互助共助コミュニティ型資源回収ステーションの利用で高齢者の要介護リスクが約15%低下
千葉大学予防医学センターの阿部紀之特任研究員、井手一茂特任助教、河口謙二郎特任助教、熊澤大輔プロジェクト研究員、近藤克則特任教授らの研究チームは、新たな介護予防の取り組みとして注目すべき、互助共助コミュニティ型資源回収ステーション(以下、コミュニティ拠点)(注1)の利用と、高齢者の要介護リスクとの関連を検証したところ、コミュニティ拠点利用者は非利用者に比べ、要支援・要介護リスクが約15%低い(参考文献1)ことが明らかになりました。さらに、外出機会・人との交流・地域活動への参加機会が増加していました。コミュニティ拠点は単なる資源回収ステーションではなく、「日常生活に根差した交流の場」としての役割を果たしていることを示した本研究は、今後地域包括ケアの推進と介護予防施策の充実に貢献することが期待されます。
本研究成果は2025年10月15日(現地時間)に国際学術誌 PLOS ONE に掲載されました。

■研究の背景
日本は世界で最も高齢化率が高く、要介護状態の予防は喫緊の課題です。従来から「通いの場」や「地域サロン」などの介護予防の取り組みが進められていますが、参加者が女性や健康への関心が高い高齢者に偏るなどの課題がありました。
そこで本研究では、誰もが行う機会のある日常の行動である、「ごみ出し」に着目しました。コミュニティ拠点は、資源ごみの分別回収を目的とした拠点でありながら、ベンチでの交流、野菜販売やイベント、地域ボランティア活動などを組み合わせることで、高齢者が自然に集い、交流できる仕組みを提供しています。こうした「日常生活に社会参加を組み込む仕掛け」が、介護予防に有効かどうかを科学的に検証することが本研究の目的でした。

■研究の成果
本研究は、奈良県生駒市の1地区および福岡県大刀洗町の2地区に居住する65歳以上の高齢者973人(生駒市A地区321人/大刀洗町本郷地区357人、大堰地区295人)を対象に、自記式郵送調査を実施しました。調査は、コミュニティ拠点導入前と1年後の2回行いました。主要な評価項目として、「要支援・要介護リスク評価尺度(注2)により算出された点数(以下、要介護リスク点数)」を用いました。これは、将来的に要介護認定を受ける可能性を予測する尺度(48点満点)で、性別や年齢に加え、生活状況に関する計12項目で構成されます。点数が高いほど、3年以内に要支援・要介護認定を受けるリスクが高いことが確認されています(参考文献1)。
分析にあたっては、年齢、性別、教育歴、経済状況、就労状況、居住形態、日常生活動作自立度、社会参加状況などの影響を統計学的に調整し、多変量混合効果モデル(注3)を用いました。さらに、コミュニティ拠点の利用者と非利用者との間で、その後の外出機会や人との交流、地域活動参加機会の変化も比較検討しました。
調査の結果、全体の約2割にあたる187名(19.2%)がコミュニティ拠点を利用していると回答しました。利用者の属性をみると、女性は52.9%で非利用者群(57.8%)よりもやや少なく、男性の参加も比較的多い傾向がありました。1年後の追跡調査によって、コミュニティ拠点利用者は非利用者に比べて要介護リスク点数が平均で1.2ポイント低下していました。これは、将来的な要介護認定リスクが約15%低下したと推定されます(参考文献1)。
また、利用者は非利用者に比べて外出機会や人との交流、地域活動への参加が増えていました。具体的には、外出機会が増えたと答えた人は利用者で43.9%、非利用者で27.6%、人との交流機会が増えたと答えた人は利用者で43.0%、非利用者で22.7%でした。さらに、地域活動への参加も利用者で33.7%、非利用者で17.2%と大きな差が認められました。
これらの結果から、資源回収という日常的な行動の導線にコミュニティ拠点を設置することで、自然な交流や社会参加が生まれ、その結果、高齢者の健康維持と介護予防に寄与する可能性が明らかになりました。
■今後の展望
本研究は、資源回収という習慣を基盤にした社会参加の場が高齢者の外出や交流を促進し、介護予防に結びつく可能性を初めて明らかにしました。
今後は、より長期的な追跡により、実際の要介護認定や医療・介護費抑制との関連を検証することが必要です。また、文化的背景の異なる地域でも応用可能かどうか、国際的な展開も期待されます。
■用語解説
注1) 互助共助コミュニティ型資源回収ステーション:アミタホールディングス株式会社が展開する資源ごみ回収拠点。日常的な「資源(ごみ)出し」という行動を起点に、「互助共助」と「資源循環」を同時に促進するコミュニティ拠点。
注2) 要支援・要介護リスク評価尺度:日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study: JAGES)の大規模高齢者コホートデータに基づいて開発された予測指標。12項目(買い物や食事準備などの手段的日常生活動作〈IADL〉、歩行能力、栄養状態、外出頻度、年齢、性別など)を組み合わせて点数化し、将来的に要介護認定を受けるリスクを予測する。点数が高いほどリスクが高くなる。
注3) 多変量混合効果モデル:個人レベルの要因(年齢、性別、生活習慣など)と地域レベルの要因(地域ごとの政策や環境など)の両方を同時に考慮し、統計的に分析する方法。本研究では、地域ごとに異なる特徴を考慮しながら、利用の有無と要介護リスクとの関連を解析するために用いた。
■研究プロジェクトについて
本研究は、アミタホールディングス株式会社からの共同研究費、国立研究開発法人科学技術振興機構(OPERA: JPMJOP1831)からの研究助成を受け実施しました。
■論文情報
タイトル:Association between Community-Based Resource Collection Site Use and Functional Disability Risk Among Older Adults: A Quasi-experimental Study.
著者:Noriyuki Abe, Kazushige Ide, Kenjiro Kawaguchi, Daisuke Kumazawa, Katsunori Kondo
雑誌:PLOS ONE
DOI:10.1371/journal.pone.0332327
■参考文献1
タイトル:Development of a risk assessment scale predicting incident functional disability among older people: Japan Gerontological Evaluation Study.
雑誌:Geriatrics & Gerontology International
DOI:10.1111/ggi.13503
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