。
同行者:「家族連れ」が56.7%と半数以上を占めていますが、昨年からは4.9ポイント減少しました。新型コロナの感染拡大が比較的落ち着き、旅行に行く人が増え、同行者が昨年の家族中心から友人・知人などにも広がったからと考えられます。家族の内訳では、「子供連れ(中学生まで)」は前年と同じですが、「夫婦のみ(18.4%)」が昨年から4.5ポイント下がりました。「ひとり(22.9%)」は昨年から2.2ポイント上昇しましたが、コロナ禍前の2019年(17.0%)からは5.9ポイント増加しており、感染防止や周囲への配慮などもあってか、帰省を含む、ひとりで旅行に行く人は増え続けています(図表14)。
旅行先:最も割合が高かったのは「関東(22.2%、前年比+0.6ポイント)」、次が「近畿(17.6%、前年比+1.3ポイント)」と、いずれも前年より高い結果でした。今年の、短期間の旅行の増加を反映し、「北海道(5.5%、前年比▲1.6ポイント)」および「沖縄(2.1%、前年比▲1.7%)」は昨年より低くなりました。昨年より高い旅行先は「甲信越」「東北」「北陸」「近畿」です(図表15)。その地域を選んだ理由としては「帰省先なので(42.7%)」「行きたい場所があるので(34.3%)」「泊まりたい宿泊施設があるので(19.0%)」の順になりました(図表16)。居住地別に旅行先を見ると、「東北」「近畿」「九州」においては居住地域内での旅行需要が高まっています(図表17)。
一人当たりの旅行費用:「1万円~2万円未満(25.5%、前年比+2.2ポイント)」が最も多く、次いで「1万円未満(21.7%、前年比+0.2ポイント)」「2万円~3万円未満(18.2%、前年比▲1.0ポイント)」となりました。3万円未満が全体の65.4%を占めています(図表18)。
利用交通機関:例年過半数を占める「乗用車」ですが、今年は54.7%で前年から1.6ポイント減少しました。2020年の年末年始は新型コロナの新規感染者数が増加していたこともあり、乗用車を選択する人がコロナ禍前の2019年(52.7%)から2.0ポイント上昇していました。今年はそれでもコロナ禍前より高い状態です。現在、ガソリンの価格が上昇しているため、今後の自動車利用への影響は広がるかもしれません。また全体的には公共交通機関の利用が増え、「JR新幹線(24.2%、前年比+3.5ポイント)」「JR在来線・私鉄(22.6%、前年比+1.2ポイント)」「高速/長距離バス(7.7%、前年比+1.3ポイント)」となりました。航空機では格安航空会社(LCC)は昨年より増加したものの、従来の航空会社は短期の旅行が増えたこともあり減少する結果となりました(図表19)。
利用宿泊施設:「ホテル」が34.6%と最も多く、次いで「夫や妻の実家(23.9%)」「旅館(18.7%)」となりました。「ホテル」は前年より1.3ポイント減少しましたが、「旅館」は0.4ポイント上昇しました。旅館は2020年にコロナ禍以前の2019年より3.9ポイント上昇していますので、都市部のホテル滞在と比べ地方の旅館滞在を志向する人が増えていると考えられます(図表20)。※JTBでは「エリアツーリズム」を地元(居住地域)にとどまらず、都道府県内及び近隣県の広域にわたり、正しい感染防止対策を取ったうえで楽しむ旅行と定義しています。
6.今年の年末年始の旅行で特別に考慮したことは昨年より総じて少なくなる傾向だが、
「部屋食や個室で食事ができる施設を選ぶ」は前年より3.3ポイント上昇
「家族・親族や親しい友人以外には会わない」は前年から4.7ポイント減少
9月末で緊急事態宣言が解除になり、低水準の感染状況で年末年始を迎えようとしていますが、海外では感染再拡大が深刻な地域も多く、日本国内も先行きは不透明です。アンケートでは、新型コロナの現状を踏まえて「年末年始の旅行で特別に考慮したこと」について昨年と同様に聞きました。最も高かったのが「家族・親族や親しい友人以外には会わない(29.5%)」で、「公共交通機関を使わずに、自家用車やレンタカーを使う(27.8%)」、「少人数の旅行にとどめる(23.7%)」と続きました。全体ではほとんどの項目で昨年よりポイントを下げる結果となり、「家族・親族や親しい友人以外には会わない」は前年から4.7ポイント減少しました。一方で「部屋食や個室で食事ができる施設を選ぶ(16.5%)」は前年から3.3ポイント上昇する結果となり、また「少人数での旅行にとどめる(23.7%、前年比▲0.4ポイント)」および「旅行することを周囲に話さないようにする(11.5%、前年比▲0.7ポイント)」に大きな減少は見られませんでした。以上から、感染拡大がある程度落ち着き旅行しやすい雰囲気ではあるものの、感染防止に留意し、近しい関係の人と少人数で、居住地域および近隣エリアにて短期間という「エリアツーリズム」型が増えてきたといってよさそうです(図表21)。次に、今後、新型コロナの感染者数が増加し、国や自治体から移動の自粛要請や飲食店の営業時間短縮要請が出された場合、旅行の予定をどうするかを聞きました。結果は「予定通り出かける」が48.6%と最も多く、「その旅行は延期または中止する(24.8%)」が続きました(図表22)。
7.今年の年末年始で気になるところは、「自然が楽しめる場所」
「買い出しが楽しめる場所」「話題の商業施設やアウトレットモール」も人気
今年の年末年始に旅行や日帰りで出かける場所として、どのような所が気になっているか聞いてみました。「自然が楽しめる場所(国立公園や花畑など景観を楽しむ)」が17.0%と最も高く、「自然を楽しめる場所(自然やアウトドアなど体験を楽しむ)」も10.1%あり、自然に触れたいという意向が高くなりました。「買い出しが楽しめる場所(13.0%)」「話題の商業施設やアウトレットモール(11.7%)」「東京ディズニーリゾート🄬(11.3%)」も昨年に引き続き人気上位となりました(図表23)。
JTBの宿泊・国内企画旅行商品の予約状況をみると、地域観光事業支援の県民割などが多くの自治体で発表されており、感染対策を実施しながらも旅行への期待感が高まり前年同期比8割程度(12月7日時点)となっています。旅行先としては、県民割などの実施地域が多いことから、居住地域内および近隣エリアへの旅行を選ぶ傾向が顕著です。昨年同様、車でアクセスできる温泉地や自然・景勝地への関心が高く、部屋食や貸切風呂など感染防止対策とサービスを提供する高価格帯の小規模旅館や自然に近い海や山岳地域にあるリゾートホテルが好調です。一方、鉄道などの公共交通機関を利用し、近隣県へ足を延ばすケースや、首都圏を中心とする各種イベントの再開に伴い、ホテル需要も増加しています。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像