賃金のデジタル払い、約9割が「導入予定なし」業務負担増やセキュリティリスクへの不安が理由
企業の「賃金のデジタル払い」対応状況アンケート
政府は、給与の一部をデジタルマネーで受け取れる「賃金のデジタル払い」を2023年4月に解禁し、2024年8月に取り扱い事業者として初めてキャッシュレス決済サービスの「PayPay」の運営会社が厚生労働省から指定を受けた。同年9月25日、通信サービス大手のソフトバンクグループ各社は国内で初めて希望する社員に対し、給与を「PayPay」で支払った。幅広い分野でキャッシュレス化が進むなかで、今後賃金のデジタル払いの動きが広がるかどうか注目されている。
そこで、帝国データバンクは、企業における賃金のデジタル払いへの対応についてアンケートを行った。
<調査結果(要旨)>
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賃金のデジタル払い、企業の約9割で「導入予定はない」。「導入に前向き」は3.9%にとどまる
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導入に前向きな理由、「振込手数料の削減」が5割超でトップ、「従業員の満足度向上」が続いた
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導入予定がない理由、「業務負担の増加」が6割超でトップ。理解の不十分さやセキュリティリスクへの不安もネックに
※アンケート期間は2024年10月4日~10日、有効回答企業数は1,479社(インターネット調査)
※調査機関:株式会社帝国データバンク
賃金のデジタル払い、企業の約9割が「導入予定はない」
自社における賃金のデジタル払いへの対応について尋ねたところ、「導入に前向き」な企業は3.9%と低水準だった一方で、「導入予定はない」は88.8%と9割近くにのぼった。なお、「言葉も知らない」は1.6%、「分からない」は5.6%だった。
企業からは、「導入を検討している。周知されれば便利だと思う」(飲食店)といった前向きなコメントも聞かれたが、「必要と感じない」(専門サービス)や「社会への浸透具合、社員からの要望、セキュリティ対策など多面的な検討が必要なため、現時点での導入については時期尚早との認識」(建設)といった、導入に消極的な声が大多数を占めた。
導入に前向きな理由、「振込手数料の削減」が5割超、次いで「従業員の満足度向上」が4割台
賃金のデジタル払いについて「導入に前向き」な企業に対し、その理由を尋ねたところ、「振込手数料の削減」が53.8%でトップとなった。次いで、「従業員の満足度向上」(42.3%)、日払いや前払いなどのしやすさなど「事務手続きの削減」(32.7%)が続いた。
企業からは、「賃金のデジタル払いができたら支払いが楽になる」(メンテナンス・警備・検査)といった声があがった。
他方、「検討しようと考えているが、小さな会社での導入は可能なのかどうかや、実際の事務作業の流れ、必要な手続き・手数料などを知りたい」(情報サービス)といったコメントも寄せられ、前向きに考えている企業においても制度・サービスに関する情報や理解が十分でない様子がうかがえた。
導入予定がない理由、「業務負担の増加」が6割超、理解の不十分さやセキュリティリスクへの不安もネックに
賃金のデジタル払いについて、「導入予定はない」企業に対し、その理由を尋ねたところ、デジタル払いと口座振込の二重運用や労使協定の改定など「業務負担の増加」が61.8%でトップとなった。次いで、「制度やサービスに対する理解が十分でない」(45.0%)、「セキュリティ上のリスクを懸念」(43.3%)が4割台で続いた。また、人事給与システムの改修などの費用を含む「コストの増加」(39.2%)も4割近くにのぼった。
企業からは、「振り込み処理が複雑になる」(機械製造)や「セキュリティが十分とは思えず、従業員も不安に思っている」(繊維・繊維製品・服飾品製造)など不安な声があがった。また、「デジタルマネーで支給したものを現金化できるかなど、知識不足な部分が多い」(パルプ・紙・紙加工品製造)のように制度・サービスに関する情報や理解が不十分であることから導入を検討しないケースも複数あった。
さらに、デジタル払いを利用する従業員が少ないことや銀行振り込みなど、従来の給与の支払い方法で不便を感じていないことにより“必要性を感じない”といったことのほか、“地域でデジタル払いができる店舗が限られる”、“従業員からの要望がない”などの意見も聞かれた。一方で、導入予定はないが、今後従業員から要望があれば検討したい、とのコメントも一定数あがった。
本アンケートの結果、賃金のデジタル払いを導入する予定がない企業は9割近くにのぼった。業務負担の増加や、制度・サービスに対する理解が十分でないこと、セキュリティ上のリスクへの懸念などが導入を妨げる要因となった。また、手間がかかる一方で必要性やメリットを感じない、そもそもデジタル払いに対応する店舗や施設が少ない、従業員から要望がないなどといった意見も聞かれた。
賃金のデジタル払いで支給された給与は現金化ができるようになっているが、企業からは“現金化ができないため不便”といったコメントがあがっていた。ほかにも、取り扱い事業者が破綻した場合は保証機関から弁済されることが決まっているものの、“何か起きた時に誰が責任をとるのか不安”といった声が聞かれるなど、情報が行き届いていない様子もうかがえた。
企業からの声をまとめると、キャッシュレス社会実現への取り組みである「賃金のデジタル払い」の普及に向けた課題は多く残っていることが分かった。利用拡大のためには、制度・サービスに関するきめ細かい情報周知のほか、セキュリティの強化とその情報共有、店舗などでのデジタル払いの導入と消費者のデジタル払いの利用を促す政策の強化が求められよう。
<企業からの声>
「導入/検討の可能性がある」
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将来的には導入せざるを得ない環境になると思う(情報サービス)
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今後導入状況の進展をみながら、費用について検討を開始する(飲食店)
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従業員(アルバイト・パートを含む)から要望があれば対応する(不動産)
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アルバイト、パートが増えた場合は検討する。また、世の中の状況をみて判断したい (建設)
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手数料が従来の支払い方法よりも大きく下がる場合は検討するかもしれない(化学品製造)
「導入・検討しない」
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会社としてまだ認識が乏しく、議論になっていない。また、支払方法の多様化により事務負担が増えるため、導入したくない(娯楽サービス)
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手続きに手間がかかりそうであり、年配者もいるため仕分けが大変である(紙類・文具・書籍卸売)
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従業員のデジタル払いに関するリテラシーについて懸念しているほか、支払後に関することまで企業側がフォローすべきかなど、運用面でまだ理解の及ばないところもある(化学品卸売)
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15人弱の会社のため、導入にともなうコストやリスクの方が大きいと考えている(広告関連)
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トラブルが発生した場合の対応が不明確である(化学品製造)
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社内アンケートを実施したが、給与のデジタル払いを希望する者はいなかった(機械・器具卸売)
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地方ではデジタル払いができない店舗も多いため逆に不便になりそう(農・林・水産)
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いまだに現金を持ち帰りたいという社員がいる(建材・家具、窯業・土石製品卸売)
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現状の支給方法で十分かつ銀行とのお付き合いがあるため、変更は得策ではない(不動産)
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