高齢心不全患者の「退院時の身体機能」が1年後の生命を左右する

―国内最大規模96施設・約1万人のデータでAIが高精度予測、個別化リハビリへの道―

学校法人 順天堂

順天堂大学保健医療学部理学療法学科の山田莞爾 助教、同医学部循環器内科学講座の鍵山暢之 准教授、同保健医療学部理学療法学科の高橋哲也 教授と日本循環器理学療法学会との研究グループは、高齢心不全患者の退院1年後の生命予後を、退院時の客観的な身体機能データを用いて高精度に予測するAIモデルを開発しました。国内96施設の多施設共同前向き研究(J-Proof HF Registry)に参加した高齢心不全患者約1万例の大規模データを解析した結果、本モデルは従来の臨床リスクスコアを上回る予測精度を達成しました。AIの解析により、日常生活の自立度を示す「バーセルインデックス*1」や歩行能力などを評価する「SPPB*2」といった身体機能が、心機能などの従来の指標に匹敵する強力な予測因子であることを科学的に示しました。本成果は、退院後の患者一人ひとりに合わせた個別化医療を促進し、医療資源の効率的な配分に貢献するものです。本論文は『The Lancet Regional Health – Western Pacific』に2026年2月3日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  • 高齢心不全患者約1万人の身体機能データをAIで解析し、退院1年後の生命予後を高精度に予測するモデルを開発

  • 退院時の「身体機能」や「基本動作能力」が、心機能などの従来の指標に匹敵する、あるいはそれ以上に強力な予測因子であることを発見

  • AIによるリスク予測に基づき、患者一人ひとりに最適なリハビリテーションを提供する「個別化医療」の実現へ

背景

心不全は高齢化社会において患者数が急増しており、"心不全パンデミック"とも呼ばれる深刻な健康課題です。特に高齢の心不全患者は、フレイル*3やサルコペニア*4など複数の健康問題を抱えることが多く、入退院を繰り返しながら生命予後が悪化しやすいことが知られています。しかし、従来の予後予測は、心臓のポンプ機能(左室駆出率)や血液検査といった心臓中心の指標に依存してきました。そのため、患者一人ひとりが持つ「歩く」「立ち上がる」といった生活に直結する身体機能や、全身の虚弱性が予後に与える影響は十分に評価されてきませんでした。そこで本研究グループは、客観的に測定された身体機能データを活用し、より正確に高齢心不全患者の予後を予測する新たな手法を開発することを目的としました。この目的のため、国内最大規模の前向き観察研究であるJ-Proof HF Registryのデータを活用しました。

内容

本研究では、日本循環器理学療法学会が主導した国内96の医療機関が参加する多施設共同前向き研究「J-Proof HF Registry(研究責任者:高橋哲也教授)」に登録された、心不全で入院しリハビリテーションを受けた65歳以上の患者9,700人のデータを解析しました。研究グループは、年齢や性別、併存疾患、血液検査データといった従来の臨床情報に加え、理学療法士が退院時に標準的な手法で測定した「バーセルインデックス(BI)3」、「SPPB(Short Physical Performance Battery)4」、歩行速度、握力といった客観的な身体機能データをAI(機械学習の一種であるXGBoost)に学習させました。

モデルの性能を厳格に評価するため、「Leave-one-site-out交差検証」という手法を用いました。これは、96施設のうち1施設を完全に未知のテストデータとし、残りの95施設で学習したモデルで予測精度を検証する、というプロセスを96回繰り返す頑健な検証方法です。

その結果、開発したAIモデルは、既存の臨床リスクスコア(AHEADスコア、BIOSTAT compactスコア)と比較して、統計学的有意に高い退院1年後死亡の予測精度(AUC 0.76)を達成しました。さらに、AIがどの情報を重視して予測しているかを分析したところ、「退院時のバーセルインデックス」と「SPPB」が、心機能や血液検査データに匹敵する、あるいはそれ以上に強力な予測因子であることが明らかになりました(図1)。これは、「退院時にどれだけ日常生活が自立し、しっかりと動けるか」が、その後の生命予後を左右する重要な鍵であることを科学的に示しています。

