CO2はパラフィンへ、COはエチレン/プロピレンへ 用途に応じて目的生成物を自在に選べる光触媒

国立大学法人千葉大学

■研究の概要:

 千葉大学大学院融合理工学府博士前期課程(当時)のルミシ タリク氏、石井 蓮音氏、博士前期課程の大弓知輝氏、阿部 一響氏、李 崇旭氏、博士後期課程(当時)の原 慶輔氏、張 宏偉氏、同大大学院理学研究院の泉 康雄教授らの研究グループは、CO2またはCOから用途に合わせて、炭素数2もしくは3の飽和炭化水素(パラフィン)、不飽和炭化水素(オレフィン)(注1)を生成する光触媒(注2)について調べました。その結果、コバルト(Co)–酸化ジルコニウム(ZrO2)光触媒に紫外可視光を照射することで、CO2から炭素数が1〜3のパラフィン(C1~3パラフィン)を生成できることが確認されました。また、一酸化炭素(CO)からは炭素数が2,3のオレフィン(C2,3オレフィン)を選択して生成することが分かりました(図1)。

 CO2からCOを選択して得るのは比較的容易なため、このCo–ZrO2光触媒を使うことで、CO2からC1~3パラフィンやエチレン/プロピレンを、用途に応じて選択的に得ることが可能になります。C1~3パラフィンは新たなカーボンニュートラルサイクルを実現するための燃料として、また、エチレン/プロピレンは持続可能社会で経済的にも有用な高付加価値物質として、カーボンニュートラルサイクルの実現に寄与することが期待されます。

 本研究成果は、2024年9月18日に、ドイツ化学会刊行のAngewandte Chemie International Edition誌にウェブ公開されました。

図1. 本研究グループによるCO2からC1~3炭化水素およびC1,2アルコール類への自在な持続可能光変換。


■研究の背景:

 光エネルギーなどの持続可能なエネルギー源を基にして、CO2を燃料や有用な化学原料に変換できれば、新たなカーボンニュートラルサイクルを形成することができます。一方で、実際に持続可能な社会で適用されるためには、生成物の価格やCO2変換のためのシステムが社会的に実装する際にコスト的に成り立つかどうかについての考慮が必要です。

 光触媒を用いてCO2を光還元して得られる生成物の価格が、C1化合物であるCOやメタン(CH4)の場合には、1キログラムあたり0.06–0.18米ドルであるのに対し、C2,3の炭化水素では、1キログラムあたり0.9–8米ドルです。そのため、CO2を還元するためのエネルギーが自然エネルギーを利用して再生可能なことに加え、光触媒、還元反応装置(設備)にかかるコストが生成物の価格を下回ることが期待され、持続可能な社会での適用がより現実味を帯びてきます。

 本研究では、半導体の性質を有し、紫外可視光照射により電荷分離(注3)が起きる酸化ジルコニウム(ZrO2)と金属状に還元したコバルト(Co)ナノ粒子とを組み合わせた光触媒でC2,3の炭化水素を生成することが見出されたため、その選択生成のための光反応条件を詳細に検討しました。


■研究の成果:

 まず、Co–ZrO2光触媒を用いてCO2光還元反応試験を行ったところ、メタンだけでなく、副生成物としてエタン(C2H6)およびプロパン(C3H8)が得られました(図2)。本研究では光反応経路を検証するために、通常のCO2の炭素原子を質量の異なる13Cに置き換える「同位体標識」をした13CO2を反応物として用いました。反応中にどのように炭素が移動し、どの化合物に変わるかを質量分析で追跡したところ、13C-エタンおよび13C-プロパンが生成することを確認しました。

 次に、同位体標識された13COを用いた光還元の反応試験を実施したところ、反応試験開始から4時間まで13C-エチレン(13C2H4)が選択して得られることが分かりました。この結果を踏まえ、13CO光還元反応試験と真空処理および13CO暴露とを繰り返す試験を行なったところ、13C-エチレンおよび13C-プロピレン(13C3H6)が各サイクルで主生成物(57–61 mol%)となり、13C-メタンが副生成物として生成しました(図3)。

