サービス付き高齢者向け住宅への入居は高齢者の身体的健康状態や幸福感の向上につながる可能性~傾向スコアマッチング手法による地域在住高齢者との比較研究

国立大学法人千葉大学

 千葉大学予防医学センターの王鶴群特任研究員、河口謙二郎特任助教、LINGLING特任研究員、井手一茂特任助教、中込敦士准教授、近藤克則特任教授の研究グループは、「サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)」に住む高齢者の健康感や幸福感について、年齢や所得、治療中の疾患など12項目の背景要因が似ている「地域で暮らす高齢者(以下、地域在住高齢者)」と比較する調査研究を実施しました。また、健康感や幸福感に影響する可能性のある社会的行動や社会的要因についても比較しました。

 その結果、サ高住に住む高齢者は地域在住高齢者と比べて、幸福感や生活満足度、身体的な健康状態が良いことが分かりました。また、サ高住の入居者は、外出や体操教室などの介護予防活動、友人と会うこと、他の人と一緒に食事をとることに積極的に参加していることが明らかになりました。さらに、よく笑い、心の支えとなる情緒的サポートを受けていることも確認されました(図1)。これらの結果は、サ高住への入居が高齢者の身体的健康状態・幸福感の維持・向上につながる可能性を示唆しています。

 本研究の成果は、2025年6月23日に国際雑誌Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiologyの特集号にて公開されました。

図1 サ高住入居者と地域在住高齢者の比較 ※図中「*p<0.00X」は、「この結果は偶然ではなく、はっきりとした違いがあると考えられる」ということを示す。

■研究の背景

 高齢化率の高い日本では、高齢者が安心して暮らせる住まいへのニーズが年々高まっています。サ高住は、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」の改正により供給されるようになった住宅で、その数は年々増加しています。バリアフリーな住環境に加え、安否確認や生活相談などのサービスを提供することで、入居者が自立した生活を送りながら、安心して暮らすことができるよう支援しています(参考文献1)。

 これまでに行われたサ高住も含む高齢者住宅に関する研究では、地域在住高齢者に比べて、入居者は主観的な健康状態が良いことや(参考文献2)、社会参加が多い(参考文献3)ことが報告されている一方で、これらの高齢者住宅への転居は精神的な健康や身体能力に悪影響を及ぼす可能性も示唆されています(参考文献4)。このように、高齢者住宅が健康状態や幸福感に及ぼす影響については、年齢や所得などの背景要因が地域在住高齢者とは異なっていることから、はっきりしない面も多く、さらなる検証が必要とされていました。特に、サ高住の入居者と地域在住高齢者の健康状態や幸福感を直接比較し、社会的・環境的要因の影響まで十分に検討した報告はありませんでした。そこで本研究では、サ高住の入居者と地域在住高齢者のデータを用いて比較分析を行いました。

 サ高住にはさまざまなタイプがありますが、本研究で対象としたサ高住では、バリアフリーの住まいや見守り・相談に加え、栄養バランスの取れた食事を提供する共用食堂や、地域活動への参加を支援するコンシェルジュによる情報提供、専門職による体操教室の実施など、入居者が安心して元気に暮らせる環境が整えられています。

■研究の成果

 傾向スコアマッチング(注1)手法を用い、JAGESデータ(注2)から、サ高住入居者と、サ高住入居者と似た12項目の背景要因を持つ地域在住高齢者を1:7の割合で抽出しました。用いた要因は、性別、年齢、教育歴、手段的日常生活動作、等価所得、資産、就労状況、独居状態、BMI、治療中の疾患の有無、主観的健康感、要介護度の12項目です。

 最終的に、サ高住群の1,080人(平均年齢83.9歳、女性69.4%)と地域在住高齢者群の7,560人(平均年齢 84.1 歳、女性 67.8%)に健康感や生活に関するアンケート調査を行い健康感・幸福感および社会的行動・社会的要因を比較しました