今後の展開

本研究の成果は、高齢心不全患者の退院後のケアを大きく変える可能性を秘めています。開発されたAIモデルを用いることで、退院時に「1年後に命を落とすリスクが高い患者」を客観的かつ高精度に特定できます。これにより、画一的なフォローアップではなく、ハイリスクと予測された患者には集中的な心臓リハビリテーションや栄養指導、多職種による訪問ケアを手厚く提供するなど、個別化されたケア計画(Personalized Medicine)の立案が可能になります。これは、限りある医療・介護資源を、真に介入を必要とする患者へ効率的に配分することにも繋がります。

研究グループは、この予測モデルを臨床現場の医師や理学療法士が日常的に使えるよう、プロトタイプのWebアプリケーションも開発しています。今後は、このツールの臨床的有用性を検証する研究を進め、将来的には実臨床への導入を目指します。本研究が、一人でも多くの心不全患者の予後改善と、持続可能な医療システムの構築に貢献することを期待しています。

図1:AIが解き明かす、高齢心不全患者の個別化医療への道筋

本研究の全体像を示す模式図。高齢心不全患者の臨床情報や検査データに加え、理学療法士が測定した客観的な身体機能データ(バーセルインデックス、SPPBなど)をAIモデルに入力(左:入力)。国内最大規模の約1万人のデータを機械学習(XGBoost)で解析し(中央:解析)、退院1年後の生命予後を予測しました。その結果、AIは「退院時の身体機能」が最も重要な予測因子の一つであることを発見しました(右:出力・意義)。この予測に基づき患者を「高リスク群」「低リスク群」に層別化することで、高リスクの患者には集中的なリハビリテーションを提供するなど、一人ひとりに最適化されたケアの実現が期待されます。

用語解説

*1 バーセルインデックス(BI):食事、移乗、整容、トイレ動作、移動など10項目の日常生活動作(ADL)の自立度を評価する指標。

*2 SPPB (Short Physical Performance Battery):高齢者の下肢機能(バランス、歩行速度、椅子からの立ち上がり能力)を総合的に評価するテスト。

*3 フレイル:加齢に伴い心身の活力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態。

*4 サルコペニア:加齢や疾患により、筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下した状態。

研究者のコメント

これまで多くの高齢心不全患者さんが、退院後の生活で苦労される姿を目の当たりにしてきました。

今回の研究で、心臓の状態だけでなく『退院時にどれだけしっかりと動けるか』という身体機能こそが、その後の人生を左右する重要な鍵であることを、科学的に証明できたことに大きな喜びを感じています。

この成果が、患者さん一人ひとりに寄り添ったリハビリテーション計画の立案に繋がり、退院後の生活に希望をもたらす一助となることを心から願っています。

原著論文

本研究は『The Lancet Regional Health – Western Pacific』のオンライン版で(2026年2月3日付)公開されました。

タイトル: Machine learning prediction of 1-year mortality in older patients with heart failure: a nationwide, multicenter, prospective cohort study

タイトル(日本語訳): 高齢心不全患者の1年後死亡を予測する機械学習モデル:多施設前向きコホート研究

著者: Kanji Yamada, Nobuyuki Kagiyama, Tomoyuki Morisawa, Masakazu Saitoh, Kentaro Iwata, Michitaka Kato, Koji Sakurada, Yuji Kono, Yuki Iida, Masanobu Taya, Yoshinari Funami, Kentaro Kamiya, Tetsuya Takahashi.

著者(日本語表記): 山田莞爾1), 2)、鍵山暢之3)、森沢知之4)、齊藤正和4)、岩田健太郎2), 4)、加藤倫卓4)、櫻田弘治4)、河野裕治4)、飯田有輝4)、田屋雅信4)、舟見敬成4)、神谷健太郎4)、高橋哲也1), 4)

著者所属: 1) 順天堂大学保健医療学部、2) 神戸市立医療センター中央市民病院 リハビリテーション技術部、3) 順天堂大学医学部循環器内科、4) 日本循環器理学療法学会

DOI: 10.1016/j.lanwpc.2026.101808

本研究は、日本循環器理学療法学会およびJSPS科研費(JP25K02969)の支援を受けて実施されました。

なお、本研究にご協力いただいたJ-Proof HFレジストリ参加施設の皆様、そして患者様とご家族様に深謝いたします。

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業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
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代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
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設立
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