企業の6割で「賃上げ」見込み、賃上げ率は平均4.16%と試算 半数超がベースアップを実施予定
2024年度の賃金動向に関する企業の意識調査
そこで、帝国データバンクは、2024年度の賃金動向に関する企業の意識について調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2024年1月調査とともに行った。
<調査結果(要旨)>
2024年度、過去最高となる59.7%の企業で賃金改善を見込む。ベースアップは過去最高を記録
賃金改善の理由、「労働力の定着・確保」が75.3%へ増加、「物価動向」も半数を超える
賃金を改善しない理由、「自社の業績低迷」が56.3%でトップ
総人件費は平均4.32%増加見込み、従業員給与は平均4.16%増と試算
※ 調査期間は2024年1月18日~1月31日、調査対象は全国2万7,308社で、有効回答企業数は1万1,431社(回答率41.9%)。なお、賃金に関する調査は2006年1月以降、毎年1月に実施し、今回で19回目
※ 本調査における詳細データは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している
※ 賃金改善とは、ベースアップや賞与(一時金)の増加によって賃金が改善(上昇)すること。定期昇給は賃金改善に含めない。
※資料は下記HPにも掲載している
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p240206.html
2024年度、過去最高となる59.7%の企業で賃金改善を見込む。ベースアップは過去最高を記録
2024年度の企業の賃金動向について尋ねたところ、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、一時金の引上げ)が「ある」と見込む企業は59.7%と3年連続で増加、2006年の調査開始以降で最高を更新した。一方、「ない」企業は13.9%と前回調査(17.3%)から3.4ポイント低下、調査開始以降で最も低い水準だった。
賃金改善の状況について企業規模別にみると、「大企業」「中小企業」「小規模企業」の3規模すべてで、前回調査の2023年度見込みから賃金改善見込みの割合が上昇した。また、従業員数別では、「6~20人」「21~50人」「51~100人」「101~300人」で6割を超えている。「5人以下」(41.3%)では賃金改善を行う割合が低くなっているが、初めて4割台に達した。
他方、賃金改善を実施しない割合は「5人以下」(31.6%)が突出して高い。従業員数が21人以上の企業では、賃金改善がない企業はいずれも1割未満にとどまっている。総じて従業員が5人以下でより賃金改善を行う環境が厳しくなっている様子がうかがえる。
業界別では『製造』(64.7%)が最も高く、『運輸・倉庫』(63.7%)や『建設』(62.5%)が続いている。2024年4月から時間外労働の上限規制が始まるトラックドライバーや建設業界などで、賃金改善を実施する企業の割合が昨年より高まっていた。
賃金改善の具体的な内容をみると、「ベースアップ」が53.6%(前年比4.5ポイント増)、「賞与(一時金)」が27.7%(同0.6ポイント増)となった。「ベースアップ」は過去最高となった前年の49.1%を上回り、3年連続で調査開始以降の最高を更新するなど、初めて半数を上回った。
賃金改善の理由、「労働力の定着・確保」が75.3%へ増加、「物価動向」も半数を超える
2024年度に賃金改善が「ある」企業に、その理由を尋ねたところ、人手不足などによる「労働力の定着・確保」が75.3%(複数回答、以下同)と最も高かった。
また、昨年の調査から尋ねている「従業員の生活を支えるため」は63.7%だった。前回よりは低下したものの、依然として6割を超える水準となっている。さらに、飲食料品などの生活必需品の値上げが響いている「物価動向」(51.6%)は前回より5.9ポイント減少したものの、引き続き半数超の企業が理由としてあげていた。また、今回初めて尋ねた「採用力の強化」(35.8%)が4番目にあげられており、賃金改善を通じて採用活動へのプラス効果を期待している様子がうかがえる。以下、「自社の業績拡大」(26.1%)、「同業他社の賃金動向」(25.3%)が続いた。
賃金を改善しない理由、「自社の業績低迷」が56.3%でトップ
他方、賃金改善が「ない」企業にその理由を尋ねたところ、「自社の業績低迷」が56.3%(複数回答、以下同)と2023年度見込み同様に最も高くなった。また、「物価動向」(17.8%)は賃金改善を行う理由でも上位にあげられた一方で、物価上昇が賃金改善を行えない状況をもたらしていた様子もうかがえる。以下、新規採用増や定年延長にともなう人件費・労務費の増加などの「人的投資の増強」(13.6%)、「同業他社の賃金動向」(13.3%)、「内部留保の増強」(11.2%)が続いた。
総人件費は平均4.32%増加見込み、従業員給与は平均4.16%増と試算
2024年度の自社の総人件費が2023年度と比較してどの程度変動すると見込むかを尋ねたところ、「増加」[1]を見込んでいる企業は、72.1%と前年比で2.5ポイント増加していた。一方、「減少」すると見込む企業は5.3%(前年比0.5ポイント減)となった。その結果、総人件費の増加率は前年度から平均4.32%増加すると見込まれる。そのうち従業員の給与は平均4.16%、賞与は平均4.04%それぞれ増加、さらに各種手当などを含む福利厚生費も平均4.06%増加すると試算される。
また、大企業において、総人件費の増加率が3%以上とした企業は52.6%(前年比5.0ポイント増)、中小企業でも総人件費の増加幅が3%以上の企業は54.9%(同4.1ポイント増)となった。
[1] 「増加」(「減少」)は、「20%以上増加(減少)」「10%以上20%未満増加(減少)」「5%以上10%未満増加(減少)」「3%以上5%未満増加(減少)」「1%以上3%未満増加(減少)」の合計
2024年は賃金と物価の好循環が達成されるか否かに大きな注目が集まる。デフレから脱却するとともに、長く続いた非伝統的な金融政策であるマイナス金利政策の解除など、経済の正常化に向けた動きが一段と加速すると予測されている。こうしたなか政府は、政労使が一致して賃上げを行う環境を整えようとしている。
本調査によると、2024年度に賃上げを見込む企業は59.7%と、2007年以降で最も高い水準となった。特に、ベースアップにより賃上げを進めようとする企業が半数を超えており、賃金の基礎的な上昇傾向が表れてきた。2023年度の実績では企業の74.4%が賃上げを実施しており、2024年度は最終的に同年度をさらに上回ることが期待される。総人件費も企業の72.1%と7割超の企業が増加を見込み、金額ベースでも約4.32%と調査開始以降で最も高い上昇を想定している。
2024年度は賃金改善に上向きの傾向がみられるが、賃金改善が「ある」と見込む理由では、引き続き「労働力の定着・確保」が最も多く7割を超える。さらに、非正社員においても企業の約3割で賃金改善が「ある」と見込んでいた。
今後の景気回復には継続的な賃上げが欠かせない。しかしながら、とりわけ従業員数が5人以下の企業で厳しい見込みとなっており、賃上げの動きが小・零細企業へ広がるかどうかがカギを握る。国内外においてさまざまなリスク要因が山積しているが、バブル崩壊以降30年あまり続いてきた日本経済の沈滞感を払拭するためにも、生産性をさらに高めて賃金の上昇を進めることが重要となる。
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