【岡山大学】アメリカザリガニの知られざる繁殖生態を解明!~条件付特定外来生物に指定されたばかりの本種の効率的な防除の応用に期待~

国立大学法人岡山大学

2023(令和5)年 12月 7日
国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/




<発表のポイント>

  • アメリカザリガニは、2023年6月に環境省と農林水産省によって「条件付特定外来生物」に指定されました。効率的に防除を進めていくためには、繁殖生態に関する知見が必要となりますが、意外にも不明な点が多いのが実情でした。

  • 岡山県内のアメリカザリガニが定着した池で、1年間にわたり毎月、野外調査を継続的に実施した結果、抱卵メスは7月下旬から10月にかけて出現することが分かりました。また、10月初旬から翌年2月中旬にかけて、孵化したばかりの稚仔を抱えたメスが継続的に確認されました。

  • アメリカザリガニの成熟個体の形態には、繁殖可能時期のForm Iと繁殖できない時期のForm IIがありますが、成熟オスの第3・4歩脚に見られる小さな突起(鍵爪:Hook)のサイズがForm I・IIで有意に異なることを初めて確認しました。

  • 本研究で明らかとなった知見を踏まえて防除方法を検討すれば、絶滅危惧種を含む在来生物に対し深刻な被害を与えているアメリカザリガニの防除を、効率的に進めることが可能になると期待されます。



◆概 要

 国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)大学院環境生命科学研究科博士後期課程大学院生(当時)のQuang-Tuong Luongさん(応用生態学)、学術研究院環境生命自然科学学域(工)の中田和義教授(保全生態学)と勝原光希助教(植物生態学)らの研究グループは、アメリカザリガニの繁殖生態に関する新知見を明らかにしました。


 本研究の成果は、2023年10月31日に米国の国際学術誌「Journal of Crustacean Biology」の電子版に掲載されました。


 日本において本種は、親しみある身近な生き物として認識されがちですが、近年までに在来生物に対するさまざまな悪影響が国内外で明らかとなっています。このため本種は、2023年6月に環境省と農林水産省によって「条件付特定外来生物」に指定されました。本種の防除は国内外で進められていますが、効率的に防除を進めていくためには、「いつ、産卵するのか?」などの繁殖生態に関する知見が必要となります。しかし、本種の繁殖生態や生活史は、意外にも不明な点が多いのが実情でした。


 岡山県内の本種が定着した池で、1年間にわたり毎月、野外調査を継続的に実施した結果、抱卵メスは7月下旬から10月にかけて出現することが分かりました。したがって、西日本において本種は、夏から秋にかけて繁殖期を迎えることが明らかとなりました。


 また、10月初旬から翌年2月中旬にかけて、孵化したばかりの稚仔を抱えたメスが継続的に確認されました。秋の遅い時期に産卵したメスは卵を抱えたまま冬を迎えることになりますが、驚くことに、冬季の低水温下でも卵の発生は進行し続けて、孵化することが判明しました。


 本種の成熟個体の形態には、繁殖可能時期のForm Iと繁殖できない時期のForm IIがあり、Form IとIIを脱皮ごとに交互に繰り返す「型周期(Form alternation)」が見られることが知られています。今回の研究で、本種の成熟オスの第3・4歩脚に見られる小さな突起(鍵爪:Hook)のサイズがForm I・IIで有意に異なることが初めて確認されました。繁殖可能時期のForm Iで発達する鍵爪は、交尾の際にメスをしっかりと固定するのに役立つと考えられます。


 本種のメスは、1個体あたり数百個の卵を産みます。本研究で明らかとなった知見を踏まえて防除方法を検討すれば、絶滅危惧種を含む在来生物に対し深刻な被害を与えている本種の防除を、効率的に進めることが可能になると期待されます。


 なお、本情報は2023年12月6日に岡山大学ホームページで公開されました。



アメリカザリガニの抱卵メスの腹部アメリカザリガニの抱卵メスの腹部


アメリカザリガニの体サイズ(頭胸甲長)と抱卵数の関係アメリカザリガニの体サイズ(頭胸甲長)と抱卵数の関係


アメリカザリガニの抱稚仔メス(左)と母親の腹部で孵化した稚ザリガニ(右)アメリカザリガニの抱稚仔メス(左)と母親の腹部で孵化した稚ザリガニ(右)


アメリカザリガニの成熟オスのForm I個体(左)とForm II個体(右)。Form IではForm IIに比べハサミが大型化する。アメリカザリガニの成熟オスのForm I個体(左)とForm II個体(右)。Form IではForm IIに比べハサミが大型化する。



◆研究者からのひとこと

<Quang-Tuong Luong大学院生>

 私は現在、ベトナムの大学で研究を進めていますが、岡山大学大学院博士後期課程在学中に修得した外来種対策に関する技術と知識は、ベトナムの持続可能な淡水生態系を維持するうえで重要になると考えています。ベトナムを含む東南アジアでは、アメリカザリガニなどの外来ザリガニ類の分布に関する知見が不足していますので、今後明らかにしていきたいと思います。

Quang-Tuong Luong大学院生(当時)Quang-Tuong Luong大学院生(当時)


<中田和義教授>

 ザリガニ類の研究を始めて約25年になりますが、アメリカザリガニの成熟オスの脚にある鍵爪のサイズが脱皮ごとに大小に変わることは、今回の研究で初めて気がつきました。まだまだザリガニ類のことを理解できていないと痛感したとともに、生き物の生態の奥深さを実感しました。本種は捕食などを通じて絶滅危惧種を含む水生生物に甚大な被害を与えています。今回の成果が本種の効率的な防除の実現につながることを期待しています。


中田和義教授中田和義教授



◆論文情報
 論文名: Reproductive biology of the introduced red-swamp crayfish Procambarus clarkii (Girard, 1852) (Decapoda: Astacidea: Cambaridae) in western Japan
 邦題名:「西日本における外来種アメリカザリガニの繁殖生態」
 掲載誌: Journal of Crustacean Biology
 著 者: Quang-Tuong Luong、Rika Shiraishi、Tadashi Kawai、Koki R. Katsuhara、Kazuyoshi Nakata
 D O I:  https://doi.org/10.1093/jcbiol/ruad063
 U R L:  https://academic.oup.com/jcb/article/43/4/ruad063/7334409



◆詳しいプレスリリースについて

 アメリカザリガニの知られざる繁殖生態を解明!~条件付特定外来生物に指定されたばかりの本種の効率的な防除の応用に期待~

 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r5/press20231206-1.pdf



◆参 考

・岡山大学大学院環境生命自然科学研究科

 https://www.elst.okayama-u.ac.jp/

・岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域(工)応用生態学研究室

 https://www.applied-ecology.eme.okayama-u.ac.jp/



◆参考情報

・【岡山大学】国内希少野生動植物種スイゲンゼニタナゴの新しい調査手法を開発!~水をくむだけの環境DNA分析で絶滅危惧種の保全を目指す~

 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001148.000072793.html



岡山大学津島キャンパス(岡山市北区)岡山大学津島キャンパス(岡山市北区)



◆本件お問い合わせ先
 岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域(工)教授 中田和義
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1 岡山大学津島キャンパス
 TEL:086-251-8872
 FAX:086-251-8872
 https://www.applied-ecology.eme.okayama-u.ac.jp/


<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
 岡山大学研究推進機構 産学官連携本部
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
 TEL:086-251-8463
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業種
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086-252-1111
代表者名
那須保友
上場
未上場
資本金
-
設立
1949年05月