接着する際に「界面に集まるアミン」の謎を解明~強い接着のカギは酸塩基相互作用にあった~

国立大学法人千葉大学

 千葉大学大学院工学研究院の宮前孝行教授と大学院融合理工学府博士前期課程2年の小堀薫平氏、名古屋工業大学物理工学類の尾形修司教授、神戸製鋼所の山本慎太郎氏、高橋佑輔博士らの研究チームは、アルミニウムと樹脂の接着性を改善する機能膜として用いられるシランカップリング剤による表面処理について、新たな接着の仕組みを明らかにしました。

 研究ではシランカップリング剤で処理した材料表面に存在する水酸基と、エポキシ接着剤に含まれるアミン系硬化剤との間に働く「酸と塩基の相互作用」(注1)が、接着性を高める重要な要因であることを、明らかにしました。さらに、シランカップリング剤に含まれる水酸基のルイス酸性度の違いに注目し、実験と理論シミュレーションを組み合わせることで、分子レベルで強い接着を生み出す、これまで見過ごされてきた界面での相互作用を発見しました。

 この成果により、自動車や航空機で進められている異なる材料同士を接合する技術において、接着の長期安定性や信頼性を高めるための新たな指針が示されました。今後は、より高性能な接着剤や表面処理技術の開発につながるとともに、さまざまな産業分野への応用が期待されます。

 本研究成果は、2026年1月26日に、英国学術誌RSC Applied Interfacesにオンライン掲載され、Journal Outside back coverに選ばれました。

■研究の背景

 自動車のEV化や低燃費化の流れを受け、車両に使われる部材では、金属や樹脂などの複数の材料を組み合わせるマルチマテリアル化が急速に進んでいます。それに伴い、従来の溶接に代わる手法として、接着剤を用いた接合技術の重要性が高まっています。異なる材料を接着する界面では、接着剤に含まれるアミン成分が界面付近に集まりやすいことが、複数の研究で報告されていました(参考文献1,2)。しかし、なぜアミンが界面に集まるのか、またそれが接着の強さにどのように関係しているのかは、十分に解明されていませんでした。一方で、軽量金属の代表であるアルミニウムでは、湿気の多い環境下で酸化が進み、接着不良を引き起こすことが問題となっています。その対策として、研究チームでは表面をシランカップリング剤で覆い、金属の腐食を抑えながら接着性を保つ技術開発を進めてきましたが、この機能膜がどのような仕組みで接着に寄与しているのかは、ほとんどわかっていませんでした。

図1 4種類の異なる溶媒をOTS、BTSE、TMOSで処理したアルミニウム表面に接触させた時のスペクトルの様子。

研究の成果

 研究チームは、これまで材料表面や界面に存在する分子の情報を選択的に調べる手法として、和周波発生分光法(SFG分光法)(注2)を用いてきました。SFG分光法は、高強度のパルスレーザーを使い、材料を壊さずに界面での分子の振る舞いを詳しく調べることができます。このSFG分光法を用い、3種類のシランカップリング剤(OTS、BTSE、TMOS)(注3)で処理した表面の水酸基に注目して、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、トリエチルアミン(TEA)、ピリジンの4種類の異なる溶媒を接触させ調査しました。各溶媒と接した際の、基板表面に存在する水酸基のピークの位置の変化量から、それぞれのルイス酸塩基特性を調べました(図1)。その結果、基板表面に存在する水酸基のルイス酸性は、吸着するシランカップリング剤によって異なり、ルイス酸性が高い表面ほどエポキシ接着剤に対して強い接着強度を示すことを見出しました(図2)。

図2 OTS、BTSE、TMOSの3種類のシランカップリング剤処理Al表面および未処理Al表面のエポキシ接着剤に対する接着強度の違い。

 さらにスパコンを用いた大規模計算を用い、BTSEやTMOSの場合に吸着する分子により、表面の水酸基がH+(プロトン)を放出しやすい構造と放出しにくい構造があることを示しました。またその放出しやすさは、吸着する分子の種類とその吸着形態に強く依存しており、接着界面で高いルイス酸性を示す特定の構造が存在することを明らかにしました(図3)。

