「L.ラクティス プラズマ」の経鼻接種により上気道における抗ウイルス自然免疫記憶の形成を確認 呼吸器ウイルス感染症に対する新たなワクチン開発への応用に期待
キリンホールディングス株式会社(社長 COO 南方健志、以下キリン)のヘルスサイエンス研究所(所長 村島弘一郎)は、国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所(所長 俣野哲朗)との共同研究において、キリン独自の乳酸菌素材である「L.ラクティス プラズマ」が自然免疫記憶※1を誘導するメカニズムの一端を明らかにしました。本研究では、「L.ラクティス プラズマ」を経鼻接種した際に、自然免疫反応※2に関連する遺伝子に変化が生じ、抗ウイルス応答に関わる遺伝子群が活性化することを確認しました。獲得免疫記憶※3を利用する一般的なワクチンは主として特定の病原体に対する抗原特異的な免疫応答を誘導しますが、自然免疫記憶は幅広い病原体に対する免疫反応を可能にすることが期待されます。この成果は、「L.ラクティス プラズマ」の新たな免疫制御メカニズムを明らかにしたものであり、未知の感染症(Disease X※4)に備える“自然免疫メモリー誘導ワクチン”開発への応用が期待されます。本研究成果は新潟県で開催された、第30回日本ワクチン学会・第67回日本臨床ウイルス学会合同学術集会(2026年9月26日(土)~9月27日(日))で発表しました。
※1 自然免疫が、一度刺激を受けるとその経験を記憶し、次に刺激を受けた際により効果的に反応できるようになる仕組みのこと。
※2 生まれつき備わる、すばやく働く「体の初期防御」として働く免疫反応。
※3 病気等に反応して獲得する、特定の相手に強く効く「記憶する防御」として働く免疫反応。
※4 「未知の感染症」を意味し、将来出現する可能性のある新たな病原体による公衆衛生上の脅威を想定した概念のこと。
キリンは、2021年に国立感染症研究所と「L.ラクティス プラズマ」の医薬品開発に関する共同研究を開始しました。これまでに「L.ラクティス プラズマ」で刺激した形質細胞様樹状細胞(以下、pDC)の培養上清が、新型コロナウイルスの増殖抑制に寄与することを確認し※5、2024年3月には、「L.ラクティス プラズマ」が、新型コロナウイルスをはじめとする呼吸器ウイルス感染を予防する手段となり得る点が評価され、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の先進的研究開発戦略センター(以下、SCARDA)が公募した、「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業」への採択が公開されています※6。2024年11月に「乳酸菌L.ラクティス プラズマ」の経鼻接種による新型コロナウイルスおよびインフルエンザウイルスへの増殖抑制効果※7、25年11月には新型コロナウイルス増殖抑制効果に関する作用機序の解明について非臨床実験にてLGG乳酸菌®との比較解析により確認したことを発表しました。※8 「L.ラクティス プラズマ」は、自然免疫記憶の誘導により感染症リスクの低減に寄与する可能性が考えられるため、その作用機序については、今後も継続して検証を行っていきます。
※5 Ishii et al, BBRC 662:26, 2023.
※6 キリンホールディングス ニュースリリース 2024年5月8日(水)
※7 キリンホールディングス ニュースリリース 2024年11月18日(月)
「乳酸菌L.ラクティス プラズマ」の経鼻接種によって新型コロナウイルスおよびインフルエンザウイルスへの増殖抑制効果を確認 | 2024年 | KIRIN - キリンホールディングス株式会社
※8 キリンホールディングス ニュースリリース 2025年11月26日(水)
「L.ラクティス プラズマ」の経鼻接種による新型コロナウイルス増殖抑制効果に関する作用機序を解明 | 2025年 | KIRIN - キリンホールディングス株式会社
研究成果(概要)*非臨床段階の実験
鼻腔粘膜細胞における抗ウイルス遺伝子の発現誘導を確認
L.ラクティス プラズマを経鼻接種した後、鼻腔粘膜細胞における抗ウイルス遺伝子(Isg15)の発現を解析しました。その結果、 L.ラクティス プラズマ接種群では対照群と比較して、接種6時間後には遺伝子発現が増強し、その傾向は24時間後も持続していました。(図1)このことから、上気道(鼻腔領域)で速やかな抗ウイルス自然免疫応答が誘導されることが示唆されました。

図1. 経鼻接種6時間後から24時間後の抗ウイルス遺伝子(Isg15)の発現増加
自然免疫記憶の増強を確認
L.ラクティス プラズマ経鼻接種から3日後または7日後に回収した鼻腔粘膜細胞を、病原体を模したCpGで刺激した結果、この遺伝子発現が接種3日後および7日後においても高く誘導されることが確認されました(図2)。特に、接種から7日後においても反応が認められたことから、L.ラクティス プラズマによる免疫活性化は一過性の反応にとどまらず、病原体を模したCpG刺激時の自然免疫反応の感度および迅速性を高める可能性が示唆されました。

