大気水生成:空気から水をつくる技術と実用化の最前線
アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、大気水生成に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

大気水生成とは
大気水生成とは、空気中の水分を回収し、飲料水や産業用水として利用する技術です。本レポートでは、水蒸気を取り出す方法に加え、霧にふくまれる微小な水滴を集める方法もあつかいます。空気から水を得る試みは古くからあり、霧の多い乾燥地では網で霧を集める方法が20世紀半ばに実証され、冷凍機で空気を冷やして結露させる装置も20世紀後半には製品化されています。
ただし、霧を集める方式は霧の発生条件に左右され、空気を冷やして結露させる方式は冷却に多くの電力を要します。乾燥地や電力供給が限られる地域で活用するには、こうした制約への対応が必要です。
こうした課題に対応するため、少ないエネルギーで効率よく水を取り出す材料や装置の開発が進んでいます。代表例が、イスラエルのWatergen社による熱交換技術「GENius」です。食品用途にも使える高分子材料でつくった独自の熱交換モジュールで、空気を露点(水蒸気が水滴に変わり始める温度)まで効率よく冷やします。同社によると1kWhあたり最大6.2Lの水を生成できます(注1)。
注1:Technology – Watergen
https://watergen.com/technology/
同社の装置は、米国やアラブ首長国連邦、ウズベキスタン、チリ、シエラレオネなど、5大陸の国・地域に導入されています。
世界保健機関(World Health Organization:WHO)が2026年1月に公表した資料によると、世界では約21億人が、安全に管理された飲料水を利用できていません(注2)。
注2:New UN-Water GLAAS findings: stronger WASH systems needed for safe drinking-water, sanitation and hygiene for all
気候変動による干ばつの深刻化も、河川や地下水などの従来の水源に頼る地域にとって課題です。大気水生成の特徴は、水道管や井戸がない場所でも、その場の空気から水を得られることです。乾燥地や離島での飲料水確保、災害時の緊急給水、水の輸送に危険を伴う軍事・防災の現場などでの活用が期待されます。さらに、大量の水を使う飲料工場や半導体工場、データセンタなどが、自ら水源を確保する手段としても注目されています。
本レポートでは、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、大気水生成に関する特許、論文、研究資金、スタートアップの動向を分析します。「飲料水や産業用水の確保をおもな目的として、大気中の水分を取り出す技術」にフォーカスし、除湿によって副次的に生じる凝縮水の回収や、雲に働きかけて雨を降らせる人工降雨は対象外とします。
大気水生成に関する特許の出願動向
特許は、企業や大学などが開発した技術の権利化を図る手段であり、製品化や社会実装に向けた研究開発の動向をとらえる情報源となります。
アスタミューゼが保有する特許データベースから、概要に「大気水生成(atmospheric water generation)」「大気中の水分の改修(atmospheric water harvesting)」「霧の捕集(fog harvesting)」などの関連キーワードをふくむ、2015年以降に出願された特許約4,200件を抽出しました。
図1は、大気水生成に関連する特許の帰属国別出願件数の年次推移です。

なお、特許は原則として出願から公開まで18カ月を要するため、直近年の集計値は参考値です。
出願件数は米国がもっとも多く、韓国、中国、ドイツ、日本が続きます。米国の件数は2位の韓国の約4.5倍です。
米国は、民間の技術開発コンテストや政府の研究開発支援が進められてきました。2016年10月、XPRIZE財団は賞金総額175万米ドルの「Water Abundance XPRIZE」を開始しました。再生可能エネルギーだけをもちいて、空気から1日2,000L以上の水を1Lあたり2米セント以下で取り出すことを基準に、技術実証を競うものです。2018年10月には、米国のSkysource / Skywater Allianceがこの基準を達成し、150万米ドルの賞金を獲得しました(注3)。
注3:Grand Prize Winner in $1.75M Water Abundance XPRIZE Announced at XPRIZE Visioneering 2018 News Page | XPRIZE Foundation
https://www.xprize.org/news/waxp-grand-prize-winner
本分析では、2017年の米国の出願件数が前年の約1.7倍に増加しています。ただし、この増加とコンテストとの因果関係は、件数の推移だけでは判断できません。
政府による支援の例として、2019年12月には米国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency:DARPA)が、大気から飲料水を得る「Atmospheric Water Extraction(AWE)」プログラムを発表しました(注4)。
注4:Drinking Water, on Demand and from Air | DARPA
https://www.darpa.mil/news-events/2019-12-12
これは乾燥地でも利用できる小型で省電力の装置の開発を目指すものです。民間のコンテストと軍事用途を想定した支援の両面で、実用化に向けた取りくみが見られます。
続いて、抽出した特許の母集団を対象に「未来推定」分析をおこないました。これは、文献中のキーワードの年次推移から、近年伸びている技術要素をとらえるアスタミューゼ独自の分析手法です。キーワードの変遷をもとに、注目が落ち着いた技術や今後注目されると予測される技術を可視化し、各要素技術の段階(黎明・萌芽・成長・実装)を推定します。
図2は、関連特許の概要にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移です。

成長率(growth)は、全期間の文献中におけるキーワードの出現回数に対し、後半5年間の出現回数が占める割合です。値が1に近いほど、そのキーワードの出現が後半5年間に集中していることをしめします。
材料に関するキーワードでは、「MOF」「metal-organic-frameworks」が見られます。金属有機構造体(Metal-Organic-Frameworks:MOF)は、微細な孔と大きな内部表面積を持ち、水分の効率的な吸着が期待される材料です。また、「ハイドロゲル(hydrogel)」「高い吸湿性(super-hygroscopic)」「温度応答性(thermo-responsive)」は、吸湿性の塩をゲルなどに閉じ込め、加熱によって水を放出させる材料の開発に関連します。
エネルギー利用では、「ゼロエネルギー消費型(zero-energy-consumption)」「光熱変換(photo-thermal)」などが出現しています。太陽の光や熱を利用し、外部から供給する電力をおさえる造水技術に関連すると考えられます。
表面構造に関する語には、「超疎水性(super-hydrophobic)」「超親水性(super-hydrophilic)」「生物模倣(bionic)」「カブトムシ(beetle)」「サボテン(cactus)」があります。乾燥した環境に生息する生物に学び、水のなじみやすさである「濡れ性」を制御して、水滴を効率よく集める技術に関連します。これらのキーワードから、少ないエネルギーで水を得るため、吸着材と装置の形状の両面で工夫が進んでいることがうかがえます。
用途に関するキーワードも見られます。「車載型(vehicle-mounted)」は、造水装置を車で運び、移動先で水をつくる仕組みに関連します。「灌漑不要(irrigation-free)」は、外部からの給水に頼らない植林などへの応用を示唆します。被災地での給水や砂漠の緑化を想定した開発がうかがえます。
(以降、大気水生成に関する注目の特許事例、論文とグラントのキーワード分析と事例、スタートアップ企業の事例、およびそれらをふまえた全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)
著者:アスタミューゼ株式会社 神田 知樹 修士(工学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「大気水生成」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。
また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
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