カスハラ対策、3割は未着手 対応方法に課題 被害企業は15.3% 被害「ない」は上昇、認知の広がりも背景か
カスタマーハラスメントに関する企業の実態調査(2026年9月)

株式会社帝国データバンクは、全国2万2,095社を対象に、カスハラに関する企業の実態についてアンケート調査を実施した。
SUMMARY
直近1年以内にカスハラや不当な要求などを受けたことが「ある」企業は15.3%となった。業界別では、一般消費者との接点が多い『小売』が3割で最も高かった。一方で、被害が「ない」とする企業は67.2%と前回調査から上昇した。また、カスハラへの対応策を実施・予定している企業は68.9%と約7割にのぼったものの、『特に取り組んでいない』企業も約3割存在し、具体的な対応方法が分からないことや、人員・費用面の制約を指摘する声もみられた。
調査期間:2026年9月14日~9月30日(インターネット調査)
調査対象:全国2万2,095社、有効回答企業数は1万235社(回答率46.3%)
直近1年でカスハラ被害が「ある」企業は15.3%
直近1年以内に自社もしくは自社の従業員がカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)や不当な要求などを受けたことがあるか尋ねたところ、「ある」と回答した企業の割合は15.3%となり、前回調査(2024年6月調査、15.7%)から0.4ポイント減と、大きな変化はみられなかった。企業からは、「感情的に自分の主観で暴言を吐くなどのカスハラは多数ある。SNSへの不当な書き込みも多い」(飲食店、小規模企業)といった声が聞かれた。
一方で、「ない」と回答した企業は同1.8ポイント増の67.2%と、前回調査から上昇した。企業からは、「カスハラという言葉を聞くようになってから、暴言、権威的な態度が減った」(不動産、小規模企業)や「コンプライアンスが周知されて以降は特に問題は起こっていない」(広告代理、小規模企業)のように、カスハラやコンプライアンスという概念の浸透が、問題行為の抑制につながりつつある可能性もうかがえた。
また、「分からない」と回答した企業は同1.3ポイント減の17.5%となった。カスハラに対する社会的な認知度の高まりや、企業内での方針・対応ルールの周知などが、これまで判断が難しかった言動を認識する一助となっている可能性がある。一方で、「カスハラ防止に取り組んでいるが、現場作業では該当するか否か断言できないグレーゾーンが多く、判断が難しいケースがある」(運輸・倉庫、小規模企業)のように、正当なクレームとカスハラとの線引きに苦慮し、今後の課題としている企業も複数みられた。

カスハラ被害が「ある」企業、BtoC業界で目立つ
直近1年以内にカスハラなどを受けたことが「ある」企業の割合を規模別にみると「大企業」が23.9%、「中小企業」が13.8%、うち「小規模企業」が12.3%となり、規模が大きいほどカスハラ被害を受けた企業の割合が高い傾向がみられた。「大企業」からは、「コールセンターであるためカスハラが発生しやすい現場ではあるが、アルバイトを含む従業員が極力働きやすい環境を引き続き整備していく」(その他サービス)や「過去1年間で、お客様相談室にカスハラに該当するとみられる事案が数件寄せられた」(飲食料品・飼料製造)などの声が聞かれた。「大企業」では、事業や顧客対応部門の規模によって顧客との接点が多いことに加え、顧客対応窓口や社内の報告体制を通じて、カスハラ事案が集約・把握されやすいことも、被害が「ある」と回答した企業の割合がより高い一因と考えられる。
業界別でみると、店頭で一般消費者と接し、返品や価格に関するクレーム対応の機会が多い『小売』(31.1%)がトップとなった。次いで、契約内容や補償、各種手続きなど顧客との利害調整が必要な場面が多い『金融』(26.8%)が20%台後半で続き、『不動産』(21.4%)、『サービス』(20.3%)も2割にのぼった。総じて、主に個人を顧客とするBtoC型の業界で比較的高い傾向がみられた。
企業からは、「小売業とサービス業をしていれば、どこでもカスハラのようなものは起こり得る。不当な要求は断固受け入れずに、ひどい場合は顧問弁護士に相談し対処している」(繊維・繊維製品・服飾品小売、小規模企業)や「顧客の意向に沿えなかった際に罵倒や暴言などを受けた」(金融[損害保険代理]、小規模企業)といった声が聞かれた。
一方で、企業間での取引が多い、いわゆるBtoB型の業界である『製造』(7.6%)や『卸売』(12.6%)などは全体を下回った。しかしながら、「取引上弱い立場にある企業である以上、元請けからの多少の不当なハラスメントには、従業員の生活を守るため耐えざるを得ない」(建設用石材・窯業製品卸売、中小企業)や「直接顧客よりも、元請け・取引先からのハラスメントは、関係性から対処が難しい」(建設、小規模企業)など、BtoB型の業界では、消費者ではなく取引先や元請け企業からのハラスメントを問題視する意見もみられ、取引上の立場から対応が難しいケースもうかがえた。

