博報堂生活綜研・上海、「生活者“動”察 2024」研究成果を発表
中国生活者の消費行動の新兆候「自築消費」。消費を通じて自分らしさを確認、再構築し、自己肯定感を高める
博報堂生活綜研・上海は、中国伝媒大学広告学院との共同研究「生活者“動”察」を行い、12回目となる研究発表会を中国・上海市にて開催しました。
今年のテーマは、「コスパ重視、ダウングレードだけではない、中国生活者の消費行動の新兆候」です。
2024年の中国の社会キーワードは「消費降級(消費ダウングレード)」でした。先行きが不透明な経済環境の中で、生活者はあらゆるカテゴリーでコスパ重視の消費行動をとっています。安さと一定の品質を両立する商品やサービスが増加し、ディスカウントストアも巷に溢れ、企業間の値引き競争も激化。中国生活者が「消費ダウングレード」を実践しやすい条件は揃い、低価格商品の買い物を楽しむ生活者も増えています。
しかし、QRコード決済アプリの利用データを分析してみると、支出金額が増えている人と減っている人がほぼ同数であったり、消費を増やしている人が減らしている人を上回るカテゴリーもあったりと、必ずしも節約一辺倒ではない様子が見られます。そこで私たちは、コスパ重視、消費ダウングレードという大潮流の陰で見えにくくなっているものの、確実に生まれている中国生活者の新たな消費行動に着目しました。
研究から見えてきたのは、「自分の実力/自分らしさを再確認するための消費」や、節約ムードの中でも「複合的に理由を用意して、初志貫徹で買いたいものを買う消費」、「贈り物や誰かを支えるためのモノを買い、他者の役に立つ自分を見出そうとする消費」といった新たな消費行動でした。
このように「消費を通じて自分らしさを確認、再構築し、自己肯定感を高めていく」消費行動を、私たちは「自築(中国語:自筑 Zizhu)消費」と名付けました。
1月15日に開催された「生活者“動”察2024」では、消費ダウングレードというムードが広がる中で、生活者がとり始めている新たな消費行動や、芽生えてきている新たな消費意識をデータや具体的な事例を交えながら紹介しました。また「自築消費」が顕在化していく中、求められるであろう新たなマーケティング活動についても提言いたしました。
本発表のレポート(日本語・中国語)をご希望の方は、博報堂生活綜研・上海<sei-katsu-sha.info@hakuhodo-shzy.cn>までお問い合わせください。
<参考データ>
①【消費意欲と実態】
支出金額が増加した生活者と減少した生活者の数はほぼ同数。
支出が増加しているカテゴリーも。
・生活者の消費意欲は100点満点中67.3点と、5年前(2019年)の調査の74.0点から低下しており、消費ダウングレード、節約志向、コスパ重視といった大きな潮流を反映しています。(※消費意欲の点数は、2019年実施調査の対象者に合わせ、1級都市在住者ベースで比較)・一方で、生活者400名のQRコード決済アプリの利用データを分析したところ、2023年と比較して支出金額が増加した人と減少した人はほぼ同数になりました(データ1)。
・また、保険、飲食旅行、文化・レジャー、電子機器、住宅、医療カテゴリーは、平均支出金額が2023年比で増加しています(データ2)。
<データ1> 支出金額の増減 2023年/2024年比較
<データ2> カテゴリー別平均支出金額 2023年/2024年比較
②【消費ダウングレードのムードと消費行動への影響】
現在の消費ダウングレードのムードは過剰と感じている生活者は過半数に。
安価な商品ばかり選んでいくことに不安を感じる人も4割超。
・安価で安定した品質のものが入手できるようになった現状を歓迎する一方、昨今の消費ダウングレードのムードをメディアやKOL(Key Opinion Leader)が煽りすぎていると感じている人は過半数に(データ4)。
・消費ダウングレードというムードが自身の消費行動にも影響を及ぼしていると回答した人も4割を超えました(データ5)。
・また、節約したり、安価な商品を選択し続けたりすることで、生活の質が落ち、自信も失っていくのではないかといった不安を感じている人も4割を上回っています(データ6)。
<データ4> 消費ダウングレードのムードに対するメディアやKOLの影響
<データ5> 消費ダウングレードのムードが消費行動に与える影響
<データ6> 低価格商品を購入し続けることに対する不安
③【新たな消費欲求の特徴】
●自分の実力/自分らしさを再確認したい
●複合的に理由をつくり初志貫徹したい
●誰かの役に立てる自分を見出したい
