発電できる有機EL素子の開発に成功~自立駆動型ディスプレイなど次世代の統合型アプリケーションへの道を拓く

国立大学法人千葉大学

■研究の概要

 千葉大学先進科学センターの深川弘彦 特任教授、NHK放送技術研究所、京都大学大学院理学研究科の畠山琢次 教授ら共同研究チームは、一つの素子で「発光」と「太陽光発電」の機能を併せ持つ「発電できる有機EL素子(注1)」の開発に成功しました。これまで、有機半導体(注2)を用いたデバイスにおいて、発光と発電は逆過程であるため、これらを高い次元で両立することは困難とされていました。本研究では、高い発光効率と強い光吸収を併せ持つMR-TADF材料(注3)を用い、素子内部のエネルギーを精密に制御することで、発光・発電効率のトレードオフを克服しました(図1)。さらに、青色から赤色、白色までの全可視光領域での動作を実現しました。この成果により、ディスプレイの消費電力削減や、外部電源を必要としないセンサー・情報セキュリティデバイスなどへの応用が期待されます。

 本研究成果は、2026年1月20日に、国際学術誌Nature Communicationsで公開されました。

図1:MR-TADF材料の例と多機能素子の模式図。ドナーとアクセプターとの界面で生成される励起子のエネルギーや挙動を制御し、高性能化につなげた。

                      

                

■研究の背景
 有機半導体は、薄く、軽く、柔軟であるという優れた特性に加え、多彩な光機能を持つため、次世代の電子デバイスとして活発に研究されています。実際に、高い発光効率を活かした「有機EL(OLED)」はスマートフォンなどのディスプレイとして広く普及し、一方で高い吸光度を活かした「有機薄膜太陽電池(OPV)」の開発も進められています。 しかし、これら「発光」と「発電」という二つの機能を一つのデバイスに統合しようとすると、深刻な効率低下の問題に直面してきました。 これまでの研究では、光吸収に優れた「ルブレン」が光吸収・発光材料に用いられていました。この場合、電力変換効率(PCEPV、発電効率)は最大約3%が得られますが、EL発光の外部量子効率(EQEEL)はわずか0.001%以下でした(図2:黒△)(参考文献1)。ルブレンを用いた素子ではEQEELの抜本的な向上が困難であるため、ルブレン不使用の素子も報告されていますがPCEPV/EQEELはともに1%程度が最大でした(図2:黒〇)(参考文献2)。また、これまでは動作する色が橙色などの長波長領域に限られており、フルカラー化が困難である点も応用への大きな障壁となっていました。

 これに対して本研究チームは、高い発光効率と強い光吸収特性を兼ね備えた「MR-TADF材料」を用いて、これまでの限界を突破する新しい多機能素子の開発に成功しました。

図2:多機能素子における発光効率と発電効率の関係。既報告の多機能素子では、効率の両立が難しく発光色も橙色に限定されていたが、本研究の素子は右上の領域に位置し、発光と発電を高次元で両立できた。

■研究の成果
 
本研究では、MR-TADF材料を発電における電子供給材料(ドナー)に用い、MR-TADF材料と電子受容材料(アクセプター)の界面における電荷や励起子(注4)の挙動を精密に制御することで、高いEQEELとPCEPVの両立に成功しました。今回開発した素子は、発光と発電のトレードオフを克服し世界最高値を同時に達成するとともに、様々な発光色を示す多機能素子が実現できることを実証しました(図2:色付きシンボル)。具体的には、以下の2つの成果が得られました。

 1)   極めて小さなエネルギーロスでの発電と、発光色の自在な制御

 本研究の鍵となったのは、MR-TADF材料とアクセプターの界面で形成される電荷移動(CT)励起子(注5)の精密な制御です。一般に有機半導体デバイスでは、プラスとマイナスの電荷(正孔・電子)が強く引き合う力(励起子束縛エネルギー:Eb)が大きいため、電荷を分離させて電気を取り出す際に大きなエネルギーロスが生じることが課題でした。本研究では、MR-TADF材料を用いることで、このCT励起子のEbが0.01 eVから0.4 eVという、従来の有機材料系(約0.3から 0.6 eV)に比べて小さな値となることを明らかにしました。特に、Ebが小さい素子では、発電時の電圧損失が極小化され、理想的な発電動作が可能になります。さらに、このEbの大きさが発光色を決定づける重要な因子であることも解明しました。具体的には、Ebが大きい分子の組み合わせでは、CT励起子に由来する長波長発光(黄色)が得られ、逆にEbが小さい組み合わせではMR-TADF材料(ドナー)からの短波長発光(青色)が得られます(図3)。この性質を利用してEbを精密に制御することで、青色から赤色、白色に至る全可視光領域での動作(フルカラー動作)を実現しました。

