認知症高齢者の「読みやすさ」をアイトラッキングで解明―文書改善とケアの重要性を提示―

国立大学法人千葉大学

 千葉大学大学院看護学研究院の犬山彩乃特任助教と諏訪さゆり教授らの研究グループは、認知症高齢者が文書を読む際の視線の動き(アイトラッキングデータ)を分析し、文書の「読みやすさ」を修正することに加え、個別支援を行うことが、読解に伴う負担を軽減する可能性があることを明らかにしました。本研究成果は、認知症患者の意思決定や日常生活の質を向上させるための情報提供のあり方について、今後の検討に示唆を与えるものです。

 本研究成果は2026年1月29日に、国際科学誌BMC Geriatricsでオンライン公開されました。

 (論文はこちら:10.1186/s12877-026-07030-8

■研究の背景

 世界で5,700万人を超える認知症患者にとって、薬の説明書や契約書などの「文字情報」を正しく理解することは、自律・自立した生活を送る上で極めて重要です。しかし、認知症に伴う記憶、注意、実行機能、言語機能などへの影響から、多くの患者が読解に困難を抱えているのが現状です。そこで研究グループは、視線の動きという客観的な指標を用いることで、どのような文書が「読みやすい」のか、その具体的な特徴を探索しました。

 

■研究の成果

 本研究では9名の認知症高齢者(75~90歳代、男性5名、女性4名)を対象に、アイトラッカーを使用して、文書読解時の視線の動きを可視化する「アイトラッキング」を実施しました。アイトラッカーには大きく分けてディスプレイ型とウェアラブル型があります。今回使用したのは眼鏡の形をしたウェアラブル型のアイトラッカーです。文書は内容や難易度が異なる2種類を使用しました。2種類それぞれに対して、元の文書と、その比較対象として読みやすさを考慮してフォントサイズ・行間・文字間隔の拡大、1文の短縮、および漢字割合の削減(約39%→27〜30%)を行った「修正バージョン」を使用しました。また、読解方法としては「音読」と「黙読」の両パターンを分析対象としました。

 分析の結果、以下のことが明らかとなりました。

・文書難易度の違いによる比較

 元の文書2種を難易度の高低で比較すると、難易度の低い文書は「読み飛ばし(p=0.046)(注1)」や「誤読(p=0.050)」が有意に少ないという結果でした。これは、文字数や漢字の少なさが認知負荷を軽減し、注意力の持続を助けることを示唆しています。

・「修正バージョン」における変化:読解時間、注視回数、視線の逆戻りの改善

 元の文書と修正バージョンを比較したところ、特に音読を選択した参加者において、修正バージョンの使用により、読解時間(p=0.028)、注視回数(p=0.046)、視線の逆戻り(p=0.046)が有意に改善されました。なお、黙読を選択した参加者においては、統計的な有意差は確認されませんでした。この結果は、文書の修正による効果が音読の利点(声と視線が同調し、集中力が高まる)によってさらに高められたためと考えられます。

・個別支援の必要性

 アイトラッカーにて記録した文書読解時の映像をもとに、認知症高齢者の読解の様子について質的分析を行った結果、文書の修正だけでは不十分な点も明らかになりました。支援者による「読む箇所の指差し」や、「読み始めのタイミングを促す」といった働きかけが、読解の完了を後押ししていました。

■今後の展望

 本研究は、認知症高齢者への情報伝達において、「読みやすい文書の作成」と「環境や個人の能力に応じた個別支援」の双方が効果的であることを示しました。特に視線移動時の標的となりやすい漢字の割合については、単に割合を減らすのではなく、3〜4文字に1回の頻度(約30%前後)で適切に配置することが、スムーズな視線移動を促すための一つの目安となる可能性が示されています。

 本研究は探索的研究であり、対象者数、使用した文書、言語等の限界はありますが、得られた結果は、医療・介護現場での説明用ツールの改善や、社会における情報のユニバーサルデザイン化を推進する上で重要な知見となります。

■用語解説

注1)p 値(p):研究や調査で得られた結果が偶然によるものかどうかを判断する指標。一般的にp<0.05だと、偶然だとは考えにくいとされる。

■論文情報

タイトル:Eye movement and reading behavior in older adults with dementia

著者:Ayano Inuyama, Motoshi Ouchi, Shigeki Hirano, Sayuri Suwa

雑誌名:BMC Geriatrics

DOI:10.1186/s12877-026-07030-8

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会社概要

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URL
https://www.chiba-u.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月