●自分にがっかりしない状態をキープしたい
・消費ダウングレードのムードが高まりすぎ、不安や違和感を覚える生活者が増える中、時々は自分本来の経済力に見合ったやや高価なものを買ったり、自分のセンスを再確認できるようなことに支出したりするという動きが出てきています。
・先行きの不透明感からまとまった支出は躊躇するものの諦めきれない時、合理的な支出の理由をつくるという人や、コロナ禍を経て人とのつながりの大切さをあらためて実感し、ギフトを送ったり、誰かを支えるための消費を行ったりする人もみられます。
・また、買い物に失敗してがっかりすることがないように、信頼するKOLや定評のあるお店でのみ買い物をする人や、AIや性格診断の結果をもとに商品を選択する人など、情報収集や判断を自分以外の何かに委ねるという行動も出てきています。
■中国生活者の消費欲求の特徴と行動
【中国生活者の新たな消費行動】
消費を通じて自分らしさを確認、再構築し、自己肯定感を高めていく「自築(中国語:自筑 Zizhu)消費」
「自分の実力/自分らしさを再確認」、「複合的に理由をつくり初志貫徹」、「誰かの役に立てる自分を見出す」、そして「自分にがっかりしない状態をキープ」。これらの欲求の背景には、消費ダウングレードのムード流され続けることへの不安を払拭したり、判断ミスをして自責の念にかかれることを回避したいという意識があると思われます。
経済力やセンスを持ち、やりたいことができ、時に誰かの役にも立てる。そしてハズレを引かず、上手に消費を楽しめる。そんな自分を消費を通じて自ら築き、自己肯定感を高めていきたい、という生活者の欲求が芽生えています。周囲との差を埋めたり、他者からの評価を得るための消費ではなく、消費ダウングレードのムードに流されず自分らしさを築いていくことを大切にする。私たちはこのような中国生活者の新たな消費行動を「自築消費」と名付けました。
節約志向・コスパ志向という大きな潮流だけではなく、この「自築消費」という新たな消費行動に着目することも、これからのマーケティングの突破口を見つける一助になるのではないかと博報堂生活綜研・上海は考えます。
【本研究にあたり実施した調査の概要】
■ライフスタイル/消費行動変化調査(3000名)
対象者条件:1-4級都市在住、20―59歳の男女
調査手法:インターネット調査
調査時期:2024年11月
調査機関:ZhongYan Technology
■実消費支出記録調査(400名)
対象者条件:1-4級都市在住、20―50歳の男女
調査手法:対象者の許可を取得し、QRコード決済アプリの支払い記録を画像認識AIで分析、同対象者にアンケート調査も実施
調査時期:2024年11月
調査機関:ZhongYan Technology
■消費行動と意識の日記調査(300名)
対象者条件:1-4級都市在住、20―55歳の男女
調査手法:日記調査(スマホ音声入力またはスマホ手入力式)
調査時期:2024年7月
調査機関:零点有数 Dataway
■新消費行動/意識生活者インタビュー調査(30名)
対象者条件:1-4級都市在住、20―55歳の男女
調査手法:1対1のデプスインタビューおよび関連写真を提供頂いての分析
調査時期:2024年9-11月
調査機関:零点有数 Dataway
【博報堂生活綜研・上海(Hakuhodo Institute of Life and Living Shanghai)】
博報堂生活綜研・上海は、株式会社博報堂の独資子会社として2012 年に上海に設立された、中国の博報堂グループのシンクタンクです。日本で蓄積してきた生活者研究のノウハウを生かし、中国における企業のマーケティング活動をサポートしていくと同時に、これからの中国の新しい暮らしのあり方を、中国現地で洞察・提言する活動を行っています。
<主な業務内容>
・生活者の本質的な欲求を洞察し、新しい暮らしのあり方を提言する「生活者“動”察」
・自動車、化粧品など特定カテゴリーや若者、富裕層など特定の生活者を分析する「特定テーマ研究」
・生活者発想を基盤とした企業のマーケティング活動に対する「コンサルティング、提言」
「生活者”動“察」は博報堂生活綜研・上海と中国伝媒大学広告学院との共同研究です。毎年1回の「生活者“動”察」研究発表会では、中国の生活者の行動と欲求の変化を分析し、独自のキーワードを提言します。今回の「自築消費」は、2023年の「軽啓(Qingqi)」に続く12回目の研究成果となります。
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