図3 BTSE分子が吸着したアルミニウムモデル表面の水分子との相互作用のシミュレーションの様子。黄色で色付けしてある分子が表面に吸着したBTSE分子。

 研究チームはさらに、エポキシ接着剤の硬化剤として用いられるジシアンジアミド(アミン系硬化剤で、ルイス塩基として作用)をDMF中に溶かし、シランカップリング剤で処理した表面との界面をSFG分光法で調べました。その結果、接着強度の高い表面ほど水酸基の信号変化が大きく、ジシアンジアミドが界面に強く引き寄せられている様子が観測されました。ルイス酸性の強い表面がアミンを強く引き付け、その相互作用が接着強度を高めているということが実験的に示されました。

今後の展望

 本研究により、接着界面では、接着剤が硬化し始める初期段階に、ルイス酸塩基相互作用が強く働くほど、硬化剤が界面に引き寄せられ、接着強度が高まることがわかりました。また、接着強度を高めるだけでなく、長期に安定した接着強度を維持するためには、基板表面と接着剤の間に強い分子間相互作用が形成されることが重要であることも示されました。分子レベルでの解析を取り入れることで、同じ接着剤を用いた場合でも、従来より高い接着強度や耐久性を引き出す表面処理方法の開発や、接着不良が生じる原因の解明に、本研究成果が役立つと期待されます。

■用語解説

注1)酸と塩基の相互作用:電子対を受け取る「ルイス酸」と、電子対を供与する「ルイス塩基」が、接着剤(接着層)と被着材(表面)の界面で結合を形成する化学的吸着メカニズム。この相互作用は、分子軌道理論(LUMOとHOMOの相互作用)で説明され、物理的な分子間力よりも強力な界面相互作用を生み出す。

注2)和周波発生分光法(SFG分光法):非線形分光法と呼ばれるレーザー分光法の一つ。液体や高分子フィルムの表面、界面構造や生体膜界面の構造解析などに使われている。周波数Aのレーザー光を波長固定の可視光、周波数Bのレーザー光を波長可変の光とし、この2つのレーザー光を試料に同時に照射し、出てくる和の周波数(A+B)の光を検出する手法。この和の周波数を持った光は、ほとんどの物質の内部では発生せず、表面や界面だけから出てくる性質があるため、物質の表面や界面の分子の振る舞いだけを選択的に調べることができる。

注3)OTS、BTSE、TMOS:OTSはOctadecyltrimethoxysilane (化学式:H3C(CH2)17Si(OCH3)3)の略、BTSEは1,2-bis(triethoxysilyl)ethane (化学式:(C2H5O)3Si–CH2CH2–Si(OC2H5)3)、TMOSはTetramethoxysilane(化学式:Si(OCH3)4)。

■研究プロジェクトについて

 本研究の一部は科学研究費助成事業「プロトン化の第一原理計算で解明する水分による構造用接着剤-金属間の接着力低下」(JP23K26390)の⽀援を受けて行われました。計算の一部はHPCIシステム利用課題(hp240100, hp250132)の支援を受けて名古屋大学情報基盤センターのスーパーコンピュータ「不老」を用いて行われました。

■論文情報

タイトル:Adhesion Strength of Aluminium Surfaces Coated with Silane Coupling Protective Layers via Acid-Base Interactions

著者:Kumpei Kobori, Shuji Ogata, Shintaro Yamamoto, Yusuke Takahashi, Takayuki Miyamae

雑誌名:RSC Applied Interfaces

DOI:10.1039/D5LF00336A

■参考文献

1) タイトル:Visualizing interface-specific chemical bonds in adhesive bonding of carbon fiber structural composites using soft X-ray microscopy

雑誌名:Scientific Reports

DOI:10.1038/s41598-022-20233-4

2) タイトル:Segregation of an amine component in a model epoxy resin at a copper interface

雑誌名:Polymer Journal

DOI:10.1038/s41428-018-0129-4

3) 2025年3月21日公開プレスリリース有機ELを光らせながら内部の電位分布を調べる手法を開発~有機ELディスプレイの長寿命化・高効率化へ貢献~

4) 2024年1月24日公開プレスリリース目に見えない静電気を分子レベルで観測することに成功~材料固有の帯電特性の解明へ前進~

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会社概要

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URL
https://www.chiba-u.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月