健康感・幸福感については、以下の9項目(図2)について、各項目を0〜10点で評価し(10点が最も良好な状態、0点が最も不良な状態)、その平均得点をサ高住群と地域在住高齢者群で比較しました。

 社会的行動・社会的要因については、以下の8項目(図2)の割合(うつ状態(注3)は平均点数)を両群で比較しました。

図2 サ高住群と地域在住高齢者群で比較した項目

 その結果、健康感・幸福感に関する比較では、地域在住高齢者に比べて、サ高住の入居者は幸福感、生活満足度、身体的健康状態が良好であることが確認されました。一方で、精神的健康状態、人生の価値や目的、社会関係などの項目に関しては、両群間に明確な違いは認められませんでした。社会的行動・社会的要因に関する比較では、地域在住高齢者と比べて、サ高住の入居者の外出、介護予防活動、友人と会う、他者と一緒に食事をとるといった活動への参加頻度が高く、よく笑い、心の支えとなる情緒的サポートを受けていることも明らかになりました(図1)。

■今後の展望

 今回の研究により、サ高住に住むことが高齢者の健康感や幸福感につながる可能性を示す知見が得られました。これらの知見は、超高齢社会において高齢者の健康感と幸福感の維持・向上を目指した住宅モデルの今後の開発や、政策立案への貢献が期待されます。

 しかし一方で、本研究は一時点のデータによる比較であるため、因果関係の解釈には注意が必要です。今後は、継続的な追跡調査による検証を行ってまいります。

■用語解説

注1)傾向スコアマッチング:各高齢者がサ高住に入居する確率(「傾向スコア」)を、統計的手法を用いて算出し、サ高住入居者と地域在住高齢者の中から傾向スコアが近い者同士をペアにして比較する方法。傾向スコアが近い人同士は、こうした背景が類似しているとみなすことができる。「サ高住に入居しているかどうか」という点以外の条件をそろえたうえで比較ができ、サ高住の入居者と地域在住高齢者の健康感や幸福感の違いを、より正確に比較することができる。

注2)日本老年学的評価研究(JAGES)データ:日本の延べ約200市町村に住む延べ約100万人を対象とした全国規模の高齢者調査研究。

注3)うつ状態:うつ状態の評価尺度として、老年期うつ病評価尺度(Geriatric Depression Scale: GDS、0〜15点)を用いた。点数が高いほどうつ状態が重いことを示す。

■研究プロジェクトについて

 本研究は千葉大学予防医学センターと積水ハウス不動産シャーメゾンPM東京株式会社との共同研究「シニア向け住宅における高齢者のWell-beingに寄与する要因の探索」に基づき実施したものです。

 

■論文情報

タイトル:Health and well-being comparison between residents of serviced housing for older people and community-dwelling older adults in japan: a propensity score matching analysis

著者:Hequn Wang, Kenjiro Kawaguchi, Ling Ling, Kazushige Ide, Atsushi Nakagomi, Katsunori Kondo

雑誌:Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology

DOI:10.1007/s00127-025-02947-8

■参考文献1

タイトル:Current topics in residences for elderly people with services in Japan

雑誌:Journal of National Institute of Public Health

URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jniph/70/1/70_45/_pdf

■参考文献2

タイトル:Health and medical services use: a matched case comparison between CCRC residents and National health and retirement study samples

雑誌:Journal of Gerontological Social Work DOI:10.1080/01634372.2011.595476

■参考文献3

タイトル:Social participation among residents of serviced housing for older people versus community-dwelling older people in japan: a propensity score matching analysis

雑誌:The Journal of Public Health DOI:10.1007/s10389-024-02253-8

■参考文献4

タイトル:Self-Reported wellbeing among the elderly in the first year after relocation to senior housing

雑誌:Journal of Aging and Environment DOI:10.1080/26892618.2023.2210129

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会社概要

国立大学法人千葉大学

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業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月