ベネッセ教育総合研究所 「第4回幼児教育・保育についての基本調査」 保育者の7割が「職場・仕事に満足」の一方で、8割は「事務作業量が負担」
~負担感が少なく、園に一体感があると感じている保育者ほど仕事に満足感~
株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山県岡山市、代表取締役社長:小林 仁)の社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所は、2023年11月から12月にかけて、日本全国の幼稚園・保育所・認定こども園の園長と保育者を対象に「第4回幼児教育・保育についての基本調査」を実施しました。
現在、日本の保育者の有効求人倍率は全職種平均よりも高く、保育者不足が深刻な問題となっています。その中で、社会環境や政策の変化により、園には多様な役割が期待され、保育者にはより高い専門知識や技量が求められています。この状況に対応するためには、保育者が仕事に満足できる環境を整え、離職を防ぐ支援が必要です。今回の調査では、その方策を検討するため、保育者の仕事に対する満足感や負担感の実態を把握し、それらに影響を与える要因を分析しました。
その結果、保育者の7割が職場や仕事に満足している一方で、8割が事務作業量の多さに負担を感じていることがわかりました。また、事務作業量や労働時間などの負担感が少ないほど、保育者の仕事満足感が高い傾向が見られました。さらに、仕事の満足感が高い保育者が勤務する園は全体に一体感があり、保育者同士の連携がとれていること、園長がマネジメント力を発揮していることが明らかになりました。園が一体感を持って保育に取り組むことで、仕事満足感の向上につなげることができると考えられます。
ベネッセ教育総合研究所では、この調査結果をさらに分析し、保育者が働きやすい環境やより良い保育実践のあり方について提案していく予定です。
調査の主な結果は、以下の通りです。
1.保育者の仕事満足感:職場や仕事に満足しているが7割
保育者の82.1%が「職場の人間関係は良好」、74.8%が「自分の仕事に満足」、73.6%が「自分の職場に満足」と回答。 一方、「給与と仕事量のバランスはとれている」と肯定した回答者は27.4%にとどまる。
2.保育者の仕事負担感:8割が事務作業量の多さに負担を感じている
79.4%が「事務作業の量が多くて負担」、66.9%が「配慮の必要な子どもへの対応が負担」、63.8%が「子どもを預かる責任が重く負担」、56.4%が「研修時間が確保できない」と回答。
3.保育者が認識する園の状況:子どもの姿を語り合うのは9割、キャリア形成を考えた人材育成は7割
94.9%が「保育者同士が子どもの姿をよく語り合っている」、86.5%が「安心できる雰囲気がある」、75.3%が「園長はマネジメント力を発揮している」、65.7%が「保育者のキャリア形成を考えた人材育成を行っている」と回答。
4.負担感別にみた保育者の仕事満足感:負担感が低い保育者は仕事満足感が高い
事務作業量の多さ、長時間労働、子どもを預かる責任の重さといった負担感が少ない保育者は、そうでない保育者と比べて仕事満足感が10ポイント以上高い。
5.園の状況別にみた保育者の仕事満足感:園に一体感があると感じている保育者は仕事満足感が高い
園全体に一体感がある、保育者同士の連携がとれている、園長がマネジメント力を発揮していると感じている保育者は、そうでない保育者と比べて仕事満足感が約20~30ポイント高い。
【調査分析:今後の保育・幼児教育に求められるものとは?】
ベネッセ教育総合研究所 研究員 野﨑 友花
■保育の課題は“量”の確保から“質”向上へ
少子化の進行によって待機児童の問題はほぼ解消され、保育・幼児教育の課題は「量の確保」から「質の向上」へとシフトしています。特別な支援を要する子どもの受け入れや保護者の子育て支援など、園にはこれまでにない多様なニーズに応えることが求められています。さらに、2017年には「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」が改訂され、「幼保小の架け橋プログラム」が実施されました。これにより、「主体的な遊び」を重視する園や、小学校と協働・連携する園などが増え、保育・幼児教育の実践にも変化がみられます※1。
■仕事満足感と仕事負担感に関連あり
社会環境や政策の変化に対応するためには、保育者が仕事に満足できる環境を整えて離職を防ぐ支援が必要です。しかし、本調査の結果では、保育者の7割が職場や仕事に満足している一方で、8割が「事務作業の量が多くて負担」、7割が「配慮の必要な子どもへの対応が負担」、6割が「研修時間が確保できない」と答えています。多くの保育者が高い負担感を抱えていることがわかります。さらに調査結果を分析したところ、仕事満足感と仕事負担感には関連があることが明らかになりました。負担感を軽減する取り組みを行うことで満足感のさらなる向上が期待できます。保育者の負担を軽減し、働きやすい環境を整えることは、社会的な課題といえます。
■園内での取り組みの充実が保育者の仕事満足感に寄与
また、園全体に一体感があるなどの状況が満足感の上昇に重要であることもわかりました。すでに9割が「保育者同士が子どもの姿をよく語り合っている」「安心できる雰囲気がある」、8割が「園長はマネジメント力を発揮している」と回答しており、多くの園では一体感を持った実践ができています。このような園の状況は、保育者の仕事満足感を高めることに貢献しています。一方で、園の一体感を感じていない保育者は、十分な仕事満足感が得られていません。今後は、保育者同士の連携や園長のマネジメントといった園内での実践を充実させるような支援が一層求められると考えます。
※1 ベネッセ教育総合研究所「第4回幼児教育・保育についての基本調査 ダイジェスト版」参照
(https://benesse.jp/berd/jisedai/research/pdf/240708-1_all.pdf)
【調査データ】