 本研究グループは、すでにAg–ZrO2光触媒によりCO2をCOに選択還元することを報告しており(図1)(参考文献1)、また他の研究室の光触媒でもCO選択生成は容易です(参考文献2,3)。以上より、本研究により、CO2からC1~3パラフィン、およびエチレン/プロピレンを用途に応じて選択して得ることを示すことができました。

図2. 13CO2 (0.023気圧)およびH2 (0.21気圧)雰囲気下、550℃で還元したCo (7.5質量%)–ZrO2 (0.020グラム)光触媒に光照射したときの13CH4, 12CH4, 13CO, 13C2H6, 13C3H8生成の経時変化。

図3. 700℃で還元したCo (7.5質量%)–ZrO2 (0.020グラム)光触媒に13CO (0.023気圧)およびH2 (0.023気圧)雰囲気下で光照射(図中黄色の区間)の後、真空処理および13CO (0.023気圧)暴露するサイクルを4回繰り返しながら光照射したときの13CH4, 13C2H4, 13C3H6生成の経時変化。

■今後の展望:

 安価なメタン(CH4)に対して、エタン(C2H6), プロパン(C3H8)はより高価な燃料であり、さらに、エチレン(C2H4)およびプロパン(C3H6)は基幹化学原料であることは、今後何十年後の人類活動においても揺るがないでしょう。持続可能社会での本システムの実装にはCO2からのメタノール、エタノール、酢酸の光選択合成も魅力的で、水中での合成の研究を進めています。

■用語解説:

(注1)C1~3炭化水素:炭化水素は化学式CnH2n+2(nは1以上の整数)で表されるパラフィンと、化学式CnH2n(nは2以上の整数)で表されるオレフィンとに分類される。n = 1~3のパラフィンは順にメタン、エタン、プロパンであり、n=2,3のオレフィンが順にエチレン、プロピレンである。nの値に対し、「Cn炭化水素」と称する。

(注2)光触媒:光を照射することにより触媒作用を示す物質。本研究では、CO2を還元する反応に粉末状の光触媒を用いている。光触媒を基板上に塗布し、電極化したものを光触媒電極と言い、光電極とも呼ばれる。

(注3)電荷分離:光由来で光触媒(半導体)内部に生じた電子とホール(正電荷)が空間的に分離された状態。


■研究プロジェクトについて:

 本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究B「不飽和半導体-金属ナノ粒子光触媒によるCO2から各種C2,3生成物への自在で精密な制御」(24K01522)および基盤研究B「合金ナノ粒子–超薄層半導体複合表面でのCO2光多電子還元と同位体標識種時分割追跡」(20H02834)の支援を受けて行われました。


■論文情報

タイトル:Exchange of CO2 with CO as Reactant Switches Selectivity in Photoreduction on Co–ZrO2 from C1–3 Paraffin to Small Olefins

著者:Tarik Loumissi, Rento Ishii, Keisuke Hara, Tomoki Oyumi, Ikki Abe, Chongxu Li, Hongwei Zhang, Rumiko Hirayama, Kaori Niki, Takaomi Itoi, and Yasuo Izumi

雑誌名:Angenwandte Chemie International Edition

DOI:10.1002/anie.202412090


■参考文献:

(1)タイトル:Dual Photocatalytic Roles of Light: Charge Separation at the Band Gap and Heat via Localized Surface Plasmon Resonance to Convert CO2 into CO over Silver–Zirconium Oxide

DOI:10.1021/jacs.8b13894

(2)タイトル:Recent Advances in the Photocatalytic Conversion of Carbon Dioxide to Fuels with Water and/or Hydrogen Using Solar Energy and Beyond

DOI:10.1016/j.ccr.2012.04.018
(3)タイトル:Recent Advances (2012–2015) in the Photocatalytic Conversion of Carbon Dioxide to Fuels Using Solar Energy: Feasibilty for a New Energy

DOI:10.1021/bk-2015-1194.ch001

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2004年04月