国の指定難病「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」の日本人集団における遺伝的背景を解明

学校法人 順天堂

難病の「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」患者を対象としたゲノム解析で、「胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)」遺伝子のバリアントが日欧の集団に共通の疾患感受性遺伝子であることが示唆されました。ヒト白血球抗原遺伝子HLA-DRB1では、日欧で共通および集団特異的な関連が見いだされました。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)は、白血球の一種である好酸球が異常に増加するとともに、さまざまな臓器中の小さい血管に炎症が起き、臓器に障害を生じる病気です。喘息(ぜんそく)や副鼻腔炎が先行して起きることが多く、国の指定難病となっています。EGPAの発症には遺伝的要因が関与すると考えられています。これまで、ヨーロッパ系集団を対象に、ゲノム全域の遺伝子バリアント(DNA配列の個人差)と疾患との関連を網羅的に調べるゲノムワイド関連研究(GWAS)により、EGPAの発症と関連する複数の遺伝子バリアントが報告されていました。しかし、東アジア系集団における遺伝的要因についてはほとんど明らかになっていませんでした。

  本研究では、日本人EGPA患者の遺伝的背景を明らかにするため、ヨーロッパ系集団でEGPAとの関連が報告された遺伝子バリアントについて、日本人集団との関連を調べました。

  その結果、気道、消化管の内側や臓器の表面などにある上皮細胞から分泌され、アレルギーなどに関わるサイトカイン「胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)」遺伝子のバリアントが、日本人集団とヨーロッパ系集団の両方でEGPAの発症と関連する可能性が示されました。

  また、免疫応答に関わるヒト白血球抗原(HLA)遺伝子の一つであるHLA-DRB1遺伝子の関連についても解析しました。この遺伝子には複数のタイプがあり、DRB1*07:01というタイプは日本人集団とヨーロッパ系集団の両方でEGPAとの関連がみられました。一方、DRB1*09:01というタイプとの関連は日本人集団でのみ認められました。

  本研究により、EGPAの発症に関わる遺伝的要因には、日本人集団とヨーロッパ系集団に共通するものと、それぞれの集団に特異的なものが存在することが明らかになりました。

■研究代表者

筑波大学医学医療系

 川﨑 綾 助教

順天堂大学大学院医学研究科膠原病・リウマチ内科学

 田村 直人 主任教授

■研究の背景

抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎注1)は、難治性の全身性血管炎であり、遺伝要因および環境要因が発症に関与すると考えられています。患者の多くでは血液中にANCAが検出されます。ANCA関連血管炎は臨床所見により三つのサブタイプに分類され、その一つが好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)です。EGPAは好酸球の増加や喘息を特徴としています。またEGPAは、ANCAの有無によりANCA陽性群と陰性群に分類されます。

これまで、ヨーロッパ系集団を対象としたゲノムワイド関連研究(GWAS)注2)により、EGPAの発症と関連する複数の遺伝子バリアント(DNA配列の個人差)が報告されています1)。さらにGWASでは、myeloperoxidase(MPO)を対応抗原とするMPO-ANCA陽性EGPAとANCA陰性EGPAとで、遺伝的背景が異なることが示されています。一方、これまで東アジア系集団を対象としたEGPAのGWAS報告はなく、東アジア系集団におけるEGPAの遺伝要因は十分に明らかになっていません。

本研究チームは、日本人EGPAの遺伝的背景を明らかにするため、ヨーロッパ系集団でEGPAとの関連が報告された遺伝子バリアントについて、日本人EGPAにおける疾患感受性との関連を調べ、ヨーロッパ系集団との共通性および差異を検討しました。

■研究内容と成果

本研究では、日本人EGPA患者103人を対象に、GWASでEGPAとの関連が報告されている7個の遺伝子バリアントを調べました。また、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子注3)の一つであるHLA-DRB1遺伝子は、DNA配列の違いにより複数のアリルに分類されることから、各HLA-DRB1アリルとEGPAとの関連についても解析しました。研究の概要は参考図に示しています。

