小さな魚「ゼブラフィッシュ」が難病解明の鍵に! ~若年性認知症「カダシル」の再現に成功~
千葉大学大学院医学薬学府4年博士課程の加納 永梧氏(研究当時)と同大大学院薬学研究院の伊藤 素行教授、公益財団法人かずさDNA研究所の長谷川 嘉則グループ長、小原 收副所長らの研究グループは、千葉大学真菌医学研究センター、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構との共同研究により、ゼブラフィッシュ(注1)を利用して遺伝性脳小血管病「CADASIL(カダシル)(注2)」の新しい疾患モデルを世界に先駆けて確立しました。本モデルを用いた解析の結果、脳血管周囲での「IV型コラーゲン(注3)」の機能低下が病態進行に関わっていることが明らかになりました。この発見は、これまで根本的な治療法がなかった本疾患の新たな治療ターゲットの特定につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年6月3日に、学術誌Acta Neuropathologica Communicationsで公開されました。
(論文はこちら:10.1186/s40478-026-02333-8)

■研究の背景
CADASILは、脳の細い血管が傷つき、若年期から脳梗塞や認知症を引き起こす深刻な病気です。 原因はNOTCH3(注4)遺伝子の異常ですが、多様な変異が知られており、現れる症状が異なることも知られています。これまで従来のマウスモデルでは、ヒトで見られる記憶障害や脳萎縮を十分に再現できないという課題がありました。そこで本研究グループは、ヒトに近い血管構造や老化過程を持つゼブラフィッシュに着目し、病態再現と進行機構の解明を目指しました。
■研究成果のポイント
①ヒトの病態を再現: 本研究で確立したゼブラフィッシュCADASILモデルでは、加齢に伴って脳の血流が減り、記憶力が低下するといった、ヒトの患者さんと共通する病気の経過が確認されました。
②「コラーゲン」の減少を発見: 最新の解析により、病気のゼブラフィッシュの脳では、血管を支える役割を持つ「IV型コラーゲン」とそれに関係する物質が減少していることが分かりました(図)。
③「特定のアミノ酸変異」による影響: AI(AlphaFold3)による構造解析から、この変異は脳出血を起こしやすい患者に共通する特徴を持ち、日本を含む東アジアに多いタイプであることが示されました。
■今後の展望(研究者コメント)
本研究はCADASILの原因遺伝子変異とIV型コラーゲンの関係の理解に向けた新たな知見を提供するものであり、新たな治療標的の同定が期待されます。また、本研究により、ゼブラフィッシュがマウスモデルを補完し、ヒトの病態を再現できる有用なモデルであることが示されました。今後は、多様なNOTCH3変異を持つモデルの作製・解析により、CADASILの発症メカニズムの解明がさらに進むと期待されます。
■用語解説
注1)ゼブラフィッシュ:インド原産の硬骨魚類に属する小型淡水魚で、飼育が容易かつ多産で早育等の理由から広く研究に用いられている。従来は胚を用いて個体発生を研究するモデルとして活用されることが多かったが、近年は老化を研究するモデルとしても注目を集めている。
注2)CADASIL(カダシル):厚生労働省指定難病124番「⽪質下梗塞と⽩質脳症を伴う常染⾊体優性脳動脈症」の英語略称。脳の⼩さい⾎管が障害されることで脳卒中(脳梗塞と脳出⾎)を繰り返して、認知症を発症する。通常、NOTCH3タンパク質のアミノ酸残基が一つ別のアミノ酸に置き換わることで発症するため、CADASILを発症すると言われている「NOTCH3遺伝子の変異」は200種類以上も報告されている。
注3)IV型コラーゲン:細胞と組織の間に存在し、細胞を支える「基底膜」を構成する主要成分で、血管周囲では網目状構造を形成し、血管の強度や柔軟性を維持する役割を果たす。
注4)NOTCH3:細胞膜に存在する受容体タンパク質 Notch の⼀種。細胞外および細胞内領域によって構成される。⾎管周囲の細胞に多く発現して、細胞の増殖や⽣存を促す役割を果たす。
■論文情報
タイトル:Age-Dependent Vascular and Neurological Characteristics of CADASIL Are Recapitulated in Notch3 Mutant Zebrafish, Implicating a Role for Type IV Collagen in Disease Progression
著者:Tohgo Kanoh, Shiho Oubayashi, Kengo Furukawa, Kosuke Fujimoto, Amane Inoue, Takamasa Mizoguchi, Masashi Yamaguchi, Azusa Takahashi-Nakaguchi, Yoshinori Hasegawa, Osamu Ohara, Ichio Aoki, Motoyuki Itoh
雑誌名:Acta Neuropathologica Communications
DOI: 10.1186/s40478-026-02333-8
■研究プロジェクトについて
本研究は以下の研究助成金を受けて実施されました。
・日本学術振興会(JSPS):基盤研究(B) (JP18H02568, JP21H02621), 基盤研究(C) (JP25K09486), 特別研究員奨励費 (JP25KJ0721), J-PEAKS (JPJS00420230002)
・科学技術振興機構(JST):全方位・挑戦的融合イノベーター博士人材養成プロジェクト(JPMJSP2109) 革新医療創生CHIBA卓越大学院プログラム
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