図3:アクセプター分子の種類による素子特性の変化。ドナーとアクセプターの組み合わせによりEbが変化し、それに応じて発光色も変化する。Ebが小さい素子ではドナー(MR-TADF材料)由来の短波長発光が、Ebが大きい素子ではCT励起子由来の長波長発光が得られる。

2)   高い発光・発電効率の両立

 緑色および橙色の発光発電素子において、8.5%を超えるEQEELと約0.5%のPCEPVを同時に達成しました。緑色発光材料の発光効率(44%)と光が素子の外に出る割合(約20%)を考慮すると、8.5%という数値は、電気的なロスがほぼゼロで、理論上の限界値に近い性能を引き出せていることを示しています。また、実現が困難とされていた青色発光の多機能素子においても、約2%のEQEELと1%を超えるPCEPVを実現しました。青色発光する多機能素子の実現は世界初の成果です。

■今後の展望

 本研究により、一つの素子で高効率な発光と発電が可能であることが実証されました。特に、これまで実現されていなかった短波長(青や緑)領域での動作や、白色発光が可能になったことは、実用化に向けた大きな前進です。 本技術の応用例として、室内の光や画面の光を再利用してバッテリー消費を抑える「省エネディスプレイ」や、照明として機能しながら光信号を受信できる「可視光通信デバイス」、さらには外部電源なしで特定の光に反応する「自立駆動型光センサー」や「情報セキュリティ端末」などが考えられます。 今後は、さらなる高効率化と耐久性の向上を進め、従来の単機能デバイスでは不可能だった新しい電子機器の創出やアプリケーションの開拓を目指します。

 

■用語解説

注1)有機EL素子:薄くて柔軟な有機半導体を使い、電流で発光するディスプレイ技術。バックライト不要で自己発光し、高い色再現性と反応速度がある。主にディスプレイに利用され、薄型で鮮やかな表示が可能。

注2)有機半導体:電気が流れる有機物。1940 年代に発見され、1997年に有機半導体を使った初の有機 EL 素子が実用化し、高性能ディスプレイとして普及している。今後、さらに発展が期待される次世代半導体。

注3)MR-TADF材料:多重共鳴(MR)構造により、濁りの少ない純度の高い光、特に青色を効率よく発光できる新型の有機発光材料。熱活性化遅延蛍光(TADF)材料により、本来は発光に寄与できない状態のエネルギーを熱で再利用し、高い発光効率を実現。分子の骨格が剛直で色純度が高い発光を示すため、次世代の発光材料として注目されている。

注4)励起子:電子と正孔がクーロン引力(電荷同士が互いに引き合う力)で結びついた準粒子。電子は負の電荷をもつ素粒子で、電子の流れが電流である。半導体では、電子の抜けた穴を正孔と呼び、正の電荷をもつ粒子として扱う。半導体デバイスは、電子と正孔が動くことで動作する。

注5)電荷移動(CT)励起子:ドナーとアクセプターの界面に形成される励起子の一種。通常の励起子が単一の分子内に存在するのに対し、CT励起子は電子と正孔が隣り合う分子上に分かれて存在するのが特徴。

 

■研究プロジェクトについて

本研究の一部は以下の事業・研究課題の支援を受けて行われました。

 • 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 研究スタート支援「低い仕事関数と高い化学的安定性を併せ持つ電極の学理構築」(24K23071)

 • 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) CREST「含BNナノカーボン分子の自在合成と配向制御」(JPMJCR22B3)

■論文情報

タイトル:A pathway to coexistence of electroluminescence and photovoltaic conversion in organic devices

著者:Taku Oono, Yusuke Aoki, Tsubasa Sasaki, Haruto Shoji, Takuya Okada, Takahisa Shimizu, Takuji Hatakeyama, Hirohiko Fukagawa

雑誌名:Nature Communications

DOI:10.1038/s41467-025-67332-0

 

■参考文献1)

タイトル:Higher order effects in organic LEDs with sub-bandgap turn-on

雑誌名:Nature Communications

DOI:10.1038/s41467-018-08075-z

 

■参考文献2)

タイトル:Emissive and charge-generating donor–acceptor interfaces for organic optoelectronics with low voltage losses

雑誌名:Nature Materials

DOI:10.1038/s41563-019-0324-5

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横手 幸太郎
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未上場
資本金
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設立
2004年04月