【ファンケル研究情報】新たなアミノ酸系界面活性剤の開発に成功
洗顔後の肌感触の良さと優れた保湿機能を検証
<研究背景・目的>
洗顔料には肌の汚れを落とす機能のみならず、洗顔後の肌感触の良さも求められます。洗顔料の重要な成分である洗浄成分の中で、アミノ酸系界面活性剤※1は、肌へのやさしさや安全性の高さから多くの洗顔料に使用されています。
そこで、アミノ酸系界面活性剤の特徴である肌へのやさしさを維持し、洗顔後の肌感触の良さを追求した新たなアミノ酸系界面活性剤の開発を目指しました。さらに、開発した界面活性剤の機能性や肌感触についても検証とその要因の解析を行いました。
<研究方法・結果>
【新規アミノ酸系界面活性剤の開発に成功】
新規アミノ酸系界面活性剤を設計するにあたり、水になじみやすい部分として、一般的に用いられるアミノ酸の中でも泡立ちや感触の面から汎用されるグリシンと、油分になじみやすい疎水基部分として脂肪酸の組み合わせを、検討しました。その結果、グリシンと脂肪酸のオレイン酸※2による新規アミノ酸系界面活性剤として「オレオイルグリシンK」(図1)の開発に成功しました。
【洗顔後の肌感触を専門家による官能評価で実施】
「オレオイルグリシンK」を配合した洗顔料を作成し、泡立ちや泡の状態、洗顔後の洗い上がりの肌感触について10人の専門パネルによる官能評価を行いました。
その結果、既存のアミノ酸系界面活性剤を用いた洗顔料処方と比較し、「オレオイルグリシンK」を配合した洗顔料は、すべての項目で評価が高く、泡立ちや泡質など洗顔料に求められる機能を有していました。特に洗い上がりの「ツルツル感」や「しっとり感」などにおいて有意に評価が高いことが確認され、洗顔後の肌感触の良さが分かりました(図2)。
【洗顔後の高評価項目「ツルツル感」と「しっとり感」について物証評価を実施】
①「ツルツル感」
洗顔後の「ツルツル感」については、洗浄後の肌に対するスカム※3の吸着と脱落の関係性を用い、「オレオイルグリシンK」を洗顔料に汎用されるアミノ酸系界面活性剤「ラウロイルグリシンK」「ミリストイルグリシンK」と比較評価しました。
その結果、「オレオイルグリシンK」は、肌への吸着量が時間とともに増加していく傾向が確認され(図3左グラフ)、その吸着物は粘弾性※4が高いことが分かりました(図3右グラフ)。
次に、「オレオイルグリシンK」と水道水中の金属イオンで形成されたスカムの構造を、X線にて構造解析(X線小角散乱法※5)を行いました。
その結果、「ラメラ※6」と呼ばれる層状の構造体が形成されていることが確認されました。
これらより「オレオイルグリシンK」は、水道水中の金属イオンと形成するスカムが、ほかのアミノ酸系界面活性剤と比較すると、ラメラ層構造を持つ厚い膜を形成して高い粘弾性の性質を有することが確認されました。このスカムが「洗顔後のツルツル感」という感触の良さに関与していると示唆されました。
②「しっとり感」
もう一つの高評価項目である洗顔後の「しっとり感」を確認するため、肌の水分量について「ココイルグリシンK」と比較検証しました。
前腕内側部を5回洗浄した後、肌の水分量を測定した結果、「ココイルグリシンK」は、洗浄前に比して大きく水分量が低下しましたが、「オレオイルグリシンK」は、水分量が低下しないことが確認されました(図5)。つまり、洗顔後の肌の水分量は維持されていることが示唆されました。
以上より、アミノ酸系界面活性剤「オレオイルグリシンK」は、洗い流し時の水道水中の金属イオンから形成されるラメラ層状の構造を持つスカムが、肌に吸着して厚い膜を形成することが分かりました。この形成されたスカムの膜は粘弾性が高く、応力※7に対して流動性を持つ性質から洗い上がりの「ツルツル感」という肌感触の良さにつながったと考えられます。
さらに「オレオイルグリシンK」は、洗浄後も肌に吸着した膜で肌から水分の蒸散を抑制し、肌の水分量が低下せず保湿機能を維持することから、洗い上がりの「しっとり感」が実感できることが考えられます。
<今後の展開>
「オレオイルグリシンK」は、これまでのアミノ酸系界面活性剤と比較しても同等以上の泡立ちなどの使用性を持ち、さらに独特の洗い上がりの肌感触を持つ特徴があることが分かりました。今後も既存の素材に留まることなく、安全性と機能性の高い素材を開発し、肌を美しくするとともに心地良い肌感触を持つ化粧品の開発に注力してまいります。
【用語説明】
※1 アミノ酸系界面活性剤
脂肪酸とアミノ酸から作られる界面活性剤。肌と同じ弱酸性で低刺激なマイルドな洗浄力が特徴。
※2 オレイン酸
オリーブ油などの植物油に多く含まれている脂肪酸(脂肪酸=脂質を構成する重要な成分)。
※3 スカム
界面活性剤と水中のカルシウムなどの2価の金属塩が結合してできた不溶性の析出物。
※4 粘弾性
物体に外力を与えると変形のしやすさを弾性、流れやすさを粘性といい、ゴムやプラスチックのように弾性と粘性が共存している状態。
※5 X線小角散乱法
物質にX線を照射したときに生じる散乱像から物質の構造を分析する手法。
※6 ラメラ
層状の組織や構造体が繰り返し重なり合った構造。
※7 応力
物体の内部に生じる力の大きさや作用方向を表現するために用いられる物理量。物体の変形や破壊などに対する負担の大きさを検討するのに用いられる。
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