図2. 経鼻接種後CpG刺激による抗ウイルス遺伝子(Isg15)の発現増加
■得られた示唆
これらの研究結果から、L.ラクティス プラズマ経鼻接種は、上気道において抗ウイルス遺伝子の発現を速やかに増強させるとともに、最終接種から少なくとも7日後においても、外敵に遭遇した際に抗ウイルス遺伝子が発現しやすい状態にあることが確認されました。このことから、L.ラクティス プラズマ経鼻接種により「自然免疫記憶」が形成される可能性が示唆されました。
キリングループは、「L.ラクティス プラズマ」の研究開発を通じて、世界の人々の健康へ貢献していきます。
「L.ラクティス プラズマ」経鼻接種による自然免疫応答に関する解析について
背景・目的
自然免疫反応は、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどの呼吸器ウイルス感染症において感染防御や増殖抑制に重要な役割を担っています。新型コロナウイルスのパンデミックを契機に、日本政府は令和3年6月1日に閣議決定された国家戦略「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を踏まえ、今後脅威となりうる感染症に対応できるよう、令和4年3月にSCARDAを設立し、ワクチン開発支援を進めてきました。ワクチン接種は、ウイルスや細菌等の病原体に対する防御免疫を作り出すことが目的であり、病原体抗原を標的とする抗体やT細胞を誘導することによって効果を発揮します。一方で、自然免疫反応を誘導するワクチンの可能性が模索されていますが、現時点では実用化には至っていません。
キリンはこれまでの研究で、「L.ラクティス プラズマ」が自然免疫細胞の一種であるpDCを活性化させ、IFN-α産生能を高める作用や感染症予防効果などを明らかにしてきました。さらに、24年11月に「L.ラクティス プラズマ」の経鼻接種による新型コロナウイルスおよびインフルエンザウイルスへの増殖抑制効果を非臨床実験にて報告しました。国立感染症研究所との共同研究は、自然免疫誘導型のワクチン開発を目的とし、呼吸器ウイルス感染症から世界中の人々を守ることを目指すものです。
今回の研究は、「L.ラクティス プラズマ」の経鼻接種による抗ウイルス遺伝子の誘導と自然免疫記憶の形成について検証するため、解析を行いました。
研究成果(概要)*非臨床段階の実験
鼻腔粘膜細胞における抗ウイルス遺伝子の誘導を確認
L.ラクティス プラズマを経鼻接種した後、鼻腔粘膜細胞における抗ウイルス遺伝子(Isg15、Oasl2、Rsad2)の発現を解析しました。その結果、 L.ラクティス プラズマ接種群では対照群と比較して、接種6時間後には遺伝子発現が増強し、その傾向は24時間後も持続していました。このことから、上気道(鼻腔領域)で速やかな抗ウイルス自然免疫応答が誘導されることが示唆されました。

添付資料図1. 経鼻摂取6時間後から24時間後の抗ウィルス遺伝子の発現増加(Isg15、Oasl2、Rsad2)
自然免疫記憶の増強を確認
L.ラクティス プラズマ経鼻接種から3日後または7日後に回収した鼻腔粘膜細胞を、病原体刺激を模したCpGで刺激し、自然免疫関連遺伝子や抗ウイルス遺伝子の発現を網羅的に解析しました。その結果、L.ラクティス プラズマ経鼻接種群では、対照群と比較してCpG刺激後に自然免疫関連遺伝子や抗ウイルス遺伝子の高い発現が認められました(図2)。

添付資料図2. 自然免疫関連遺伝子および抗ウイルス遺伝子の発現変動
また、対照群では、CpG刺激による抗ウイルス遺伝子(Isg15、Oasl2、Rsad2)の発現は限定的であった一方、L.ラクティス プラズマ経鼻接種群では、これらの遺伝子発現が接種3日後および7日後においても高く誘導されることが確認されました(図3)。特に、接種から7日後においても反応が認められたことから、L.ラクティス プラズマによる免疫活性化は一過性の反応にとどまらず、病原体刺激時の自然免疫反応の感度および迅速性を高める可能性が示されました。

添付資料図3. 経鼻接種後CpG刺激による抗ウイルス遺伝子の発現増加(Isg15、Oasl2、Rsad2)
※CpG:細菌やウイルスなどの病原体に特徴的なDNAの一部を模した物質
※各群の「●」は各試料のデータ、「ー」は平均値を表しています。
※グラフ内のIsg15、Oasl2、Rsad2は抗ウイルス遺伝子の名称
研究助成
本研究はSCARDAの令和5年度 ワクチン・新規モダリティ研究開発事業、「LC-Plasma 経鼻接種による自然免疫メモリー誘導ワクチン開発」(課題番号:JP243fa827030h0101)の支援を受けて実施されました。
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