主に上皮細胞から産生され、2型炎症注4)や好酸球の活性化に関わるTSLP注5)遺伝子のバリアントは、ANCAの有無にかかわらずEGPA全体で関連傾向が認められました。この結果は、ヨーロッパ系集団での報告と一致しており、TSLP遺伝子が集団を超えてEGPAの疾患感受性と関連する可能性を示しています。

HLA-DRB1アリルの解析では、MPO-ANCA陽性EGPAにおいて、DRB1*07:01アリル頻度およびDRB1*09:01アリル頻度の増加が認められました。DRB1*07:01とEGPAとの関連はヨーロッパ系集団でも報告されており、本研究により両集団に共通する関連であることが示されました。一方、DRB1*09:01との関連は日本人集団でのみ認められ、集団特異的な関連である可能性が示されました。

本研究チームはこれまでにDRB1*09:01がMPO-ANCA陽性血管炎の疾患感受性アリルであることを報告しています2),3)。このことから、DRB1*09:01とEGPAとの関連はEGPAに特異的なものではなく、MPO-ANCA陽性血管炎全体に共通するものである可能性が示唆されました。日本人EGPAでは、ANCA陰性EGPAと特異的に関連するバリアントは検出されませんでした。

■今後の展開
本研究により、TSLPがヨーロッパ系集団と日本人集団に共通するEGPAの疾患感受性遺伝子である可能性が示され、TSLP分子を標的とした治療薬の臨床応用が期待されます。また、集団間で遺伝的関連の差異も認められたことから、EGPAに対する分子標的薬やバイオマーカーの開発においては、遺伝的背景の集団差を考慮する必要があります。今後、日本人EGPAを対象としたGWASが進むことで、日本人集団におけるEGPAの遺伝要因のさらなる解明が期待されます。

■参考文献

1)    Lyons PA, Peters JE, Alberici F, et al. Genome-wide association study of eosinophilic granulomatosis with polyangiitis reveals genomic loci stratified by ANCA status. Nat Commun. 2019;10:5120. doi: 10.1038/s41467-019-12515-9.

2)    Tsuchiya N, Kobayashi S, Kawasaki A, et al. Genetic background of Japanese patients with antineutrophil cytoplasmic antibody-associated vasculitis: association of HLA-DRB1*0901 with microscopic polyangiitis. J Rheumatol. 2003;30:1534-1540.

3)    Kawasaki A, Hasebe N, Hidaka M, et al. Protective role of HLA-DRB1*13:02 against microscopic polyangiitis and MPO-ANCA-positive vasculitides in a Japanese population: a case-control study. PLoS One. 2016;11:e0154393. doi: 10.1371/journal.pone.0154393.

■参考図

図 本研究成果の概要図(掲載論文より改変引用)

ヨーロッパ系集団を対象としたEGPAのGWASにより関連バリアント(“GWASバリアント”)が報告された(文献1)、左下)。本研究では“GWASバリアント”の日本人集団における関連を明らかにするために、日本人EGPA患者を対象とした疾患関連研究を実施した(左上)。日本人集団の解析では、TSLPバリアントとEGPAの関連傾向、HLA-DRB1*07:01*09:01アリルとMPO-ANCA陽性EGPAの関連が検出された(右)。TSLPおよびHLA-DRB1*07:01の関連はヨーロッパ系集団と共通していた。一方、DRB1*09:01の関連は日本人集団に特異的な関連であった。この結果から、EGPA発症に関連するバリアントには、集団間で共通するものと集団特異的なものが存在することが明らかとなった。

■用語解説

注1)  ANCA関連血管炎(ANCA-associated vasculitis)

全身の小さい血管に炎症が起こり、それにより、腎臓や肺などのさまざまな臓器に障害が生じる病気のこと。患者の多くで、白血球の一種である好中球の細胞質に含まれるタンパク質に対する抗体(抗好中球細胞質抗体、anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)が陽性になる。ANCAが標的とするタンパク質には、ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase: MPO)やプロテイナーゼ3(proteinase 3: PR3)などの酵素がある。この病気は、症状などにより、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の三つのサブタイプに分けられる。