1.保育者の仕事満足感:職場や仕事に満足しているが7割
保育者の82.1%が「職場の人間関係は良好」、74.8%が「自分の仕事に満足」、73.6%が「自分の職場に満足」と回答。 一方、「給与と仕事量のバランスはとれている」を肯定したのは27.4%にとどまる。
◆図1:仕事満足感(%)
※2023年調査 保育者全体の回答(n=15,143)。
※単一回答。
※「とてもあてはまる+まああてはまる」の%。
2.保育者の仕事負担感:8割が事務作業量の多さに負担を感じている
79.4%が「事務作業の量が多くて負担」、66.9%が「配慮の必要な子どもへの対応が負担」、63.8%が「子どもを預かる責任が重く負担」、56.4%が「研修時間が確保できない」と回答。
◆図2:仕事負担感(%)
※2023年調査 保育者全体の回答(n=15,143)。
※単一回答。
※「とてもあてはまる+まああてはまる」の%。
3.保育者が認識する園の状況:子どもの姿を語り合うのは9割、キャリア形成を考えた人材育成は7割
94.9%が「保育者同士が子どもの姿をよく語り合っている」、86.5%が「安心できる雰囲気がある」、75.3%が「園長はマネジメント力を発揮している」、65.7%が「保育者のキャリア形成を考えた人材育成を行っている」と回答。
◆図3:園の状況(%)
※2023年調査 保育者全体の回答(n=15,143)。
※単一回答。
※「とてもあてはまる+まああてはまる」の%。
4.負担感別にみた保育者の仕事満足感:負担感が低い保育者は仕事満足感が高い
事務作業量の多さ、長時間労働、子どもを預かる責任の重さといった負担感が少ない保育者は、そうでない保育者と比べて仕事満足感が10ポイント以上高い。
◆図4:保育者の仕事満足感(負担感別)(%)
※2023年調査 保育者全体の回答(n=15,143)。
※肯定群は各質問に「とてもあてはまる」「まああてはまる」と回答した保育者、否定群は「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」と回答した保育者。
※「仕事満足感」は「自分の仕事に満足している」に対して「とてもあてはまる」「まああてはまる」と回答した比率。
5.園の状況別にみた保育者の仕事満足感:園に一体感があると感じている保育者は仕事満足感が高い
園全体に一体感がある、保育者同士の連携がとれている、園長がマネジメント力を発揮していると感じている保育者は、そうでない保育者と比べて仕事満足感が約20~30ポイント高い。
◆図5:保育者の仕事満足感(園の状況別)(%)
※2023年調査 保育者全体の回答(n=15,143)。
※肯定群は各質問に「とてもあてはまる」「まああてはまる」と回答した保育者、否定群は「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」と回答した保育者。
※「仕事満足感」は「自分の仕事に満足している」に対して「とてもあてはまる」「まああてはまる」と回答した比率。
【調査概要】
名称 |
第4回幼児教育・保育についての基本調査 |
調査テーマ |
園の環境・体制、教育・保育活動などに関する実態と、園長・保育者の意識 |
調査時期 |
2023年11月~12月 |
抽出方法 |
園抽出:全国の園のリスト (国公立・私立幼稚園、公営・私営認可保育所、公営・私営認定こども園)より、園児数29人以下かつ3~5歳の園児数が0の園は除外し、各都道府県で無作為に抽出した。 保育者抽出:園長に対して、担任クラス(0~2歳の乳児クラス2名、3~5歳の幼児クラス2名)、年齢、性別を考慮して保育者4名に配布するように依頼した。 |
調査方法 |
郵送による依頼 :1園につき園長1名と保育者4名に回答依頼 WEBによる回答:依頼を受けた園長・保育者はWEB画面にアクセスして回答 ※園発送数 16,488件 保育者最大配布数 65,952件 |
分析対象 |
全国の幼稚園、保育所、認定こども園に勤務する保育者 15,143名 ※本文書では保育者のみを分析対象としている。 ※本分析では、国公立・私立、公営・私営の設置形態に関する設問で「その他」と回答したケースも含めている。 |
研究メンバー ※所属・肩書は2023年12月時点 |
■調査監修 無藤隆(白梅学園大学名誉教授)、汐見稔幸(東京大学名誉教授)、荒牧美佐子(目白大学准教授)、小山朝子(和洋女子大学准教授) ■企画・分析 野﨑友花(ベネッセ教育総合研究所研究員)、高岡純子(ベネッセ教育総合研究所主席研究員)、森永純子(ベネッセ教育総合研究所主任研究員)、木村治生(ベネッセ教育総合研究所主席研究員)、加藤健太郎(ベネッセ教育総合研究所主席研究員)、岡部悟志(ベネッセ教育総合研究所主任研究員) |
※データに関する留意点・表記について
本文書で使用している百分率(%)は、各項目の算出方法に沿って出した値の小数点第2位を四捨五入して表示しています。
その結果、数値の和が100にならない場合があります。
【関連データ・参考情報のご紹介】
①ベネッセ教育総合研究所のホームページからも、調査結果をまとめたダイジェスト版をダウンロードできます。
■ここに紹介した以外のデータはこちらをご覧ください。
https://benesse.jp/berd/jisedai/research/pdf/240708-1_all.pdf
■監修者のコメントはこちらをご覧ください。
https://benesse.jp/berd/jisedai/research/pdf/240708-1_05.pdf
②現場の取組事例は下記の冊子をご覧ください。
■『これからの幼児教育』2023度 冬号 【特集】保育者のメンタルヘルスを考える
https://benesse.jp/berd/magazine/en/booklet/index_5903.html
■『これからの幼児教育』2022年度 春号【特集】園長を軸に考える 若手保育者の採用と定着
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