約7割の企業がカスハラへの対応策を実施
2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法により、カスハラの防止措置を講じることが、すべての事業主に義務付けられた。そこで、カスハラや不当な要求に対して、どのような対応策に取り組んでいるか、予定を含めて尋ねたところ、何らかの「取り組みあり」とする企業は68.9%と約7割にのぼった。背景には、カスハラに対する社会的な意識の高まりに加え、一部自治体における防止条例の施行や、上述の義務化があると考えられる。
一方で、「特に取り組んでいない」企業は29.7%と約3割に達した。企業からは、「どのように対応すべきか分からない」(建設、小規模企業)、「当社はBtoBの取引が中心であり、カスハラに該当する事象はほとんど発生していない。そのため、現時点では特別な対策や規定の整備は行っていない」(出版・印刷、小規模企業)といった声が聞かれた。具体的な対応方法が分からない企業のほか、これまで被害事例がなく、現時点で対策の必要性は低いと捉えている企業もみられた。また、「中小企業では大企業のような対応は難しいため、公的機関で相談窓口を作るなど支援をしてほしい」(不動産、小規模企業)との声も寄せられた。とりわけ「中小企業」に対しては、具体的な対応方法や義務化される措置内容に関する情報提供、体制整備に向けた支援の必要性がうかがえる。
対応策や取り組みの内容をみると、「従業員への企業方針・対応ルールの周知」(37.8%)が4割近くで最も高くなった。次いで、「カスハラを容認しない企業方針の策定」(28.6%)、「相談・通報窓口の設置」(27.2%)が続いた。また、「相談者の秘密保持・不利益防止」と「事実関係の確認体制・手順の整備」(ともに18.0%)は2割近くとなった。上位項目はいずれも、2026年10月からの義務化内容であり、企業では、方針策定や従業員への周知といった基本的な対応が比較的進んでいることが分かった。
一方で、「再発防止策の実施」(8.1%)、「顧客・取引先への方針の周知」(6.8%)、「カスハラ対応部署・担当者の設置」(6.5%)など、事後対応や対策の実効性を高める取り組みはいずれも1割未満にとどまった。特に、義務化項目の一つである「再発防止策の実施」は、直近1年以内にカスハラを受けた企業に限っても18.3%と2割未満にとどまり、実際に被害を受けた企業でも十分に進んでいない実態が明らかとなった。
また、規模別にみると、「大企業」の「取り組みあり」は82.6%と8割を超え、「中小企業」(66.5%)を16.1ポイント上回った。取り組み内容では、特に「相談・通報窓口の設置」が「大企業」で51.7%となり、「中小企業」の23.0%を30ポイント近く上回った。「当社は社長に直接相談できるため、体制整備等は考えていない」(飲食料品卸売、中小企業)との声もあり、従業員数が比較的少なく経営者との距離が近い「中小企業」では、専用の相談窓口を設ける必要性が低いと捉えているケースがみられた。また、人員や費用など経営資源の制約も、相談体制の整備が進みにくい背景にあると考えられる。

まとめ
本調査の結果、直近1年以内にカスハラや不当な要求などを受けたことが「ある」企業は15.3%となり、企業規模が大きいほど高い傾向がみられた。業界別では、一般消費者との接点が多いBtoC型の『小売』が3割で最も高かった。他方、BtoB型の『製造』などは全体を下回ったものの、元請け企業や取引先との力関係を背景に、取引上の立場から対応が難しいケースもうかがえた。
一方で、被害が「ない」と回答した企業は67.2%と前回調査から上昇しており、カスハラに対する社会的な認知の広がりが問題行為の抑制につながりつつある可能性もうかがえた。しかし、正当なクレームとカスハラとの線引きに苦慮し、今後の課題としている企業も複数みられた。
カスハラや不当な要求に対して何らかの取り組みを実施・予定している企業は約7割にのぼった。取り組み内容では、「従業員への企業方針・対応ルールの周知」や「カスハラを容認しない企業方針の策定」など、義務化で求められる基本的な対応が上位となった。他方、「特に取り組んでいない」企業も約3割に達し、対応方法が分からないとの声も聞かれた。
人手不足が深刻化し、従業員の確保・定着が経営上の重要課題となるなか、安心して働ける環境の整備は一段と重要性を増している。企業には、カスハラへの対応を従業員個人に委ねることなく、方針の策定や周知、相談・報告体制、悪質な事案への対処基準、再発防止策までを一体的に整備することが求められる。特に、対応方法が分からないことや、人員・費用面の制約が取り組みの壁となりやすい中小企業に対しては、具体的なマニュアルや研修資料の提供、外部相談窓口の整備など、実効性ある対策を後押しする支援が重要となろう。
企業からの声
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日ごろから言葉による圧力や値下げ要求などが非常に多い。しかし、お客様ありきの企業なので、我慢しなければならないことが多い(情報サービス、中小企業)
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暴言や長時間の電話による拘束、一方的で執拗な返金要求、半年にわたる謝罪文の要求、不当な電話取次ぎを断ったことによる窓口担当者への脅迫など、複数のカスハラを受けたことがある(化学品製造・中小企業)
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先方の確認ミスで不良品が発生したが、作り直すのは当然だと凄まれたうえ、作り直さないとホームページに書き込むといった脅迫を受けたことがある(出版・印刷、中小企業)
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市が悪質なカスハラ行為者の氏名公表を宣言して以降、クレーム電話が減った(各種商品小売、中小企業)
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対面からオンライン会議になり、カスハラが起こりにくい環境になった(専門サービス、大企業)
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社内でのカメラ設置により、被害はかなり減少している(運輸・倉庫、大企業)
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廃番となった商品を探すよう求められ、代替商品を提案したものの、全く同じ仕様の商品を探し続けるよう求められるなど理不尽な対応を受けた。どこまでがサービスなのか、線引きを明確にしておくべきだった(機械・器具卸売、中小企業)
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10月からの義務化にともない、カスハラ対策マニュアルを作成したが、外部からカスハラを受けることへの対策だけでなく、自社従業員が他社に対してカスハラを行っていないかにも注意を払うようになった(不動産、小規模企業)
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