注2)  ゲノムワイド関連研究(genome-wide association study, GWAS)

ヒトゲノム全域に分布する数十万から数百万個の遺伝子バリアント(DNA配列の個人差)について、統計学的手法を用いて疾患との関連を網羅的に調べる方法のこと。

注3)  ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen, HLA)遺伝子

免疫応答に重要な役割を果たす遺伝子群であり、細胞表面にHLA分子として発現している。HLA分子は抗原ペプチドをT細胞に提示することで、免疫応答の活性化を誘導する。HLA遺伝子はDNA配列の個人差が非常に大きく、その違いによって異なるHLAアリルが生じる。これらの違いは抗原に対する免疫応答の個人差に影響し、さまざまな疾患の感受性との関連も報告されている。

注4)  2型炎症

抗原やウイルスなどの刺激を受けると、白血球の一種である2型ヘルパーT細胞や2型自然リンパ球から、インターロイキン-4(IL-4)、IL-5、IL-13といった2型サイトカインが作られる。これらのサイトカインによって好酸球などが活性化され、さまざまな組織で炎症が起こる。このような炎症を2型炎症といい、気管支喘息をはじめとするアレルギー疾患の病態と深く関連していることが知られている。

注5)  胸腺間質性リンパ球新生因子(thymic stromal lymphopoietin, TSLP)

主に上皮細胞から産生されるサイトカインで、IL-4、IL-5、IL-13などの産生を誘導し、2型炎症や好酸球の活性化に関与することが知られている。

■研究資金

本研究は、厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患政策研究事業「難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究」班 (JPVAS、研究代表者 田村直人) (JPMH20FC1044、JPMH23FC1019、JPMH26FC1018)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が助成する難治性疾患実用化研究事業・「難治性血管炎診療のエビデンス構築のための戦略的研究」(17ek0109121h0003、研究代表者 有村義宏)、「ANCA関連血管炎の新規治療薬開発を目指す戦略的シーズ探索と臨床的エビデンス構築研究」(7ek0109104h0003、研究代表者 針谷正祥)、「難治性血管炎診療のCQ解決のための多層的研究」(20ek0109360h0003、研究代表者 針谷正祥)、日本学術振興会科学研究費補助金「HLA領域シークエンスによる膠原病共通抵抗性ハプロタイプ上の原因的多型部位の解明」(JP17K09967、研究代表者 土屋尚之)、「ANCA関連血管炎発症・間質性肺炎合併関連遺伝子の包括的同定とポストGWAS研究」(JP21K08435、研究代表者 土屋尚之)、「ゲノムワイド関連研究および一細胞解析に基づくANCA関連血管炎の病因病態解明」(JP25K11700、研究代表者 土屋尚之)、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団、日本リウマチ財団、日本リウマチ学会、金原一郎記念医学医療振興財団からの研究助成金、合同会社H.U.グループ中央研究所との共同研究費を用いて実施されました。

■掲載論文

【題 名】  Genetic associations of eosinophilic granulomatosis with polyangiitis in the Japanese population: Exploring similarities and differences with European populations(日本人集団における好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の遺伝的関連:ヨーロッパ系集団との共通性と差異の検討)

【著者名】  Aya Kawasaki, Ikue Ito-Naito, Mina Sato, Yuka Kawamura, Ken-ei Sada, Kenji Itoh, Nobuyuki Ono, Fumio Hirano, Tomoaki Higuchi, Shigeto Kobayashi, Kenji Nagasaka, Takahiko Sugihara, Takashi Fujimoto, Makio Kusaoi, Yuya Kondo, Kumiko Shimoyama, Keita Yamashita, Takashi Higuchi, Hajime Kono, Noriyoshi Ogawa, Isao Matsumoto, Kunihiro Yamagata, Takayuki Sumida, Hiroshi Hashimoto, Hirofumi Makino, Yoshihiro Arimura, Masayoshi Harigai, Naoto Tamura, Naoyuki Tsuchiya.

【掲載誌】  RMD Open

【掲載日】  2026年7月10日

【DOI】     10.1136/rmdopen-2025-006644

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